令和5年度税制改正では、相続時精算課税制度と暦年課税についての見直しが行われました。今回は、このうち相続時精算課税制度の見直しについてご紹介していきます。
相続時精算課税制度は、平成15年度税制改正により創設された制度で、18歳以上の子や孫が、60歳以上の父母や祖父母から生前贈与を受ける際に選択できる制度です。
「相続税と贈与税の一体化」の目的を先取りしたといえるこの制度ですが、その利用は低迷していました。令和5年度税制改正では、暦年課税との選択制は維持しつつ、利便性向上のための見直しが行われます。
現行制度のポイントと改正内容とそのポイントは次のとおりです。
◎現行制度のポイント
・贈与税計算の際、特別控除額2,500万円の控除ができる
・特別控除額2,500万円を超えた金額に対して20%の単一税率で贈与税の計算をする
・制度選択後は、その選択にかかる贈与者からの贈与は、すべて相続時精算課税が適用され、少額の贈与でも申告が必要(暦年課税への変更は不可)
・贈与者死亡時の相続税の計算上、制度を選択した年分以後の贈与財産をすべて加算し、既に支払った贈与税相当額を相続税額から控除する(控除しきれない金額は還付)
・相続税の計算時に加算する贈与財産の価額は、贈与時の価額に固定される
◎改正の内容とポイント
・贈与税計算の際、年110万円の基礎控除が新設された
・制度を適用して取得した一定の不動産が災害によって被害を受けたときは、相続税の
課税価格に加算される不動産の価額は、被害を受けた部分の額を控除した残額とする
・年110万円までの贈与については贈与税の申告不要
・年110万円までの贈与は、特別控除額2,500万円の対象外
・相続開始前7年以内の贈与でも、年110万円までの基礎控除分については、相続財産から切り離すことができる
上記の改正は、令和6年1月1日以降に行われる贈与によって取得する財産にかかる
相続税または贈与税について適用されることとなります。
年110万円の基礎控除の新設など、使い勝手が向上した相続時精算課税制度ですが、
贈与を受けた財産の価値が災害以外の要因で下落した場合のリスクや小規模宅地の特例を適用できないこと、共同相続人への贈与税申告内容の開示制度等がありますので、生前贈与に際して「暦年贈与」「相続時精算課税贈与」のどちらを選択するかは慎重に判断する必要があります。
近年、親の相続で土地建物を取得したがそのまま空き家となり、賃貸や売却もできず、固定資産税や修繕費などの維持管理費だけが発生している、いわゆる「負」動産の処分について頭を抱えていらっしゃる方が多く見受けられます。
このような土地が管理できないまま放置されることで、将来、「所有者不明土地」が発生してしまうことを予防するため、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする「相続土地国庫帰属制度」が創設されました。
この制度は、令和5年4月27日から利用が可能となり、施行日前に相続等により取得した土地も対象となります。
手続の流れとしては、以下のとおりです。
1.相続又は遺贈により土地を取得した相続人が、法務局に承認申請を行い、審査手数料を納付
2.法務局により要件審査・承認
3.申請者が10年分の土地管理費相当額の負担金を納付
4.土地の所有権が国庫に帰属
申請するためには、一定の要件を満たす必要があり、以下の却下事由と不承認事由に該当する土地については国庫への帰属が認められません。
(1) 却下事由(申請をすることができないケース)
・建物がある土地
・担保権や使用収益権が設定されている土地
・他人の利用が予定されている土地
・土壌汚染されている土地
・境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
(2)不承認事由(承認を受けることができないケース)
・一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
・土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
・土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
・隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
・その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
承認後に納付する負担金は原則20万円と定められていますが、承認を受けた土地がどのような種目に該当するか、またどのような区域に属しているかによって、負担金が決定されます。
このように国庫に帰属させる土地については要件が厳しく、国は本制度の利用見込等に関する調査で、この制度を利用して国庫に帰属させると見込まれる者の割合は0.95%と試算しています。
申請時に建物があると自己負担で取り壊したり、隣地との境界が明らかでない場合には確定させるなど多くの手間と費用が発生しますが、自己の所有する土地が要件を満たすようであれば1つの解決方法として考えてみてはいかがでしょうか。
法務省「相続土地国庫帰属制度について」
相続又は遺贈により財産を取得した人が、相続税の申告期限までに、その相続や遺贈により取得した金銭をふるさと納税した場合には、そのふるさと納税した金額は、相続税の非課税となり相続税の課税対象とはなりません。
相続税の非課税財産としては、墓地や墓石、生命保険金の一部など7項目あり、その中に国や地方公共団体へ寄付した財産が含まれています。ふるさと納税は「国や地方公共団体への寄付」にあたります。
ふるさと納税(寄付)による相続税の非課税の適用を受けるためには、注意しなければいけない点があります。
・遺言による寄付ではないことを終わらせること
・相続税の申告期限(10ヶ月以内)までに寄付手続きを行うこと
・不動産や株式を換金して寄付していないこと
・相続税申告書に寄付証明書を添付して提出すること
相続税の非課税の規定は、相続した財産を寄付した場合に適用することができます。不動産や株式など現金以外の物を相続した場合、相続人がそれらを現金化してから寄付すると、それは「相続財産を寄付した」とはいえなくなってしまいます。よって、相続した現金の範囲内でふるさと納税を行う必要があります。
また、寄付証明書がいつ送られてくるかは自治体により異なりますが、手続き完了から2カ月程度とされているところが多くなっています。申告期限に間に合うように余裕を持って手続きを行う必要があります。
ふるさと納税は、相続税で「国や地方公共団体への寄付」として非課税財産にできる他、所得税や住民税についても寄付金控除の適用を受けることができます。ただし、ふるさと納税をした自治体からの返礼品は、一時所得となることに注意が必要です。一時所得は所得税の課税対象となるため、多額の返礼品をもらうと所得税がかかります。
ふるさと納税は相続税の負担軽減と所得税・住民税の寄付金控除を併用することも可能ですが、ふるさと納税を行う人の所得や家族構成、子どもの年齢などによって控除の対象になる年間の上限金額は異なります。
また、寄付した分の財産は減ってしまうため、注意が必要です。相続した財産をふるさと納税しない方が、結果的に手元に残る財産が多くなるかもしれません。
ふるさと納税は相続税の負担軽減になるほか、返礼品の楽しみもあるなど人気が高まっていますが、あくまで相続税対策の1つとしてお考え下さい。
法務局における自筆証書遺言書保管制度が、2020年7月10日から開始されたときにもお伝えしましたが、最近、もしもに備えた遺言の重要性が再認識されているのか、遺言書を書いておきたいとの相談を受けるけることが多くなっているため、再度、「自筆証書遺言書保管制度」について説明いたします。
遺言書を作っておけば、一般的には、残された相続人がスムーズに手続きができたり、相続にまつわる無用なトラブルを避けられたりすることが期待できます。
この遺言書には、大きく分けて、自分で書く自筆証書遺言書と、公証役場で作る公正証書遺言書があります。
公正証書遺言書は、作成時に「公証人」という専門家が関与し、証人が2名立ち合うなど、厳格な手続きになりますが、手間がかかるため、なかなか気軽に作れないことや、費用がかかるといったデメリットがあります。
自筆証書遺言書は、費用がかからず気軽に一人で書けるという利点がある一方で、一般的に自宅で保管するため紛失したり改ざんされたりする可能性があることや、相続時に家庭裁判所の検認が必要といったデメリットがありました。
この自筆証書遺言書のデメリットを解消する目的で創設されたのが「自筆証書遺言書保管制度」です。
保管制度が創設されたことで、法務局で自筆証書遺言書を保管してもらうことが可能となり、紛失や破棄といったリスクがなくなります。また、法務局で保管してもらう自筆証書遺言については、相続発生後の検認の手続きが不要となり、相続手続きをスムーズに進めることができます。
この自筆証書遺言の保管手続きには、手数料3,900円と本人確認書類等が必要となりますが、法務局で内容の確認がされますので、封は必要ありません。
また、法務局では遺言の原本を保管するだけでなく、その内容を画像データにして保存してくれます。遺言書をデータ化することで、死亡後、相続人は全国で遺言書の有無や内容を確認することができるようになります。
≪特徴≫
・
15歳以上で遺言書(財産目録を除く)、日付及び氏名を自署さえできれば一人で作成
・
証人不要
・
法務局で厳重に保管
・
保管申請手数料は3,900円
・
家庭裁判所の検認不要
・
死亡時の通知制度あり
ただし、法務局に保管されるだけで、事前に遺言書が法律上の要件を満たしているのか確認をしてもらえるわけではありませんので、自筆証書遺言書の作成は、ご自身だけで完結するのではなく、専門家のチェックを受けることをお勧めいたします。
<参考>
自筆証書遺言書保管制度のご案内(法務省民事局)
昨年の秋、「生前贈与がダメになる前に!」や「チャンスはあと2回だけ」というような雑誌の特集を多く目にしました。この相続税コラム(♯83.87)でも取り上げていますが、このような特集が組まれた理由は、税制改正大綱に「相続税と贈与税の一体化」に向けた方針が示されたことで、相続税対策の王道である「生前贈与」が早ければ令和4年から封じられるのではないかという懸念から、資産家のみならず中間層にまで関心が高まったためと考えられます。
結局、令和4年度税制大綱での導入は見送られましたが、今年末に決定される令和5年度税制改正大綱で、ついに一定の改正が行われると予想されています。
まずは、廃止がささやかれていた年間110万円の暦年贈与についてです。暦年課税は、時間をかけてコツコツ贈与すれば、結果的に多くの財産を無税で次世代に移転することができる制度です。これについては、自民党の宮沢洋一税制調査会長が、「世代間の資産移転を促進する観点などから、暦年贈与の110万円を縮小する必要はないと思う。なくすのは政治的にも難しい」と述べているほか、政府税調の中里実会長も、見直しを否定しているようです。このことから、暦年贈与は今後も存続する方針がほぼ固まったとみられています。
その一方、「持ち戻し」の期間については延長される可能性が濃厚のようです。「持ち戻し」とは、相続開始前の生前贈与を相続財産に加算(持ち戻し)して、相続税を計算するもので、死期が近付いてからの駆け込み贈与を防ぐ目的で定められています。
持ち戻しの期間は、日本では死亡3年前までとされていますが、イギリスは7年、フランスは15年など海外ではより長くなっています。持ち戻しの期間が仮に15年とされた場合、年齢や健康状態によっては、生前贈与の大半が無意味になってしまう可能性もあります。
持ち戻しの期間延長が令和5年度税制改正に盛り込まれたとして、一番気になるのはいつの贈与から対象になるかです。制度改正後の贈与が対象となるとすると、まさに冒頭の雑誌のタイトルどおり「チャンスはあと2回だけ」ということになるかもしれません。今年もあと残り1月半、年内の贈与について大いに検討するべきと考えます。
実際にどのような改正がされるかは不明ですが、どのような改正になったとしても、早期に相続対策に取り組むことが重要であることを再認識する機会となりそうです。
高齢化社会が進み、長年住んでいた自宅から老人ホームなどの介護施設へ入所する方が増えています。入所後自宅は空家となり誰も住まなくなった状態で相続が発生した場合、その自宅に係る敷地について小規模宅地等の特例はどうなるのでしょうか。
個人が、相続等より取得した財産のうち、「相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」については、一定の要件を満たした場合、対象面積330㎡までの部分について80%を減額することができます。この制度を小規模宅地等の特例といいます。
被相続人が老人ホームなどの施設に入所していた場合、自宅の敷地については、「相続の開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」ではないため、小規模宅地等の特例を適用することができなくなりますが、次の(1)又は(2)の事由により居住の用に供することができなかった場合には、小規模宅地等の特例を適用することができます。
(1)要介護認定又は要支援認定を受けていた被相続人が次の住居又は施設に入居又は入所していたこと
・認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居
・養護老人ホーム
・特別養護老人ホーム
・軽費老人ホーム
・有料老人ホーム
・介護老人保健施設
・介護医療院
・サービス付き高齢者向け住宅
(2)障害支援区分の認定を受けていた被相続人が障害者支援施設などに入所又は入居していたこと
上記要介護認定等を受けていた者には、介護保険制度の基本チェックリスト該当者も対象となります。
またその要介護認定等を受けていたかどうかの判定時期は、相続開始の直前で判定することになります。
したがって、老人ホーム等に入居等をする時点において要介護認定等を受けていない場合であっても、相続開始の直前において要介護認定等を受けていれば、小規模宅地等の特例を適用することができます。
なお、被相続人が老人ホームなどに入所していた場合で、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等について小規模宅地等の特例を受けるためには、相続税の申告書に以下の書類を追加で添付する必要があります。
・被相続人の戸籍の附票の写し
・介護保険の被保険者証の写し等で要介護認定等を受けていたことを明らかにする書類
・施設への入所時における契約書の写しなど入居等をしていた施設等の名称及び所在地並びにその老人ホーム等が特例の適用対象となる一定の施設等に該当することを明らかにする書類
暗号資産(仮想通貨)は、投資の手段として現在でも活発な取引が行われています.
暗号資産は財産的な価値を持つものであり、亡くなった人から相続すれば相続税の課税対象になります。暗号資産を相続した場合、どのように評価すれば良いのでしょうか。
暗号資産とは、財産的な価値を有し、銀行などの第三者を介さずにインターネット上でやり取りされる電子データ資産のことをいいます。ビットコイン、イーサリアム、リップルなどが主要な暗号資産として知られており、取引所や販売所などで入手、換金することが可能です。
暗号資産は、日本円やドル通貨のような法定通貨とは異なり、価値を裏付けできる資産でないことなどから資産価値が大きく変動しています。そのため、通貨として決済に使われるというよりは、価格変動に着目して投資の対象とされているのが実情です。
暗号資産には決まった評価方法はありませんが、他の資産と同様に、相続発生日の価額にもとづいて評価する必要があります。
暗号資産の相続税評価額は「活発な市場が存在する場合」と「活発な市場が存在しない場合」で次のように評価方法が異なります。
<活発な市場が存在する場合>
暗号資産交換業者が発行する相続開始日の残高証明書の金額
または
暗号資産交換業者が公表している相続開始日における取引価格
<活発な市場が存在しない場合>
その暗号資産の内容、性質、取引実態等を勘案して個別に評価
「活発な市場が存在する」場合とは、取引所や販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われており、継続的に価格情報が提供されている場合をいいます。被相続人が持っていた暗号資産が国内の複数の取引所で取引されているときは「活発な市場が存在する」場合に該当すると言えます。逆に「活発な市場が存在しない」場合とは、取引所や販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われておらず、継続的に価格情報が提供されていない場合をいいます。一つの取引所でしか取引できない場合も「活発な市場が存在しない」場合に該当すると思われます。
暗号資産の保管方法は、取引所に保管する方法と取引所外のウォレットと呼ばれるウェブや端末上の財布に保管する方法があります。国内の取引所に保管している場合は、相続が発生したことを連絡すれば引き出すことが可能です。ウォレットで保管している場合には、パスワードを設定する必要があり、相続人がそのパスワードを知らなければ、暗号資産を引き出すことはできません。そのような場合でも暗号資産を相続財産に含めなければなりません。相続人が本当にパスワードが分からないのか、あるいは分からないふりをしているだけなのか確認のしようがなく、相続財産に含めないと課税の公平性が損なわれる恐れがあるからです。
残される相続人のためにも、生前に自己の暗号資産を把握し、パスワードなども含めた明確な遺言を残すことも大切ではないでしょうか。
<参考>
国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)」
virtual_currency_faq_03.pdf
(nta.go.jp)
生命保険金は、原則として遺留分の対象に含まれませんが、例外的に含まれる場合もあります。生命保険金が、遺留分に含まれるかどうかで、遺留分の額は大きく左右されます。そのため、相続開始時に被相続人が被保険者となっていた生命保険金があった場合、遺留分に含まれるか含まれないかをしっかり理解しておくことは大切です。
遺留分とは、法律によって決められている相続財産の最低限の取り分のことです。
遺留分の割合は、直系尊属(親や祖父母)のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は2分の1です。被相続人の兄弟姉妹は遺留分の対象ではありません。
生命保険金は、原則として遺留分の対象とならないといわれています。
これは、平成16年10月29日最高裁判決において、「死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらない」とあるからです。
より多くの財産を渡したい相続人を生命保険金の受取人にしておくことで、財産を渡したくない相続人の遺留分を生前から減らしておくことができます。
ただし、あくまで原則として生命保険金は遺留分には含まれませんが、相続人間に著しい不公平が生じる場合は、例外的に遺留分に含まれる場合があります。
しかし、どのようなケースが遺留分に含まれるかは、事案ごとに異なり、自分自身で判断することは簡単ではありません。また、この点に関して判決が十分蓄積されていないため、議論が尽くされていないというのも現状です
生前の相続対策を確実に行っておきたいのであるなら、相続の専門家に事前に相談することをお勧めします。
このところ急速に円安が進んでいます。年初は115円くらいで推移していたものが、7月14日には一時1ドル=139円台をつけ「歴史的円安」と言われています。
私たちにとって円安は、プラスになる面とマイナスになる面がありますが、相続財産に外貨建ての資産があった場合、どのような影響があるでしょうか。
相続税を計算する場合の外貨は、邦貨に換算する必要があります。
この場合の邦貨への換算は、原則として、納税者の取扱金融機関(外貨預金等取引銀行が特定されている場合は、その取引金融機関)が公表する課税時期(相続又は遺贈の場合は被相続人の死亡の日)における最終の外国為替相場(対顧客直物電信買相場:TTB)またはこれに準ずる相場により行います。この「対顧客直物電信買相場」とは、金融機関が顧客から外貨を買って邦貨を支払う場合の相場をいいます。課税時期にその相場がない場合は、課税時期前の相場のうち課税時期に最も近い日の相場によります。
このため、ドル建て資産を相続した場合、現在のように円安となっていれば評価額が上がり、相続税額も多くなります。
外貨預金の相続税評価自体はそれほど難しいわけではありませんが、外貨はそのまま納税に使えないため、日本円で納税資金を準備しなければならないことに注意が必要です。
また、換算に用いる為替相場は、相続の時であるのに対し、実際に円に換えるのは、亡くなった後になるため評価が異なり、為替の影響を受けることにも注意が必要です。
日本の超低金利の影響やリスク分散のため外貨建て資産を保有している人も多くなっています。また、近年は海外の金融機関に外貨を預けている人も増えてきていると思われますので、申告漏れにならないよう注意が必要です。
近年、不動産(土地・建物)を所有されている個人が亡くなった場合に、相続登記がされていないケースが存在しているようです。所有者が亡くなったのに相続登記がされていないと、登記簿を見ても持ち主が分からず、災害の復興事業や取引が進められないなど様々な社会問題の要因となっています。
そこでこのような問題を防ぐために民法等の改正により、令和6年4月1日以降は相続登記が義務化され、相続で不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。
また税制面からもこの問題に対処するため、平成30年度税制改正において、(1)相続により土地を取得した個人が登記を受ける前に死亡した場合の登録免許税の免税措置と(2)少額の土地を相続により取得した場合の登録免許税の免税措置が設けられました。
この免税措置について、令和3年度税制改正により(2)の免税措置の対象となる登記として、表題部所有者の相続人が受ける所有権の保存登記が追加され、さらに令和4年度税制改正により、免税措置の適用期限が令和7年3月31日まで延長されるとともに(2)の免税措置の適用対象が全国の土地に拡充され、不動産の価額が100万円以下(改正前は10万円以下)の土地であれば、この免税措置が適用されることになりました。
(1)相続により土地を取得した個人が登記を受ける前に死亡した場合の登録免許税の免税措置
相続(相続人に対する遺贈も含みます。)により土地の所有権を取得した個人が、その相続によるその土地の所有権の移転登記を受ける前に死亡した場合には、令和7年3月31日までに、その死亡した個人をその土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さないこととされています。
(2)少額の土地を相続により取得した場合の登録免許税の免税措置
個人が令和7年3月31日までに、土地について相続(相続人に対する遺贈も含みます。)による所有権の移転の登記又は表題部所有者の相続人が所有権の保存の登記を受ける場合において、不動産の価額が100万円以下の土地であるときは、所有権の移転の登記又は表題部所有者の相続人が受ける所有権の保存の登記については、登録免許税を課さないこととされています。
なお上記の不動産の価額は、市町村役場で管理している固定資産課税台帳に登録された価格がある場合にはその価格、固定資産課税台帳に登録された価格がない場合には登記官が認定した価額になりますので、その不動産を管轄する登記所に問い合わせる必要があります。
国税庁「相続による土地の所有権の移転登記等に対する登録免許税の免税措置について」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0018003-081-01.pdf
相続人の中に認知症の方がいる場合、相続の手続きをどのように進めればよいでしょうか。相続した財産は、遺言書がない限り、相続人全員で遺産分割協議を行って分け合います。遺産分割協議を終了するためには、相続人全員の合意が必要となります。しかし、相続人の中に認知症の方がいると、その相続人が自筆で遺産分割協議書にサインしたとしても、内容を理解しないまま署名捺印をしたと判断されると、その遺産分割協議書は無効となってしまうことがあります。
だからといって、認知症の相続人を除いて遺産分割協議をしても、その協議は無効です。相続人全員の署名捺印がない遺産分割協議書では、預貯金の払い戻しや不動産の名義変更などの手続はできません。
そのため、認知症により判断能力が不十分な相続人がいる場合は、成年後見制度の利用を検討する必要があります。
成年後見制度とは、自分で物事を判断できない方の権利を守るために、成年後見人が財産の管理や法律行為を代わりに行う制度です。支援される人を成年被後見人といい、例えば、認知症、知的障害、発達障害、精神障害などを患っていて、判断能力を欠いている常況にある方が該当します。
成年後見制度を利用することによって、認知症の相続人がいたとしても遺産分割協議を進めることができます。
成年後見人になるために特別な資格は必要ありません。通常は日頃から面倒を見ている親族を成年後見人に立てるのが望ましいと言えます。ただし、共同相続人が成年後見人となった場合には、利益相反が生じるため、特別代理人の選任が必要となります。また、遺産分割協議が成立したからといって成年後見人の任期が終了となるわけではありません。成年後見人は、判断能力のない本人の権利や利益を保護するために選任された人ですので、一度選任されると特別な事情がない限りは、本人が死亡するまで成年後見人としての業務を続けなければなりません。
成年後見人を立てないで相続するには、生前に遺言書を書いておくことをおすすめします。遺言書で遺産の分配方法を指定しておけば、相続人はそのとおりに遺産を受け取ることになり、遺産分割協議をする必要はありません。遺言による相続は相続人が行う法律行為ではないので、意思能力がない認知症の相続人であっても、成年後見人を立てることなく遺産を受け取れます。
最近、ふるさと納税やUNHCRへのウクライナの緊急支援寄付といった所得税に関する寄付の相談だけではなく、遺産の一部を学校や公益法人等に寄付したい場合の相談を受けることがあります。遺産を寄付する場合、「どこへ」「どうやって」寄付するかにより課税関係が大きく異なります。
寄付の方法は、「相続人に寄付を託す」と「遺言により寄付する」の2つあります。
1.
相続人に寄付を託す<相続財産寄付>
相続や遺贈によって取得した財産を相続人が寄付した場合、原則、相続税が課されますが、以下の要件を満たすと相続税が課されません。
(1)
寄付した財産は、相続や遺贈によって取得した財産そのものであること
(2)
相続税の申告期限(10ヶ月)までに寄付すること
(3)
寄付した先が国や特定の公益法人等であること
(4)
相続税申告書に寄付した財産の明細書及び文部科学省が発行する「相続税非課税法人証明書」を添付すること
【ポイント】
・取得した財産そのものしか認められません。
・相続した不動産や株式を現金化したり、遺産分割協議前に香典や相続人の預金から寄付したりすると要件を満たしません。
・証明書を文部科学省に申請して発行してもらうまで、約1~2ヵ月かかります。
2.
遺言により法人に対して寄付する
遺言で法人に対して寄付した場合には、相続税は個人にのみかかる税金のため、非課税となります。代わりに、受け取った法人に対して相続税ではなく法人税が課されます。ただし、一定の公益法人に対する寄付は法人税も非課税となります。
【ポイント】
・寄付する財産が現預金等であれば問題ありませんが、不動産や株式等を寄付する場合には、被相続人が時価で譲渡したとみなして譲渡所得税が課されますので、被相続人の準確定申告が必要となります。
一概にはいえませんが、お勧めなのは、遺言で現預金を寄付することです。そうすれば、寄付した財産は、相続財産から除外され相続人にはなにも税金が発生しませんし、相続開始後相続人が10ヶ月以内にバタバタする必要もないからです。また、上記1(3)の要件を満たさない法人にでも寄付することができます(同族法人への寄付は別の課税関係が生じる場合があります)。ご自分の意思をきっちり伝え、事前に適切な準備をしておくことが大切です。
#92 成年後見制度 |
#79 認知症の方がいる場合の相続における対応策 |
#45 遺言代用信託の活用 |
#91 遺産を寄付した場合の課税関係 |
#74 国等に対して相続財産を寄附した場合の相続税の非課税 |
#39 平成30年度税制改正~一般社団法人を使った相続税の課税逃れ 対策強化へ |
#31 遺言により相続財産を寄附した場合の相続税の課税関係 |
#8 相続税がかからない財産とは |
#90 成年年齢引き下げと遺産分割協議への影響 |
#89 成年年齢引き下げに伴う相続税・贈与税への影響 |
#88 令和4年度税制改正による相続税・贈与税の影響 |
#87 相続税と贈与税の一体化 |
#83 相続税・贈与税の一体化!? |
#68 新型コロナウイルス感染症拡大防止に伴う相続税の取扱い |
#30 相続税の納付の方法 |
#17 相続税の申告期限 |
#5 相続が発生した場合の被相続人に係る確定申告(準確定申告)について |