トップページ > 特定医療法人

特定医療法人

特定医療法人とは・・・

租税特別措置法に基づく財団又は持分の定めのない社団の医療法人法人であって、その事業が医療の普及及び向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与し、かつ、公的に運用されていることにつき国税庁長官の承認を受けたもの(厚生労働省ホームページ掲載より引用)

特定医療法人の主な特徴

① 持分の定めのない医療法人へ移行時に非課税で移行できます。
② 特定医療法人として承認された場合は、法人税において22%(通常は30%)の軽減税率が適用されます。

平成21年3月期の所得で試算しますと、約3,600万円税額が減額となります。
(ただし、法人住民税、事業税は考慮していません。)
③ 申請時に国税局の訪問調査(2日間程度)があります。
通常の税務調査とは違い、ポイントとなるのは、役員等への特別な経済的利益の有無です。
④ 厳格な承認基準があります。
役員の構成基準等(親族制限3分の1制限)があります。
スケジュールが決まっているので遵守しなければなりません。
事前審査受付は、決算終了月の6ヶ月前(3月決算であれば9月末)までとなります。
⑤ 決算終了後3ヶ月以内に国税庁長官に報告書を提出しなければなりません。
要件遵守継続が原則。当然要件が遵守されていなければ取消しとなります。

特定医療法人制度FAQ(国税庁)

平成29年6月26日に国税庁より「特定医療法人制度FAQ」が公表されました。

http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/iryo/annai/pdf/seido_faq.pdf

医療法人の体系~特定医療法人の位置付け~

他の制度との相違点

特定医療法人制度は、医療法上に定められた法人類型ではありません。
租税特別措置法に根拠を置く税務上の制度であり、税制面で優遇措置の手当てをされた法人です。
一般の医療法人および社会医療法人との相違点は、次のように整理されます。


医療法人社会医療法人特定医療法人
根拠法医療法医療法租税特別措置法
認可・承認都道府県知事都道府県知事国税庁長官
要件◇ 役員数
理事3人
監事1人以上
◇ 役員数
理事6人
監事2人以上
同族割合1/3以下
◇「救急医療等確保事業」を実施
◇ 自由診療制度
◇ 役員の報酬支給基準
◇ 特別の経済的利益なし 等を満たすもの
◇ 役員数
理事6人
評議員12人以上
監事2人以上
同族割合1/3以下
◇ 差額ベッド30%以下
◇ 自由診療制度
◇ 給与(年間3,600万円以下)
◇ 特別の経済的利益なし 等を満たすもの
収益業務できないできるできない
法人税率30%非課税(収益・附帯22%)22%

持分なしへ移行した場合の課税関係

医療法人に対する法人税課税

持分の全部又は一部を払い戻さなかった場合は、受贈益等が生ずることとなり、本来であれば利益を構成することとなる。
しかし、税務上は、資本等取引に該当するため益金不算入となり利益積立金額となる(法令9①一へ、9の2①ト)

社団である医療法人で持分の定めのあるものが持分の定めのない医療法人となる場合において、持分の全部又は一部の払戻しをしなかったときは、その払戻しをしなかったことにより生ずる利益の額は、その医療法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額には算入しない(法令136の4②)

医療法人への贈与税課税

相続税法66条第4項
医療法人に贈与等をした者の親族その他これらの者と特別の関係にある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する場合には、法人を個人とみなして贈与税等を課する

不当に減少する場合とは・・・・

課税要件である「不当減少」であるか否かは相続税法施行令33条3項に規定

①運営組織が適正であるとともに、定款に役員等について親族や特殊関係者が3分の1以下と定めること
②法人に財産を贈与等した者に対して特別な利益を与えないこと
③定款に解散時の残余財産が国等に帰属する旨の定めがあること
④法人に法令違反等や公益に反する事実がないこと

上記非課税4要件を満たせば、「不当減少」とは認められないこととなる

しかし、実務上の取扱い上、「運営組織が適正」とは、具体的にはどういうことか疑問が生じる!?

運営組織が適正であること」の判定(法令解釈通達15)

①一定の事項が定款に定められていること
②事業運営及び役員等の選任等が適正に行われていること
③事業が社会的存在として認識される程度の規模を有していること

③事業が社会的存在として認識される規模とは・・・・

ア 社会医療法人
イ 特定医療法人
ウ 特定医療法人並みの基準を満たす法人
※ 自己の責任で移行するため、承認・認可等は必要ないが課税リスクがある

〔課税有り〕
医療法人が贈与税課税を受け移行
相続税評価相当額の払戻しを受け所得税課税を受けて移行

〔課税無し〕
特定医療法人の承認を受け移行(課税リスクなし)
特定医療法人なみの基準を満たし自己責任で移行(課税リスクあり)

※ 社会医療法人は都道府県知事が認定するため課税リスクが全くないとは言い切れません

課税リスクなしで持分なし医療法人への移行できるのは特定医療法人だけ

特定医療法人の移行時の非課税の取扱い

移行時非課税の根拠

医療法人が、承認を受けて特定医療法人に移行した場合の課税については、昭和39年12月28日に大蔵(当事)・国税庁・厚生省(当事)の三者により取り交わされた覚書により、移行時は非課税とされています。
これは、出資持分の定めのある医療法人社団が、出資持分の定めのない医療法人社団に変更する場合には、清算の手続きをなすべきものとされているものの、特定医療法人の承認を受ける要件に該当している場合に限り、定款変更によることを認めていることによります。
従って特定医療法人の承認を受けた場合は、移行時に法人税・所得税・贈与税について課税は生じません。

特定医療法人の承認要件

1.組織運営① 財団医療法人または出資持分の定めがない社団医療法人であること
② 社員総会・理事会等の医療法人の機関が適正に運営されていること
③ 社員・理事・監事・評議員のうちに、本人・親族の占める割合がいずれも3分の1以下であること
④ 役員等に対して特別な利益の供与がないこと
2.施設規模①から③のいずれか1つの施設を有すること
① 40床以上の病院(眼科、整形外科等または歯科の単科病院の場合は30床以上)
② 救急病院
③ 15床以上の救急診療所
3.業務運営① 保険診療収入の合計額>全収入金額×80%
② 自由診療収入は、保険診療収入と同一基準により計算すること
③ 医療収入金額≦直接経費金額×1.5であること
④ 役職員に対する給与は、1人につき年間3,600万円を超えないこと
⑤ 差額ベッドの割合が全体の30%以下であること
⑥ 法令違反および仮装隠ぺいの事実その他公益に反する事実がないこと
4.残余財産の帰属寄附行為または定款において解散時の残余財産が他の医療法人等に帰属する旨の定めがあること

参照:『社会医療法人特定医療法人Q&A』(清文社長英一朗102頁)

特定医療法人の承認要件2-1

出資持分放棄の要件

医療法人から特定医療法人への移行する際には、出資者全員が各持分を放棄することが必要です。

原則として、出資者が放棄に同意し、出資持分放棄同意書に署名押印している。
出資持分の放棄に同意していないものについては、時価にて払い戻して退社手続きをとる。
また他の出資者が全員持分を放棄する場合は、額面での払い戻しも可能です。

税務調査等の要件

① 税務調査(過去3年間)において、原則重加算税等が課されていないこと。帳簿書類に仮装隠蔽している事実その他公益に反する事実がないこと。
⇒税務調査中で、資料提出を求められているが拒否している場合等には申請ができない。

② 保健所の立ち入り検査において、指摘事項がないこと。
⇒ある場合は、早急に改善しなければならない。(医師の標欠等)

役員に関する要件

① 理事の数は、6名以上(親族等2名)
② 監事の数は、2名以上(親族等0名)
③ 評議員の数は、理事数の倍数以上⇒12名以上(親族等4名)
④ 親族及び特殊関係者の数がそれぞれ役員等の数に占める割合は、いずれも3分の1以下とする旨の定めが定款にあること。

特定医療法人の承認要件2-2

役員に関する要件2

役員等の選任
モデル定款によれば、理事及び監事の選任は社員総会(11条)、評議員の選任は理事会(第16条)、理事長の選任は理事会(第12条1項)で行うこととなっています。
また、病院運営管理指導要綱では、役員の選任について、下表の事項は適当でないと明示しています。

適当ではない役員選任の例

役員医療法人と関係のある特定の営利法人の役員が理事長に就任したり、役員として参画していることは、非営利性という観点から適当でないこと。
理事実際に法人運営に参画できない者が名目的に選任されていることは適当でないこと
監事実際に法人監査業務を実施できない者が名目的に選任されていることは適当ではなく財務諸表を監査しうる者を選任すること
評議員評議員としての職務を行使できない者が名目的に選任されていることは適当でないこと(法令上の規定はないが、半数以上は医療法人外部者)
<特別の利益を与えてはいけない者の範囲>

1.設立者

2.理事、監事、評議員
特殊関係者
3.社員

4.上記の者の親族
(6親等以内の血族、3親等以内の姻族)

特定医療法人の承認要件2-3

特別な利益に関する要件

役員など法人の特殊関係者に対して経済的利益を図ることは認められません。
具体的には、次のような行為が該当します。

① 法人の役員に対し、法人の所有する土地、家屋等を無料または著しく低い賃料で貸し付ける行為
② 法人の役員に対し、無利息又は著しく低率の利息で貸し付ける行為
③ 法人の役員に対し、無償又は著しく低い対価で法人所有の資産を譲渡している事実
④ 法人がその役員等から、過大な賃借料又は著しく高率の利息により、土地、建物その他の資産を賃借し、又は金銭を借り受ける行為
⑤ 法人の役員等の所有する資産を著しく高い対価で譲り受ける行為
⑥ 法人の役員たる医師、看護師その他の従業員に対し、法人の役員でない医師、看護師その他の従業員と比較して著しく過大な給与等を支給する行為
⑦ 法人の役員等が出資している別会社(いわゆるMS法人)が不当な利益を得ている場合
※1 施設の貸与
社宅家賃の金額が、所得税法基本通達における社宅の通常収受すべき賃貸料以上が目安のひとつとなります。 収受する社宅家賃の計算根拠を明確にしておく必要があります。
※2 病院での自己負担分の減免
役員等の親族に対して減免がある場合の処理が他の患者と同一に行われているかが問題となります。 診療費減免規定の整備が必要となります。
※3 金銭の貸付
役員等に対する貸付金は、貸付理由、貸付当初の元本、利率、担保、返済計画等を総合勘案して判断されます。 金銭消費貸借契約書が作成が必須となります。
※4 MS法人の是正
存在自体が否定されているわけではないが、将来的に特別な利益の供与がなされる可能性があるので、解散させるのが最も望ましい是正方法となります。

承認までのタイムスケジュール

参照;朝長英樹(監修)『医療法人の法務と税務』法令出版(平成22年1月)527頁

特定医療法人承認手続の概要

特定医療法人の承認申請

1. 承認申請のスケジュール

●国税庁長官に承認を受けるため承認申請手続きを行うには、あらかじめ所轄国税局の事前審査を受けなければなりません。
●事前審査の申出については、遅くとも承認を受けようとする事業年度終了の日前6月前までに行わなければなりません。
例えば、3月決算の医療法人の場合には、前年の9月末までに事前審査を受ける必要があります。

2. 都道府県知事における証明手続き

●都道府県から、病床数等「特定医療法人」の要件を満たす施設を開設している証明を受領する必要があります。
●証明を受けるためには、病院に係る使用許可書を添付し、所定の事項を記載した証明願を提出
●病院を複数開設している場合は、すべてではなくいずれかひとつのみ証明を受ければ十分

3. 国税局への事前審査手続き

●所轄国税局の担当部署(愛知県の場合は、名古屋国税局課税第二部統括国税実査官)に、電話で事前申請の申し出を伝え、申請書案を持参
●事前審査時に用意する書類一覧
◆法人の登記簿謄本、設立者名簿及び社員名簿、出資持分が確認できる書類、病院等の建物の配置図
◆現行定款と新定款案
◆理事、監事及び評議員等の履歴書
◆厚生労働大臣の定める基準を満たす旨の証明書(後日でも)
◆就業規則及び給与(退職給与を含む)規定の写し
◆各人別の源泉徴収簿等の給与の支給状況が確認できる書類
◆その他承認要件を満たす旨を説明する書類
例えば、医療法人と関連法人とが賃貸借契約を締結している場合には、賃料や賃貸借期間が適正であり、関連法人に通して医療法人への理事等に特別な利益を供与していないことを明らかにした参考書類

4. 厚生局における証明の手続き

●厚生労働大臣より基準を満たす旨の証明書の交付を受けなければなりません。
●都道府県知事の証明書((2)参照)を添付して、所定の証明願を添付して、管轄厚生局に提出する必要があります。
●病院を複数開設している場合は、すべてではなくいずれかひとつのみ証明を受ければ十分
◆証明願
◆付表1他診療収入の明細→ 事業税申告書と合致、役職員に対する給与明細等
◆診療報酬規定
◆就業規則、給与(退職給与を含む)規則〔給与の額が定められているものに限る〕
◆都道府県知事の証明書

5. 国税局の現地調査

●担当者から電話による日程調整の連絡を受けた後、担当者の訪問を受けることになります。
●訪問期間は医療法人の規模等によって異なりますが、2名体制の2日間程度となります。
●通常の税務調査とは異なり、役員等に対して特別な利益を供与していないか、法人運営は適正に行われているかを中心に行われます。
●調査対象期間は、過去3年間と進行年度の経過期間となります
●具体的調査概要

【1日目】

10:00~10:40状況確認(申請理由・診療特性・法人の歴史etc)
10:40~11:00理事長との面談(申請理由・確認書の説明)
11:00~12:00調査開始
◇ 特定医療法人の申請に関する社員総会議事録・放棄同意書
◇ 過去の議事録関係(3年分)社員総会・理事会等
◇ 給与台帳(マイカー通勤規定)
◇ 総勘定元帳(一部)
13:00~16:00調査継続
◇ 総勘定元帳本格的チェック
◇ 給与関係チェック(源泉徴収簿、医師・看護師シフト表、出勤簿)
◇ 契約書関係チェック(医療器械備品購入契約、外注委託契約、保守契約、リース契約)
◇ 役員就任、辞任の推移(議事録、就任・辞任届、退職金算定根拠)

【2日目】

10:00~12:00
元帳とともに調査
◇ 旅費交通費(旅費精算書等、タクシーチケット)
◇ 請求書、領収書3ヵ年及び経過年分(クレジットーカードも)
13:00~16:00
調査継続
◇ 総勘定元帳継続チェック
◇ 車両関係チェック(車の所有、使用状況、ガソリンスタンド請求書等)
◇ 保険証券のチェック(保険証券、保険料の処理関係) ◇ 修繕費の確認 ◇ MS法人の取引チェック ◇ その他
16:00~16:30
結果概要説明

6. 内示の連絡

●現地調査の後、数度にわたる問い合わせ、打ち合わせを経た後、承認申請書を提出してよいと判断された法人には、電話にて内示の連絡がなされます。
●事業年度末の4ヶ月程度前になされ、3月決算法人であれば、前年の12月中旬頃になされることが多いようです。

7. 定款変更と役員改選

●承認内示の連絡があった場合には、定款変更の申請を行い、定款変更の承認を受けた後、事業年度の2ヶ月前までに所轄税務署に承認申請書及び添付書類を提出します。

●通常、医療法人の定款変更には2ヶ月程度要するところ、年末年始を含めた約6週間で定款変更の承認を受けなければならないので、厳密なタイムスケジュールを立てておく必要があります。
●特定医療法人の承認時点において、役員の親族制限等の要件を満たす必要がありますので、定款変更を決議する社員総会において、併せて定款変更後の社員、役員の選任を行います。

8.持分の定めをなくした旨の税務届出

●持分の定めのない医療法人になるのは、定款変更を決議した社員総会の時や特定医療法人の承認の時ではなく、定款変更の承認を都道府県知事が行ったときです。
●定款変更の承認を受けた場合には、遅滞なく異動届出書を提出する必要があります。

9. 特定医療法人の承認

●特定医療法人の承認の通知は、決算日より10日から1週間程度前に、郵送にて行われます。
●承認に伴い、法人名や医療施設名を変更している医療法人は、名称変更の登記が必要となります。
●法人名等を変更しない医療法人は、特定医療法人の承認に伴う登記申請、保健所への届出、都道府県への届出は必要ありません。

特定医療法人の税務

①法人税率
租税特別措置法67条の2に基づき、特定医療法人として国税庁長官の承認を受けた医療法人の法人税率は、事業年度の所得金額のうち年800万円以下の金額に対する法人税の軽減率が18%、800万円を越える部分が22%の2段階税率です。

②住民税均等割額
持分の定めのない医療法人は、資本金等の額を有しないことから、最も低い税額が適用されます(地法52、同312)。

③寄付金の損金算入限度額
所得金額のみで損金算入限度額の計算をすることになります(法令73①二)。

④交際費の損金算入限度額
資本金の額に準ずるものの金額(措令37の4①一)

(総資産の帳簿価額-総負債の帳簿価額)×60/100

※ H21.3期で算定すると1億円を超えるため、交際費は全額損金不算入となります。

⑤中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
常時使用する従業員の数が1,000人以下である持分の定めのない医療法人は、取得価額30万円未満の全額損金算入することができます(措法67の5①)

⑥貸倒引当金の法定繰入率
持分の定めのない医療法人は、実績繰入率に代えて、1,000分の6の法定繰入率を用いることができます(措法57の10①、措令33の9)

⑦固定資産税
看護師、准看護師、歯科衛生士、歯科技工士、助産師、臨床検査技師、理学療法士及び作業療法士の養成施設の不動産取得税及び固定資産税が非課税とされています(地法348⑨ 2)。