前号でもお伝えしたとおり、マンションの相続税評価額見直しが行われる予定です。現行ルールは1964年の国税庁通達に基づくものですが、国税庁は財産の評価方法を定めた通達を令和5年中に改正し、令和6年1月1日以降の適用を目指しています。
今回の改正の最大のポイントは、実勢価格を反映する指標の導入です。新たな評価方法は①築年数や階数などに基づいて評価額と実勢価格の乖離の割合(乖離率)を計算②約1.67倍以上の場合、従来の評価額に乖離率と0.6を掛けることで評価額を引き上げ、戸建ての平均乖離率(1.66倍)にそろえる狙いです。この結果、現在は実勢価格の平均4割程度にとどまっている評価額が6割以上に引き上がることになります。なお、評価乖離率が約1.67以下となるマンションの一室については、現行の相続税評価額をそのまま用いますので、補正計算の適用で現在よりも評価額が下がることはありません。
例えば、国税庁の有識者会議で示された資料を基に試算すると、都内にある築9年の43階建てマンションの23階にある1室(実勢価格約1億1,900万円)を子ども1人が相続した場合、相続税額は約508万円と従来の約12万円から500万円ほど増額となるそうです。
新たな評価方法でマンションの評価額が上がると、資産を多く持つ富裕層の税負担が増します。加えて、もともと相続税を納めなくてもすんだはずの層にも負担が生じる場合があります。また、対象となるマンションは「一棟の区分所有建物」(区分所有者が存する家屋で、居住の用に供する占有部分のあるものをいう。)とのことなので、店舗についても居住用部分があるマンションについては該当しそうです。
今回の評価方法見直し案では、乖離の要因となっている①築年数②総階数(総階数指数)③所在階④敷地持分狭小度の4つの指数に基づいて、評価額を補正する方法が示されています。評価額を確認したい方は、お気軽に担当者にご相談ください。
【参考】
国税庁 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議
https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/0023001-051.pdf
マンションの相続税評価額については、時価(市場売買価格)と大きな乖離が生じているケースがあり、それを利用したいわゆる「タワマン節税」が問題視されていました。
令和5年度税制改正大綱に、「相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。」旨が記載されたのを受け、今年1月から有識者会議において議論されていたところ、今回その具体的な見直し案が示されました。
現行のマンションの評価方法は、不動産鑑定価格や売却価格が通常不明であることから、建物の固定資産税評価額と路線価等に基づく敷地の価額の合計額とされています。この方法では、マンションの「総階数」や「所在階」、「立地条件」など市場価格では考慮される部分が十分に反映されないことが原因となり、評価額が市場価格に比べて低く算定されるケースが多くなっています。国税庁のサンプル調査によるとマンションの相続税評価額と市場価格との乖離は平均で2.34倍となっています。
今回の評価方法見直し案では、乖離の要因となっている(1)築年数(2)総階数(総階数指数)(3)所在階(4)敷地持分狭小度の4つの指数に基づいて、評価額を補正する方法が示されています。具体的な算式は以下のとおりです。
現行の相続税評価額×当該マンション一室の評価乖離率×最低評価水準0.6(定数)
上記の「評価乖離率」は「(1)×△0.033+(2)×0.239+(3)×0.018+(4)×△1.195+3.220」により計算したものとする。
(1)当該マンション一室に係る建物の築年数
(2)当該マンション一室に係る建物の「総階数指数」として、「総階数÷33(1.0を超える場合は1.0)」
(3)当該マンション一室の所在階
(4)当該マンション一室の「敷地持分狭小度」として「当該マンション一室に係る敷地利用権の面積÷当該マンション一室に係る専有面積」により計算した値
適用対象等、より詳細な内容は国税庁発表資料をご参照ください。
新しい評価方法は、意見公募手続を経て、令和6年1月1日以後の相続等・贈与に適用が予定されています。
新しい評価方法によると、市場価格と相続税評価額の乖離が大きかったマンションの評価が上がり、相続税の負担が増えることとなります。このため、令和5年中の駆け込み贈与が想定されるところです。
しかし、相続直前の贈与など極端な事例では、この通達改正のきっかけとなった昨年の最高裁判決のように、総則6項による否認の可能性がありますので注意が必要です。
個人から贈与により財産を取得した者には、贈与税がかかります。贈与税の課税方式は2つあり、原則的な課税方式である暦年課税と一定の要件に該当する場合に選択することができる相続時精算課税で贈与者ごとに異なる課税方式を選択することができます。
相続時精算課税の制度については、相続税と贈与税の一体化措置として平成15年度税制改正で導入されました。その後改正が行われ直近では令和5年度の税制改正で見直しが行われています。(弊所メールマガシン第186号参照)
原則として60歳以上の父母又は祖父母などから、18歳以上の子又は孫などに対し、財産を贈与した場合において選択することができますが、この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降すべてこの制度が適用され、暦年課税へ変更することはできません。
また、この制度の贈与者である父母又は祖父母などが亡くなった時の相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算することになります。
この制度が創設されてから約20年という期間が経過していますが、納税者の中には相続時精算課税を過去適用したことを忘れている方も多く、相続税の申告において相続財産への加算漏れとなっている事例が散見されているようです。
このため東京国税局では独自に、相続時精算課税制度を適用している方に対して相続税の申告期限前にお知らせを送付する試みを令和5年5月から開始しました。
対象となるのは令和4年10月相続開始分からで、送付時期は概ね相続税の申告期限の3か月前を目途に実施されます。
なお次の場合には送付対象から除くこととしているため、相続時精算課税制度の適用者全員には送付されません。
・相続税の申告案内の対象になっていない場合
・相続時精算課税制度を適用した受贈者(相続人等)が東京国税局の管轄外に居住している場合
※相続人が複数いる場合で、東京国税局の管轄内に居住する相続人と管轄外に居住する相続人のいずれの方も同制度を適用している場合には、いずれの方も送付対象から除かれます。
この試みは現時点では東京国税局の管轄内に限られており、他の国税局では行われていないため、まずは贈与税の申告書を保管するなどして相続税において申告漏れが起こらないよう注意する必要があります。
毎年、相続税の申告事績及び調査状況についてまとめた「相続税の申告事績の概要」、「相続税の調査等の状況」が国税庁から公表されてます。
これによると令和3年分における死亡者数は約143万人で、そのうち相続税の申告書を提出した者は約13万人となっており、課税割合は9.3%となっています。相続税の基礎控除額の引き下げが行われた平成27年以降、8%台で推移していた課税割合が令和3年では9%台となり最も高い割合を示しています。
また、相続財産の構成比としては土地・家屋の割合が減少傾向、現金・預貯金の割合が増加しています。平成24年時点では、土地・家屋の占める割合が50%を超えていましたが、この10年間で38%まで減少しております。反対に預貯金の割合は平成24年の25%から令和3年は34%と増加しております。
相続税の税務調査については、新型コロナウイルス感染症の影響により実地調査件数が大幅に減少した令和2年の5,106件から令和3年は6,317件と増加しました。申告漏れ課税価格の3,530万円は過去10年間で最高となり、また1件当たりの追徴税額は886万円と、過去最高であった令和2年の943万円に次いで2番目となりました。
また、令和2年に引き続き、文書、電話による連絡又は来所依頼による面接などの簡易な接触による調査が積極的に行われ、その結果、申告漏れ課税価格は630億円、追徴税額の合計は69億円となり、簡易な接触の事績の集計を始めた平成28年以降で最高となっています。
また、海外資産関連事案に係る申告漏れ等が115件となり、租税条約等に基づく情報交換が積極的に行われている結果増加していますので、海外財産の計上漏れに注意が必要です。
申告漏れ財産の構成比は、金融資産(現金・預貯金・有価証券)が約40%と高くなっています。家族名義の預貯金・株式などが重点的に調査された結果ではないでしょうか。
<参考>
国税庁 「令和3年分 相続税の申告時事績の概要」
sozoku_shinkoku.pdf
(nta.go.jp)
国税庁 「令和3事務年度における相続税の調査等の状況」
遺言信託とは
信託銀行など金融機関が提供するサービスの一種で、「遺言書の作成」から「遺言書の保管」そして、「遺言の執行」まで、相続や遺言に関わる手続きを幅広くサポートしてくれるものです。
ただし、法律用語としての遺言信託とは、遺言において、遺言する人が信頼できる人に、特定の目的に従って財産の管理等する旨を定めることにより設定する信託をいいます。
最近は、法律上の遺言信託よりも、商品名としての「遺言信託」のほうが一般化してしまったため、一般的には遺言信託というと信託銀行等の商品名を指すことが多くなってきています。
◇遺言信託のメリット
信託銀行等のパンフレットによるとメリットとして次のようなものが挙げられています。
・遺言の作成や保管などに関するサービスが受けられる。
・遺言作成に当たって事前相談を受けることができる
・遺言執行もしてもらえる
・安心感がある
・資産運用のアドバイスが受けられる
◆ デメリット
・信託報酬が高い。また、遺言保管料が毎年かかる。
・身分上の行為については遺言執行してもらえない
・親族同士でもめると対応してもらえない
また、相続や遺言に関わる手続きのサポートを受ける方法としては、司法書士、弁護士及び税理士などの専門家に直接依頼する方法もあります。実際、遺言信託を利用しても、不動産登記は司法書士へ、相続税の申告は税理士へ依頼するため、別途費用はかかります。また、信託銀行は、相続でもめるなど家族内のトラブルに対応してくれませんが、弁護士であればトラブルになったときの解決のサポートをしてくれます。
今後の相続対策の参考にしてみてください。
令和5年度税制改正では、相続時精算課税制度と暦年課税についての見直しが行われました。今回は、このうち相続時精算課税制度の見直しについてご紹介していきます。
相続時精算課税制度は、平成15年度税制改正により創設された制度で、18歳以上の子や孫が、60歳以上の父母や祖父母から生前贈与を受ける際に選択できる制度です。
「相続税と贈与税の一体化」の目的を先取りしたといえるこの制度ですが、その利用は低迷していました。令和5年度税制改正では、暦年課税との選択制は維持しつつ、利便性向上のための見直しが行われます。
現行制度のポイントと改正内容とそのポイントは次のとおりです。
◎現行制度のポイント
・贈与税計算の際、特別控除額2,500万円の控除ができる
・特別控除額2,500万円を超えた金額に対して20%の単一税率で贈与税の計算をする
・制度選択後は、その選択にかかる贈与者からの贈与は、すべて相続時精算課税が適用され、少額の贈与でも申告が必要(暦年課税への変更は不可)
・贈与者死亡時の相続税の計算上、制度を選択した年分以後の贈与財産をすべて加算し、既に支払った贈与税相当額を相続税額から控除する(控除しきれない金額は還付)
・相続税の計算時に加算する贈与財産の価額は、贈与時の価額に固定される
◎改正の内容とポイント
・贈与税計算の際、年110万円の基礎控除が新設された
・制度を適用して取得した一定の不動産が災害によって被害を受けたときは、相続税の
課税価格に加算される不動産の価額は、被害を受けた部分の額を控除した残額とする
・年110万円までの贈与については贈与税の申告不要
・年110万円までの贈与は、特別控除額2,500万円の対象外
・相続開始前7年以内の贈与でも、年110万円までの基礎控除分については、相続財産から切り離すことができる
上記の改正は、令和6年1月1日以降に行われる贈与によって取得する財産にかかる
相続税または贈与税について適用されることとなります。
年110万円の基礎控除の新設など、使い勝手が向上した相続時精算課税制度ですが、
贈与を受けた財産の価値が災害以外の要因で下落した場合のリスクや小規模宅地の特例を適用できないこと、共同相続人への贈与税申告内容の開示制度等がありますので、生前贈与に際して「暦年贈与」「相続時精算課税贈与」のどちらを選択するかは慎重に判断する必要があります。
近年、親の相続で土地建物を取得したがそのまま空き家となり、賃貸や売却もできず、固定資産税や修繕費などの維持管理費だけが発生している、いわゆる「負」動産の処分について頭を抱えていらっしゃる方が多く見受けられます。
このような土地が管理できないまま放置されることで、将来、「所有者不明土地」が発生してしまうことを予防するため、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする「相続土地国庫帰属制度」が創設されました。
この制度は、令和5年4月27日から利用が可能となり、施行日前に相続等により取得した土地も対象となります。
手続の流れとしては、以下のとおりです。
1.相続又は遺贈により土地を取得した相続人が、法務局に承認申請を行い、審査手数料を納付
2.法務局により要件審査・承認
3.申請者が10年分の土地管理費相当額の負担金を納付
4.土地の所有権が国庫に帰属
申請するためには、一定の要件を満たす必要があり、以下の却下事由と不承認事由に該当する土地については国庫への帰属が認められません。
(1) 却下事由(申請をすることができないケース)
・建物がある土地
・担保権や使用収益権が設定されている土地
・他人の利用が予定されている土地
・土壌汚染されている土地
・境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
(2)不承認事由(承認を受けることができないケース)
・一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
・土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
・土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
・隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
・その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
承認後に納付する負担金は原則20万円と定められていますが、承認を受けた土地がどのような種目に該当するか、またどのような区域に属しているかによって、負担金が決定されます。
このように国庫に帰属させる土地については要件が厳しく、国は本制度の利用見込等に関する調査で、この制度を利用して国庫に帰属させると見込まれる者の割合は0.95%と試算しています。
申請時に建物があると自己負担で取り壊したり、隣地との境界が明らかでない場合には確定させるなど多くの手間と費用が発生しますが、自己の所有する土地が要件を満たすようであれば1つの解決方法として考えてみてはいかがでしょうか。
法務省「相続土地国庫帰属制度について」
相続又は遺贈により財産を取得した人が、相続税の申告期限までに、その相続や遺贈により取得した金銭をふるさと納税した場合には、そのふるさと納税した金額は、相続税の非課税となり相続税の課税対象とはなりません。
相続税の非課税財産としては、墓地や墓石、生命保険金の一部など7項目あり、その中に国や地方公共団体へ寄付した財産が含まれています。ふるさと納税は「国や地方公共団体への寄付」にあたります。
ふるさと納税(寄付)による相続税の非課税の適用を受けるためには、注意しなければいけない点があります。
・遺言による寄付ではないことを終わらせること
・相続税の申告期限(10ヶ月以内)までに寄付手続きを行うこと
・不動産や株式を換金して寄付していないこと
・相続税申告書に寄付証明書を添付して提出すること
相続税の非課税の規定は、相続した財産を寄付した場合に適用することができます。不動産や株式など現金以外の物を相続した場合、相続人がそれらを現金化してから寄付すると、それは「相続財産を寄付した」とはいえなくなってしまいます。よって、相続した現金の範囲内でふるさと納税を行う必要があります。
また、寄付証明書がいつ送られてくるかは自治体により異なりますが、手続き完了から2カ月程度とされているところが多くなっています。申告期限に間に合うように余裕を持って手続きを行う必要があります。
ふるさと納税は、相続税で「国や地方公共団体への寄付」として非課税財産にできる他、所得税や住民税についても寄付金控除の適用を受けることができます。ただし、ふるさと納税をした自治体からの返礼品は、一時所得となることに注意が必要です。一時所得は所得税の課税対象となるため、多額の返礼品をもらうと所得税がかかります。
ふるさと納税は相続税の負担軽減と所得税・住民税の寄付金控除を併用することも可能ですが、ふるさと納税を行う人の所得や家族構成、子どもの年齢などによって控除の対象になる年間の上限金額は異なります。
また、寄付した分の財産は減ってしまうため、注意が必要です。相続した財産をふるさと納税しない方が、結果的に手元に残る財産が多くなるかもしれません。
ふるさと納税は相続税の負担軽減になるほか、返礼品の楽しみもあるなど人気が高まっていますが、あくまで相続税対策の1つとしてお考え下さい。
法務局における自筆証書遺言書保管制度が、2020年7月10日から開始されたときにもお伝えしましたが、最近、もしもに備えた遺言の重要性が再認識されているのか、遺言書を書いておきたいとの相談を受けるけることが多くなっているため、再度、「自筆証書遺言書保管制度」について説明いたします。
遺言書を作っておけば、一般的には、残された相続人がスムーズに手続きができたり、相続にまつわる無用なトラブルを避けられたりすることが期待できます。
この遺言書には、大きく分けて、自分で書く自筆証書遺言書と、公証役場で作る公正証書遺言書があります。
公正証書遺言書は、作成時に「公証人」という専門家が関与し、証人が2名立ち合うなど、厳格な手続きになりますが、手間がかかるため、なかなか気軽に作れないことや、費用がかかるといったデメリットがあります。
自筆証書遺言書は、費用がかからず気軽に一人で書けるという利点がある一方で、一般的に自宅で保管するため紛失したり改ざんされたりする可能性があることや、相続時に家庭裁判所の検認が必要といったデメリットがありました。
この自筆証書遺言書のデメリットを解消する目的で創設されたのが「自筆証書遺言書保管制度」です。
保管制度が創設されたことで、法務局で自筆証書遺言書を保管してもらうことが可能となり、紛失や破棄といったリスクがなくなります。また、法務局で保管してもらう自筆証書遺言については、相続発生後の検認の手続きが不要となり、相続手続きをスムーズに進めることができます。
この自筆証書遺言の保管手続きには、手数料3,900円と本人確認書類等が必要となりますが、法務局で内容の確認がされますので、封は必要ありません。
また、法務局では遺言の原本を保管するだけでなく、その内容を画像データにして保存してくれます。遺言書をデータ化することで、死亡後、相続人は全国で遺言書の有無や内容を確認することができるようになります。
≪特徴≫
・
15歳以上で遺言書(財産目録を除く)、日付及び氏名を自署さえできれば一人で作成
・
証人不要
・
法務局で厳重に保管
・
保管申請手数料は3,900円
・
家庭裁判所の検認不要
・
死亡時の通知制度あり
ただし、法務局に保管されるだけで、事前に遺言書が法律上の要件を満たしているのか確認をしてもらえるわけではありませんので、自筆証書遺言書の作成は、ご自身だけで完結するのではなく、専門家のチェックを受けることをお勧めいたします。
<参考>
自筆証書遺言書保管制度のご案内(法務省民事局)
昨年の秋、「生前贈与がダメになる前に!」や「チャンスはあと2回だけ」というような雑誌の特集を多く目にしました。この相続税コラム(♯83.87)でも取り上げていますが、このような特集が組まれた理由は、税制改正大綱に「相続税と贈与税の一体化」に向けた方針が示されたことで、相続税対策の王道である「生前贈与」が早ければ令和4年から封じられるのではないかという懸念から、資産家のみならず中間層にまで関心が高まったためと考えられます。
結局、令和4年度税制大綱での導入は見送られましたが、今年末に決定される令和5年度税制改正大綱で、ついに一定の改正が行われると予想されています。
まずは、廃止がささやかれていた年間110万円の暦年贈与についてです。暦年課税は、時間をかけてコツコツ贈与すれば、結果的に多くの財産を無税で次世代に移転することができる制度です。これについては、自民党の宮沢洋一税制調査会長が、「世代間の資産移転を促進する観点などから、暦年贈与の110万円を縮小する必要はないと思う。なくすのは政治的にも難しい」と述べているほか、政府税調の中里実会長も、見直しを否定しているようです。このことから、暦年贈与は今後も存続する方針がほぼ固まったとみられています。
その一方、「持ち戻し」の期間については延長される可能性が濃厚のようです。「持ち戻し」とは、相続開始前の生前贈与を相続財産に加算(持ち戻し)して、相続税を計算するもので、死期が近付いてからの駆け込み贈与を防ぐ目的で定められています。
持ち戻しの期間は、日本では死亡3年前までとされていますが、イギリスは7年、フランスは15年など海外ではより長くなっています。持ち戻しの期間が仮に15年とされた場合、年齢や健康状態によっては、生前贈与の大半が無意味になってしまう可能性もあります。
持ち戻しの期間延長が令和5年度税制改正に盛り込まれたとして、一番気になるのはいつの贈与から対象になるかです。制度改正後の贈与が対象となるとすると、まさに冒頭の雑誌のタイトルどおり「チャンスはあと2回だけ」ということになるかもしれません。今年もあと残り1月半、年内の贈与について大いに検討するべきと考えます。
実際にどのような改正がされるかは不明ですが、どのような改正になったとしても、早期に相続対策に取り組むことが重要であることを再認識する機会となりそうです。
高齢化社会が進み、長年住んでいた自宅から老人ホームなどの介護施設へ入所する方が増えています。入所後自宅は空家となり誰も住まなくなった状態で相続が発生した場合、その自宅に係る敷地について小規模宅地等の特例はどうなるのでしょうか。
個人が、相続等より取得した財産のうち、「相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」については、一定の要件を満たした場合、対象面積330㎡までの部分について80%を減額することができます。この制度を小規模宅地等の特例といいます。
被相続人が老人ホームなどの施設に入所していた場合、自宅の敷地については、「相続の開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」ではないため、小規模宅地等の特例を適用することができなくなりますが、次の(1)又は(2)の事由により居住の用に供することができなかった場合には、小規模宅地等の特例を適用することができます。
(1)要介護認定又は要支援認定を受けていた被相続人が次の住居又は施設に入居又は入所していたこと
・認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居
・養護老人ホーム
・特別養護老人ホーム
・軽費老人ホーム
・有料老人ホーム
・介護老人保健施設
・介護医療院
・サービス付き高齢者向け住宅
(2)障害支援区分の認定を受けていた被相続人が障害者支援施設などに入所又は入居していたこと
上記要介護認定等を受けていた者には、介護保険制度の基本チェックリスト該当者も対象となります。
またその要介護認定等を受けていたかどうかの判定時期は、相続開始の直前で判定することになります。
したがって、老人ホーム等に入居等をする時点において要介護認定等を受けていない場合であっても、相続開始の直前において要介護認定等を受けていれば、小規模宅地等の特例を適用することができます。
なお、被相続人が老人ホームなどに入所していた場合で、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等について小規模宅地等の特例を受けるためには、相続税の申告書に以下の書類を追加で添付する必要があります。
・被相続人の戸籍の附票の写し
・介護保険の被保険者証の写し等で要介護認定等を受けていたことを明らかにする書類
・施設への入所時における契約書の写しなど入居等をしていた施設等の名称及び所在地並びにその老人ホーム等が特例の適用対象となる一定の施設等に該当することを明らかにする書類
#91 遺産を寄付した場合の課税関係 |
#74 国等に対して相続財産を寄附した場合の相続税の非課税 |
#39 平成30年度税制改正~一般社団法人を使った相続税の課税逃れ 対策強化へ |
#31 遺言により相続財産を寄附した場合の相続税の課税関係 |
#8 相続税がかからない財産とは |
#90 成年年齢引き下げと遺産分割協議への影響 |
#89 成年年齢引き下げに伴う相続税・贈与税への影響 |
#88 令和4年度税制改正による相続税・贈与税の影響 |
#87 相続税と贈与税の一体化 |
#83 相続税・贈与税の一体化!? |
#68 新型コロナウイルス感染症拡大防止に伴う相続税の取扱い |
#30 相続税の納付の方法 |
#17 相続税の申告期限 |
#5 相続が発生した場合の被相続人に係る確定申告(準確定申告)について |