相続による不動産の登記(相続登記)には、登録免許税(本則税率0.4%)が課されますが、相続登記の未了や遅延が相続登記の普及促進の課題となっていたため、一定条件下での免税措置が設けられています。
令和7年度の税制改正により、登録免許税の免税措置について、その適用期限が令和9年3月31日まで2年延長されました。延長された免税措置は、以下の二つです。
1. 相続により土地を取得した者が相続登記をせずに死亡した場合の免税措置
相続人が土地を相続した場合において、相続登記を受ける前にその相続人が死亡した場合、当該相続人を登記名義人とするための相続登記については、登録免許税が免除されます。
2. 不動産の価額が100万円以下の土地に係る免税措置
相続による所有権の移転登記を受ける場合において、不動産の課税標準となる価額が100万円以下の土地については、登録免許税が免除されます。
不動産の所有権の持分の取得に係る場合は、当該不動産全体の価額に持分の割合を乗じた額が不動産の価額となります。
また、市町村役場で管理している固定資産課税台帳に登録された価額がある場合は、その価額となります。固定資産課税台帳に登録された価額がない場合は、登記官が認定した価額になるので、その不動産を管轄する登記所に問い合わせる必要があります。
なお、不動産の所有者が死亡した場合、所有権の移転の登記が必要ですが、相続登記が未了のまま放置されるケースが多くなっており、様々な社会問題の要因となっている可能性があります。こうした問題の解決を図るため、令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されています。
(参考)
法務局HP
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000017.html
「所有不動産記録証明制度」とは、不動産登記名義人の住所と氏名から、その名義人が所有している不動産を全国的に一括して調査し、所有不動産記録証明書というリストで証明する制度です。
これまでは、被相続人が所有していた不動産を調査しようとした場合、不動産の所在地と地番が分からなければ、調査する方法がないことや、相続登記が義務化されたことにより、この制度が新設されることになりました。
制度は、2026年(令和8年)2月2日施行予定です。なお、不動産記録証明制度は仮称であり、正式名称はまだ発表されていません。
【 登記事項証明書と所有不動産記録証明書の比較
】
◆ 登記事項証明書
土地や建物ごとの個別請求
登記された地番などの情報が分からないと請求不可
◆ 所有不動産記録証明書
登記名義人単位で全国の不動産一覧が出てくる
登記された情報が分からない場合でも請求可能
その他一括照会が可能となった手続きとしては、「戸籍の一括取得」や「生命保険契約の一括照会」があります。「戸籍の一括取得」は、本籍地以外の市区町村でも、戸籍証明書・除籍証明書が取得できるようになりました。これにより本籍地が遠くても最寄りの市区町村でまとめて請求することが可能となりました。また、「生命保険契約の一括照会」は生命保険契約の手がかりがなくて困ったときに、生命保険協会を通じて、保険契約の有無を一括で照会できるようになりました。1照会あたり手数料は3,000円で、2週間程度で回答がありますが、契約の有無のみで契約内容までは確認ができません。
いままで地道にコツコツとひとつずつ調査をしていた相続手続きの書類集めが、かなり効率化されてきています。相続税の申告・納税は被相続人が亡くなってから10ヶ月以内に済ませなければならず、相続人は悲しんでいる余裕もない状況です。
今後も預貯金の一括照会も予定されているとのことですが、さらなる相続人の負担が軽減される仕組みができることを望みます。
法務省「所有不動産記録証明制度(令和8年2月2日施行)」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html#mokuji10
国税庁では、あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会を目指し、税務行政のデジタル化を推進しています。e-Taxと政府共通のプラットホームである「マイナポータル」を連携(マイナポータル連携)すると、給与所得の源泉徴収票や生命保険の控除証明書、ふるさと納税の寄附金受領証明書等のデータを取得することができ、確定申告書の該当項目へ自動入力することができます。連携の対象書類は年々充実してきていますので、マイナポータル連携を活用して、e-Taxで令和6年の確定申告書を作成した方も多いのではないでしょうか。
国税庁では、e-Taxが使いやすくなるよう随時改修を進めており、申告に使う以外にも便利な機能が充実してきています。
e-Taxの「マイページ」では、スマートフォンやパソコンから、納税や還付の口座、各種届出の提出状況やNISA口座の開設情報など、e-Taxに登録されている自身の様々な情報を確認することができます。
令和7年1月からは、マイページの「各税目に関する情報」に「贈与税関係」が新たに追加され、過去にe-Taxで提出された贈与税申告書を確認できるようになりました。
令和5年度税制改正で、生前贈与加算の期間が3年から7年に延長されていますが、これに対応し、相続税の申告時にこれまでの贈与の状況を確認できるように機能が追加されたようです。(申告書の情報を確認する際には、マイナンバーカード等の電子証明書が必要)
残念ながら現時点では、紙で提出した分の贈与税申告書は確認することができないようですが、マイナンバーで確認できる情報は今後充実させる方向のようですから、過去の届出や申告書がすべてマイページで確認できるようになる日も近いかもしれません。
まだご自分のマイページを確認したことが無いという方は、この機会に一度ご自身のマイページを確認してみてはいかがでしょうか。
https://www.e-tax.nta.go.jp/mypage/index.htm
令和5年度改正により、令和6年1月1日以後の贈与により取得した相続時精算課税適用財産については、暦年課税の基礎控除とは別に、贈与税の課税価格から基礎控除110万円が控除されます。
そこで、相続時精算課税の改正に関するQ&Aが出ていますのでいくつか取り上げます。
Q1: | 相続時精算課税を選択するためには、どのような手続が必要ですか。 |
A1: | 相続時精算課税を選択する場合は、原則として、贈与税の申告書の提出期間内に「時精算課税選択届出書」を受贈者の納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。なお、贈与税の申告書を提出する必要がある場合は、この届出書を申告書に添付して提出することになります。また、贈与税の申告書を提出する必要がない場合は、この届出書を単独で提出することになります。 |
Q2: | 私は相続時精算課税を選択しており、令和6年中に特定贈与者である父から贈与により財産を取得しましたが、その財産の価額の合計額は基礎控除額(110万円)以下でした。他に贈与は受けていません。この場合、贈与税の申告をする必要がありますか。 |
A2: | 令和6年中に特定贈与者から贈与により取得した財産の価額の合計額が基礎控除額以下ですので、令和6年分の贈与税の申告は必要ありません。 |
ここで注意しなければならないのは、相続時精算課税選択届出書を単独で提出した後に贈与税の期限後申告書を提出する場合の相続時精算課税の適用の可否です。
Q3: | 子Xは、令和6年に父である甲から株式Aの贈与を受け、贈与税の申告書の提出期間内に相続時精算課税選択届出書を提出しました。 Xは株式Aの価額を100万円(相続時精算課税に係る基礎控除の額以下)と認識していたため、令和6年分の贈与税の申告書は提出していません。その後、株式Aの価額について評価誤り(正当額:500万円)が判明したため、贈与税の期限後申告書を提出することとなりました。この場合、相続時精算課税を適用して贈与税額を計算できますか。 |
A3: | 相続時精算課税を適用して贈与税額を計算することとなります。ただし、株式Aについて贈与税の期限内申告書の提出がなかったため、相続時精算課税の特別控除2,500万円は適用されません。 |
相続時精算課税選択届出書が期限内に提出されているので、精算課税は適用されますが、申告期限後に贈与税の申告書を提出したとしても、贈与税の申告書の期限内提出が要件となっている特別控除の適用は受けることができないのです(相法21の9①②、21の12②)。
出典:
「令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023006-004.pdf
「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について(情報)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sozoku/pdf/0024006-159.pdf
国税庁は令和6年12月に「令和5年分 相続税の申告事績の概要」および「令和5事務年度における相続税の調査等の状況」を公表しました。
これによると、令和5年分における被相続人数(死亡者数)は1,576,016人(前年比100.4%)でした。そのうち相続税の申告書を提出した人数は 155,740人で、前年比103.2%と増加しています。申告された相続税の課税価格総額は21兆6,335億円(前年対比104.6%)、相続税額は 3兆53億円(前年比107.4%)で、ともに増加しています。
令和5年度の相続税の調査等の状況については、以下のようになっています。
1.相続税の実地調査
実地調査件数は8,556件で、前年度(令和4年度)から4.4%増加しました。これには、申告内容が過少であると予想される事案や無申告と考えられる事案に対する調査が含まれます。
実地調査における追徴税額の合計は735億円で、こちらも前年度比で9.8%増加しています。そのうち、重加算税を賦課された件数は全体の13.5%で、前年度より1.3ポイント減少しました。
2.相続税の簡易な接触
実地調査とは異なり、文書や電話、来署依頼などを通じて申告漏れや計算誤りを是正する簡易な接触も行われています。
簡易な接触件数は18,781件で、前年度比25.2%増加しました。これにより、申告漏れや誤りを指摘した件数は5,079件で前年度比37.8%増加しています。
簡易な接触による追徴税額は122億円で、前年度比40.8%増加しており、簡易な接触の事績の公表を始めた平成28事務年度以降で最⾼となりました。
3.相続税の無申告事案に対する実地調査
無申告事案に対する実地調査件数は690件で、前年度比でやや減少(97.9%)しましたが、追徴税額は前年度比で11.4%増加し、123億円となっています。無申告の場合、調査によって税額が大きく増えることが多いため、税務当局の対応が強化されています。
4.相続税の海外資産関連事案に対する実地調査
海外資産の相続については、国際的な税務協力(例えば、CRS情報交換など)を活用して調査が行われています。
令和5年度には947件の海外資産関連事案が調査され、前年度比12.1%の増加が見られました。
海外資産に関する申告漏れ課税価格は62億円で、前年度比11.1%減少しました。
5.贈与税の実地調査
贈与税についても積極的に調査が行われています。特に、贈与が適切に申告されていないケースを見逃さないようにしています。
贈与税の実地調査件数は2,847件で、前年度比で3.1%減少しましたが、追徴税額は108億円で、前年度比で37.5%増加しました。
令和5年度の相続税調査では、実地調査の件数や追徴税額が増加しました。特に、簡易な接触を活用した効率的な調査が進み、申告漏れを発見する件数が増えたことが特徴的です。また、無申告事案や海外資産の調査も強化されています。
詳しい内容については、下記を参照ください。
国税庁「令和5年分 相続税の申告事績の概要」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/sozoku_shinkoku/pdf/sozoku_shinkoku.pdf
国税庁「令和5事務年度における相続税の調査等の状況」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/sozoku_chosa/pdf/sozoku_chosa.pdf
相続税のe-Taxの利用件数は令和2年度2.3万件(利用率14.4%)でしたが、令和3年度は4.4万件(23.4%)、令和4年度6.1万件(29.5%)、令和5年度は8.5万件(37.1%)と3年間で約3.7倍となっているように、国税庁においては、あらゆる税務手続きが税務署に行かずにできる社会を目指し、税務行政のデジタル化の推進を掲げており、e-Taxの利用拡大に取り組んでいるようです。
当事務所においても、数年前から所得税確定申告のe-Tax利用率については、ほぼ100%でしたが、相続税については、相続人様に相続税申告書に押印していただき、税務署に申告書等を書面で提出し、収受印を押なつしてもらうことが一般的でした。しかし、最近では、相続税もe-Taxにて申告しております。
このように今後もe-Taxの利用拡大がさらに見込まれる中、税務行政のDXにおける手続の見直しの一環として、令和7年1月から、国税庁・国税局・税務署において、書面で提出された申告書等の控えに収受日付印の押なつを行わないこととしています。
そのため国税庁は「申告書等の控えへの収受日付印の押なつの見直しに関するQ&A」を公表しています。(令和6年11月22日更新)
たとえば、『提出した事実を確認したい場合どうすれば?』という問いに対しては、
e-Taxを利用して申告書等を提出している場合は、メッセージボックスに格納された受信通知により確認することが可能です。
また、令和7年1月以降、当面の間の対応として、窓口で交付する「リーフレット」に申告書等を収受した「日付」や「税務署名」を記載したものを、希望者に渡すことになります。
郵送等により申告書等を提出する際に、切手を貼付した「返信用封筒」を同封された方に対しても、窓口での収受の場合と同様、当分の間の対応として、日付・税務署名を記載したリーフレットを同封して返送するとのことです。
さらに詳しく知りたいかたはこちらでご確認ください
令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/onatsu/index.htm
申告書等の控えへの収受日付印の押なつの見直しに関するQ&A
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/onatsu/pdf/0023001-078.pdf
税務署から「相続についてのお尋ね」が届いたのですがどうしたらよいでしょうか。
突然届く税務署からのお尋ねに、不安になった方からご連絡をいただくことがあります。
親族が亡くなると、市町村役場に死亡届を提出しますが、行政手続きのオンライン化により、全国の死亡届の情報は、法務省経由で毎月国税庁に電子通知されています。
国税庁では、この情報を基に亡くなった人の過去の確定申告書や固定資産課税台帳などを確認し、一定以上の財産があると見込まれる場合に、お尋ねを送るようです。
相続税の申告をする必要がある場合には、相続の開始があったことを知った日(通常の場合は、被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月目の日までに、相続税の申告書を提出するとともに、納税をしなければなりません。
「相続についてのお尋ね」は、相続開始5カ月経過した頃から送られてきますが、相続税の申告が必要かどうかを相続人に確認してもらうために送っているものですので、お尋ねが来たからといって慌てたり、不安になったりする必要はありません。
ただし財産を確認した結果、相続税の申告が必要な場合で、何も準備をしていないときは、申告期限まで残り数カ月しかないことになりますので、直ちに税理士や税務署に相談するなどの対応が必要です。
さて、お尋ねが送られてきても、既に相続税の申告の準備をしている場合は、このお尋ねに回答する必要はありません。回答する必要があるのは、相続税の申告が不要と判定される場合です。この場合は、同封されている記載例に従ってお尋ねの各欄を記載し、案内文に記載の期限までに回答する必要があります。
お尋ねに誤った記載をしたこと自体での罰則はありませが、申告をしないまま申告期限が過ぎ、後に申告の必要があることが判明した場合は、原則として加算税や延滞税がかかりますし、財産を隠蔽していたと判断されると重加算税等がかかる場合もありますので注意が必要です。
お尋ねの回答をするにあたり、同封された書面に記載して提出する方法の他に、国税庁ホームページの「相続税の申告要否判定コーナー」で作成し印刷した「相続税の申告要否検討表」を提出する方法もあります。こちらでは、必要な事項を順に入力していくだけで作成ができ、相続税がかかるかどうかの判定をすることができるので便利です。
【相続税の申告要否判定コーナー】-申告要否判定コーナートップ
https://www.keisan.nta.go.jp/sozoku/yohihantei/top#bsctrl大切な親族が亡くなってから、相続税の申告期限である10か月が経過するのは思った以上に早いものです。相続税を払う人の割合は年々増加しており、10人に1人は課税される時代となっています。お尋ねが来てから慌てることのないように、自分や家族の財産に関心を持っておく必要がありそうです。
相続税の申告では、被相続人から相続人等に対して行われた加算対象期間内の贈与及び相続時精算課税制度の適用を受ける贈与がある場合には、その財産を相続財産に含めて相続税の計算をする必要があります。
贈与税の申告は、受贈者各人で行うため、他の相続人等がいくら贈与を受けていたのか分からなかったりすることで正しい相続税の申告ができないことがあります。
このような場合に、税務署に対して過去の贈与税申告の内容を照会できる制度「贈与税の開示請求手続き」が定められています。
相続等により財産を取得した人で他の相続人等がいる場合には、相続税の申告書の提出又は更正の請求に必要となるときに限り、次の(1)又は(2)の財産の区分に応じ、それぞれの金額について被相続人の住所地等の税務署に対して開示の請求をすることができます。
なお開示請求は、被相続人に係る相続開始の日の属する年の3月16日以後(贈与税の申告期限後)に行うことになります。
(1) 他の相続人等が被相続人から加算対象期間内(相続開始日が令和8年12月31日以前の場合は、加算対象期間は相続開始前3年以内)の贈与により取得した財産(贈与税の配偶者控除に係る特定贈与財産及び相続時精算課税適用財産を除く)については、暦年課税に係る贈与税の申告書に記載された贈与税の課税価格の合計額(※1)
(2) 他の相続人等が被相続人から贈与により取得した相続時精算課税適用財産については、相続時精算課税に係る贈与税の申告書に記載された贈与税の課税価格の合計額(※2)
(※1) 相続開始の日が令和9年1月2日以後の場合は、加算対象期間内に取得した財産のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産については、その財産の贈与時の価額の合計額から100万円を控除した残額となります。
(※2) 令和6年1月1日以後の贈与により取得した相続時精算課税適用財産については、相続時精算課税に係る基礎控除後の贈与税の課税価格の合計額となります。
この制度は開示請求をする本人以外の他の相続人等に対する贈与が対象となるため、自身への贈与について確認をするためには、別途「申告書等閲覧サービス」や「個人情報に係る開示請求」を利用する必要があります。
参考:国税庁「贈与税の申告内容の開示請求手続」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/2361.htm
相続税は、各相続人が相続により取得した財産に対して課せられる税金です。相続税の納付義務は原則として、相続により財産を取得した者がそれぞれ負っています。しかしながら、遺産をどのように分割するかについては、相続人に委ねられていることなどを考慮して、相続税の負担の公平や徴収確保を図るため、各相続人間において連帯納付義務が定められています。
連帯納付義務とは、相続人の中に相続税を納付しない人がいる場合、他の相続人がその未納分を代わりに納付する義務のことです。これは、相続人がそれぞれの相続分に応じた相続税を納付する責任を持ちながら、全員が共同で納付責任を持つことを意味します。
連帯納付義務の対象者は、同一の被相続人から財産を相続または遺贈により取得した人が対象です。また、生前贈与を受け、相続時精算課税制度を利用していた人も含まれます。
例えば、相続人がA、B、Cの3人で、相続税の総額が300万円だとします。それぞれの納税額がA100万円、B100万円、C100万円で、Cが納付しなかった場合、AとBはCの未納分100万円を連帯して納付する義務が生じます。
ただし、相続で取得した財産の範囲内で納付義務を負いますので、取得する相続財産以上の相続税を納めることはありません。通常の社会生活を行っており連絡がつく以上、税務署は本来の納税義務者へ取り立てを行います。よほどの事情がない限りは連帯納付義務制度を利用して他の相続人に取り立てが行われることはないでしょう。
しかし、財産を取得したあとに失踪した場合や、納税を済ます前に散財して使い切ってしまった場合などには、他の相続人に連帯納付義務を負わされる可能性が高くなります。
連帯納付義務は、相続税の申告期限から5年間有効です。5年以内であればいつでも税務署から通知がくる可能性があります。
連帯納付義務があるため、相続人同士で事前にしっかりと話し合い、納税計画を立てることが重要です。
税金は、金銭で納付することが原則ですが、相続税については、一定の相続財産で納付する「物納」という制度があります。これは、相続した財産の大部分がすぐに換金できない不動産などであり、納期限まで又は納付すべき日に延納(年賦による分割納付)によっても金銭で納付することが困難な理由がある場合の救済制度です。
相続税を物納するには、物納の許可を受けなければなりません。許可を受けるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
●延納によっても金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること
●物納申請財産が定められた種類の財産で申請順位によっていること
●『物納申請書』及び『物納手続関係書類』を期限までに提出すること
●物納申請財産が物納に充てることができる財産であること
これらの要件はなかなか厳しいものであり、物納はハードルが高いと考えられていますが、物納制度を利用すると次のようなメリットがあります。
●物納によれば譲渡所得税は非課税となる
●物納財産を国が収納するときの価額は相続税評価額となる
例えば、相続した株式の含み益が大きい場合は、譲渡所得税の負担がない分、物納を選択するメリットがあります。また、相続税評価額>物納時の価額であれば相続税評価額により収納されるため、物納を選択するメリットがあるといえます。
ただし、逆に物納時に株価が上昇していた場合でも、その上昇分は考慮されないため不利となることや、取得費加算の特例を使うことで譲渡所得税は抑えられる事を考慮し、物納と売却して納税のどちらが有利か綿密にシミュレーションする必要があります。
先日、国税庁が公表した「相続税の物納処理状況等」によれば、令和5年度の物納申請件数はわずか23件、許可16件となっています。
物納申請件数は、バブル崩壊後の地価の下落や土地取引の減少の影響を受けて増加し、1万件を超えていた時期もありました。しかし、平成18年度税制改正で、物納の基準が明確化された頃から申請数は1千件を切り、平成29年度以降は100件を割り込み、減少傾向が続いています。相続税の物納処理状況等|国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/enno-butsuno/jokyo/01.htm
)
一定のメリットがあるものの、厳しい要件と時間のかかる煩雑な手続き等のため、ほとんど利用されなくなっている物納制度ですが、今後の経済状況の変化や、相続する財産によっては物納制度を選択する方が有利になることもありえます。
自分の財産のうち、不動産などすぐに換金できない財産の割合が高い場合は、物納の可能性とメリットを相続開始前から検討しておくと、物納のメリットを享受できるかもしれません。
#116 兄弟姉妹が相続人となる場合 |
#66 子供のいない夫婦の相続 |
#48 相続人に非居住者がいる場合の申告手続 |
#27 相続税等の納税義務者の見直しについて |
#11 相続税の納税義務者 |
#4 法定相続人と法定相続分 |
#1 相続人の範囲と順位 |
#100 相続財産をふるさと納税した場合 |
#91 遺産を寄付した場合の課税関係 |
#74 国等に対して相続財産を寄附した場合の相続税の非課税 |
#39 平成30年度税制改正~一般社団法人を使った相続税の課税逃れ 対策強化へ |
#31 遺言により相続財産を寄附した場合の相続税の課税関係 |
#8 相続税がかからない財産とは |
#101 相続土地国庫帰属制度について |
#65 国外財産調書の提出状況について |
#54 財産債務調書 |
#29 相続した財産を譲渡した場合 |
#5 相続が発生した場合の被相続人に係る確定申告(準確定申告)について |