相続人の中に認知症の方がいる場合、相続の手続きをどのように進めればよいでしょうか。相続した財産は、遺言書がない限り、相続人全員で遺産分割協議を行って分け合います。遺産分割協議を終了するためには、相続人全員の合意が必要となります。しかし、相続人の中に認知症の方がいると、その相続人が自筆で遺産分割協議書にサインしたとしても、内容を理解しないまま署名捺印をしたと判断されると、その遺産分割協議書は無効となってしまうことがあります。
だからといって、認知症の相続人を除いて遺産分割協議をしても、その協議は無効です。相続人全員の署名捺印がない遺産分割協議書では、預貯金の払い戻しや不動産の名義変更などの手続はできません。
そのため、認知症により判断能力が不十分な相続人がいる場合は、成年後見制度の利用を検討する必要があります。
成年後見制度とは、自分で物事を判断できない方の権利を守るために、成年後見人が財産の管理や法律行為を代わりに行う制度です。支援される人を成年被後見人といい、例えば、認知症、知的障害、発達障害、精神障害などを患っていて、判断能力を欠いている常況にある方が該当します。
成年後見制度を利用することによって、認知症の相続人がいたとしても遺産分割協議を進めることができます。
成年後見人になるために特別な資格は必要ありません。通常は日頃から面倒を見ている親族を成年後見人に立てるのが望ましいと言えます。ただし、共同相続人が成年後見人となった場合には、利益相反が生じるため、特別代理人の選任が必要となります。また、遺産分割協議が成立したからといって成年後見人の任期が終了となるわけではありません。成年後見人は、判断能力のない本人の権利や利益を保護するために選任された人ですので、一度選任されると特別な事情がない限りは、本人が死亡するまで成年後見人としての業務を続けなければなりません。
成年後見人を立てないで相続するには、生前に遺言書を書いておくことをおすすめします。遺言書で遺産の分配方法を指定しておけば、相続人はそのとおりに遺産を受け取ることになり、遺産分割協議をする必要はありません。遺言による相続は相続人が行う法律行為ではないので、意思能力がない認知症の相続人であっても、成年後見人を立てることなく遺産を受け取れます。
最近、ふるさと納税やUNHCRへのウクライナの緊急支援寄付といった所得税に関する寄付の相談だけではなく、遺産の一部を学校や公益法人等に寄付したい場合の相談を受けることがあります。遺産を寄付する場合、「どこへ」「どうやって」寄付するかにより課税関係が大きく異なります。
寄付の方法は、「相続人に寄付を託す」と「遺言により寄付する」の2つあります。
1.
相続人に寄付を託す<相続財産寄付>
相続や遺贈によって取得した財産を相続人が寄付した場合、原則、相続税が課されますが、以下の要件を満たすと相続税が課されません。
(1)
寄付した財産は、相続や遺贈によって取得した財産そのものであること
(2)
相続税の申告期限(10ヶ月)までに寄付すること
(3)
寄付した先が国や特定の公益法人等であること
(4)
相続税申告書に寄付した財産の明細書及び文部科学省が発行する「相続税非課税法人証明書」を添付すること
【ポイント】
・取得した財産そのものしか認められません。
・相続した不動産や株式を現金化したり、遺産分割協議前に香典や相続人の預金から寄付したりすると要件を満たしません。
・証明書を文部科学省に申請して発行してもらうまで、約1~2ヵ月かかります。
2.
遺言により法人に対して寄付する
遺言で法人に対して寄付した場合には、相続税は個人にのみかかる税金のため、非課税となります。代わりに、受け取った法人に対して相続税ではなく法人税が課されます。ただし、一定の公益法人に対する寄付は法人税も非課税となります。
【ポイント】
・寄付する財産が現預金等であれば問題ありませんが、不動産や株式等を寄付する場合には、被相続人が時価で譲渡したとみなして譲渡所得税が課されますので、被相続人の準確定申告が必要となります。
一概にはいえませんが、お勧めなのは、遺言で現預金を寄付することです。そうすれば、寄付した財産は、相続財産から除外され相続人にはなにも税金が発生しませんし、相続開始後相続人が10ヶ月以内にバタバタする必要もないからです。また、上記1(3)の要件を満たさない法人にでも寄付することができます(同族法人への寄付は別の課税関係が生じる場合があります)。ご自分の意思をきっちり伝え、事前に適切な準備をしておくことが大切です。
令和4年4月1日より、成年年齢が現行の20歳から18歳に引き下げられます。
明治9年に日本で成年年齢が20歳とされて以来、約140年ぶりの見直しとなります。
4月からは18歳の人も成人として扱われ、親の同意を得ずに契約ができるようになったり、住む場所や進路決定についても自分の意志で決められるようになります。
成年年齢の引き下げは、税にも影響を及ぼします。TIMELY@Azure第160号にて既に紹介しておりますが、影響を受ける相続税・贈与税の規定の主なものは以下の通りです。
①未成年者控除
②相続時精算課税制度
③事業承継税制
④住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税
⑤贈与税の税率の特例
①の未成年者控除は、財産の取得時に相続人が未成年であると税額が控除できるという制度です。成年年齢引き下げにより、これまでより控除できる額が減ることになります。
一方、②から⑤では、20歳以上という要件が18歳以上に改められることで、この制度を2年早く利用できるようになりますので、生前贈与を使った相続税対策を2年前倒しする検討が必要かもしれません。
税制の論点ではありませんが、成年年齢の引き下げは、遺産分割協議という相続に関する重要な手続きに影響を及ぼします。未成年は遺産分割協議に参加できないため、未成年者がいる場合は、家庭裁判所の審判によって特別代理人を選任する必要があります。この特別代理人を選任しなければならない年齢も20歳から18歳に引き下げられるため、相続人に18歳・19歳の人がいる場合には、令和4年4月1日以後に遺産分割協議をすれば、特別代理人選任などの手続きをする必要なく、遺産分割協議を成立させることができます。
成年年齢の引き下げは、18歳19歳の人の行動の幅を広げる一方で、不当な契約を結ばされた場合でも簡単に取り消すことができなくなるなど、その行動に責任が求められます。
遺産分割協議についても、不利な協議に同意させられてしまうというリスクもあるため、
未成年のうちから契約に関する知識や、財産に関する教育が重要となると共に、子を持つ親としても、どのような事が変わるのかをしっかり理解しておくことが必要です。
平成30年6月に民法の一部を改正する法律が公布され、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げられ、令和4年4月1日から施行されることとなりました。
飲酒・喫煙などの年齢制限については20歳のまま維持されますが、今後18歳に達すると成年となり親の同意がなくても、携帯電話やクレジットカードの契約、ローンを組んだり一人暮らしで部屋を借りたりすることができます。
相続税や贈与税においても20歳を基準としているものがあり、改正により見直しが行われ、主な項目について以下のものがあります。
(1)未成年者控除
相続等により財産を取得した者が20歳未満である場合には、10万円にその者が20歳に達するまでの年数を乗じて計算した金額が控除されますが、改正後の令和4年4月1日以後に開始した相続から18歳へ引き下げられます。
(2)相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、贈与年の1月1日において20歳以上の子又は孫に財産を贈与した場合に暦年課税に代えて選択できる制度ですが、改正により令和4年4月1日以後の贈与から18歳以上へ変更されます。
(3)贈与税の税率の特例
贈与税の税率は、通常の場合の贈与税の税率(一般税率)と直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例(特例税率)があり、贈与価額によって一般税率より低い税率が設定されています。特例税率は贈与年の1月1日において20歳以上の者が父母や祖父母などの直系尊属から譲り受けた場合に適用がありますが、改正により令和4年4月1日以後の贈与から18歳以上の者へ変更されます。
(4)非上場株式等に係る贈与税の納税猶予制度
非上場株式等に係る贈与税の納税猶予制度(一般措置及び特例措置)における受贈者の年齢要件が改正されます。具体的には「経営承継受贈者」(一般措置)及び「特例経営承継受贈者」(特例措置)の要件に、それぞれ贈与の日において20歳以上であることとなっているため、18歳に改正されます。
令和4年中に親が子に贈与をしようとする場合、(3)にありますように贈与を受ける子の年齢によって贈与税の税率が異なります。
令和4年1月1日に18歳又は19歳の子に、令和4年3月31日以前に贈与する場合と令和4年4月1日以後に贈与する場合では贈与税率が異なる場合がありますので贈与をする時期には注意が必要です。
先月のコラムで相続税と贈与税の一体化について紹介しましたが、今回は令和4年度税制改正大綱により改正される予定の主な項目を紹介します。
・住宅取得等資金の贈与税非課税
住宅を購入する際、両親や祖父母などの直系尊属から資金の贈与を受けた場合に一定の要件を満たすときは贈与税が非課税とされる制度です。
今回の改正点は、
(1)適用期限が現行令和3年12月31日から令和5年12月31日まで2年延長
(2)非課税限度額は、次の区分に応じた金額
ア)耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋は1,000万円
イ)上記以外の住宅用家屋 500万円
(3)中古住宅の場合の適用要件緩和
(築年数要件を廃止し、新耐震基準に適合している住宅用家屋であること。なお、登記簿上の建築日付が昭和57年1月1日以降の家屋については、新耐震基準に適合している住宅用家屋とみなされます。)
(4)適用対象年齢を現行の20歳以上から18歳以上へ引き下げ
・相続に係る所有権移転登記に対する登録免許税の特例措置の拡充及び延長
所有者不明土地の解消に向けて不動産登記法が改正され、これまで義務のなかった相続登記が義務化されます。
それに伴い、登録免許税の免税措置について、次の要件としたうえで、適用期限(令和4年3月31日)が3年延長されます。
(1)適用対象となる土地の範囲に、市街化区域内の土地を追加
(2)適用対象となる土地の価額の上限を現行10万円から100万円に引き上げ
・非上場株式等に係る納税猶予の特例制度
事業承継税制とは、中小企業の後継者が先代経営者等からの贈与、相続又は遺贈により取得した非上場株式等に係る贈与税・相続税の一部又は全部の納税が猶予される制度で中小企業の円滑な事業承継を支援するために設けられています。
非上場株式等に係る納税猶予の適用を受けるためには特例承継計画を提出する必要がありますが、その提出期限について現行令和5年3月31日から令和6年3月31日に延長されます。
最近、雑誌や週刊誌の特集で「生前贈与がダメになる前に!」や「まだ間に合う駆込み贈与」というタイトルをたくさん目にしました。
これは、令和3年度の税制改正大綱で
「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」との文言があったため、最短で令和4年度の税制改正大綱より相続税と贈与税の一体化が導入されるかもと懸念されていたからだと推測されます。
10日に発表された令和4年度税制改正大綱では導入が見送られたものの、「現行の相続時精算課税制度と暦年贈与制度の在り方を見直す」「贈与税の非課税措置は、限度額の範囲内では家族における資産の移転に対して何ら税負担を求めない制度であることから、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく」など、より踏み込んだ文言で一体化に向けた方針が改めて打ち出されています。
では、一体化されると相続税と贈与税のルールはどのように変わるのかというと、たとえば、相続発生前に行われた一定期間の生前贈与を相続税の課税対象とする制度があります。 現行の制度でも、相続から遡って3年以内の生前贈与を相続税の課税対象とされています。この3年以内の期間を海外並みの10~15年以内に延長する可能性が取りざたされています。
また、令和4年度の税制改正大綱でも強調されたように、1人当たり年110万円の非課税枠を利用する「暦年贈与」の撤廃も公算が大きいといわれています。
来年以降に、どのような改正が行われるか不明ですが、どんな方向性が示されても生前贈与はやっておいても損はないと思います。もちろん将来の改正により贈与の効果が無駄になることもあり得ます。しかし、仮になったとしても損はないためです。
先日“Appleの「デジタル遺産」機能iOS 15.2βで設定可能に”というニュースを見ました。「デジタル遺産」とは、ネット上に保管されている預金口座や暗号資産、電子マネーなど、デジタル形式で保管されている故人の財産のことをいいます。
デジタル遺産も他の財産と同様に相続税の対象となると考えられていますが、不動産のような実在する財産と違い、目に見えない財産であるがゆえに例えば次のような問題を抱えています。
1.相続財産から漏れやすい
デジタル遺産は、スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器やネット上に保存されているため、相続人がその存在を把握するのが難しい財産です。
相続税の申告後に財産が発見された場合は修正申告の必要があり、延滞税等の負担もあります。
2.IDやパスワードがわからない
デジタル遺産は通常、IDやパスワードによって管理されています。相続人がデジタル遺産の存在を把握できたとしても、IDやパスワードがわからない場合、相続手続きが難航してしまいます。
3.スマートフォンやパソコンのロックが解除できない
デジタル遺産の存在確認や、相続手続きのためには、故人のスマートフォンやパソコンを操作する必要があります。しかし、ロック解除のためのパスコードがわからないと操作ができず、財産調査を進めることが困難となります。
4.デジタル遺産が負の遺産の場合があること
音楽や動画配信など定額制の契約がある場合、その多くは自動更新となっており、解約しない限り料金を払い続けることになります。また、FXでは解約のタイミングにより損失が発生してしまう場合もあるようです。
デジタル資産を保有する方は、遺族に負担をかけないためにも、生前から資産情報を整理し、一覧表にするなどの対策をしておくことをおすすめします。
今後はデジタル遺産を相続する方が増え、それに関連するトラブルが表面化してくることが予想されます。財産性のあるデジタル遺産がほとんどないという方も、「自分に万が一の事が起こったとき、スマートフォンの中のデータはどうなってしまうのか」という、誰にでもおこり得るようなことから考えてみる必要がありそうです。
年金の受給権は、一身専属的な権利であるため年金を受給していた人が死亡した場合、その時点で消滅します。
したがって被相続人に支払われるはずであった年金がある場合は、遺族がこれを請求し受け取ることができます。これを「未支給年金」といいます。未支給年金の対象となるものは、国民年金、厚生年金や共済年金などが該当します。
通常年金は偶数月に、それぞれ前月までの2ヶ月分が支払われ、受け取っていた受給者が死亡した場合、その死亡した月の分まで支払われます。
例えば3月に死亡した場合、3月分まで支払われますので、2月に12月分と1月分が支払われ、本来なら4月に2月分と3月分が支払われますが、年金受給者はすでに死亡しているため、この2月分と3月分の未支給年金については遺族が請求することによって受け取ることができます。
この未支給年金は、相続税の課税対象となるのでしょうか。
国税庁の質疑応答事例にもありますが、未支給年金の請求権については、その死亡した受給権者に係る遺族が、その未支給の年金を自己の固有の権利として請求するものであり、死亡した受給権者に係る相続税の課税対象とはなりません。
それでは、未支給年金を受け取った遺族には何も税金がかからないかというと、そうではありません。相続税の課税対象とはなりませんが、遺族の一時所得に計上する必要があります。
なお、未支給年金は請求をしないと受け取ることができません。通常は死亡届を提出する時にあわせて未支給年金請求書も一緒に提出することになりますが、被相続人と死亡の当時、生計を同じくしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他3親等内の親族が請求することができます。
国税庁「未支給の国民年金に係る相続税の課税関係」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/02/09.htm
財産を相続するときには、現金、預金や自宅などのプラスの財産以外に住宅ローンなどマイナスの財産も一緒に相続しなければなりません。
住宅ローンでマイホームを購入して、ローン返済中に死亡した場合、支払い途中の住宅ローンはどうなるのか気になると思います。ローン返済中に事故や病気などで完済前に死亡してしまう可能性は誰にでもあります。その場合、その後の住宅ローン返済はどうなるのでしょうか。住宅ローンには、借入時の条件として団体信用生命保険への加入があり、万が一債務者が死亡した場合は、ローン残高に相当する保険金が支払われる仕組みとなっています。
団体信用生命保険(団信)とは、住宅ローン返済中に債務者が返済できなくなった場合、保険金によってローン残高が支払われる保険です。保険金は住宅ローンを組んでいる金融機関に支払われるため、遺族は住宅ローンの負担をしなくてもよいことになります。
相続開始時にはまだ住宅ローンは残っていて、死亡保険金が支払われるとなると、住宅ローンの残高は債務控除の対象になるのか、また死亡保険金はみなし相続財産に該当するのか気になるところです。住宅ローンや団信による死亡保険金について相続税の計算上それぞれの取り扱いはどのようになるのでしょうか。
まず団信についてですが、相続税のみなし相続財産になるのはその保険料の全部又は一部を被相続人が負担していた死亡保険金であり、団信はその保険料を負担しているのは被相続人ではなく、受取人である金融機関ですので、相続税の課税財産にはなりません。
では、住宅ローンは債務控除できるのではと思われそうですが、残念ながら債務控除もできません。債務控除の対象となるものは被相続人が死亡したときに存在した債務で、確実と認められるものと定められています。団信の保険金で返済される住宅ローンは確実に負担する債務とはなりませんので、債務控除はできないということになります。
<参考>国税不服審判所の裁決事例(昭和63.4.6裁決)より
相続税法上、債務控除ができる「確実と認められる債務」とは、債務が存在するとともに、債権者の債務の履行を求める意思が客観的に認識しうる債務、または債権債務成立に至る経緯から、事実的、道義的に履行が義務付けられているという場合、すなわち、債務の存在のみならず、履行の確実と認められる債務と解される。本件債務は、保険金によって補てんされることが確実であって、請求人の支払う必要のないものだから「確実と認められる債務」にあたらない。また、保険金受取人は銀行であり、被相続人が保険料を負担した事実は認められないから、請求人の主張は失当である。以上の理由により、保険債務は相続税の課税価格の計算上、債務控除の対象とならない。
令和 3 年度税制改正大綱の中で、資産の早期の世代間移転の促進、富裕層による租税回避の防止などを考慮し、諸外国の税制を参考にして、「現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直す」「資産移転の時期に中立な税制を構築」など、相続税と贈与税の一体化について本格的に検討を進めていくといった旨が記載されています。
相続税と贈与税の一本化とは、贈与税を廃止して、生前贈与で移転した資産も相続で移転した資産と合算して一緒に課税しようという動きです。
これは従来、生前の贈与による資産移転を長期間管理できないという課税上の問題があり実現が難しいといわれていたのですが、マイナンバーの導入やIT技術の進歩によって、あながち不可能ではなくなってきているのではないかとも考えられます。今回、この問題が税制改正の俎上に上ったのも、現在進展している税務行政のデジタル・トランスフォーメーション化の流れと無関係ではないかもしれません。
また、日本では、相続開始日前 3 年以内の贈与が相続税の課税対象となります。しかし、欧米諸国ではさらに長い期間の贈与を課税対象としています。例えば、イギリスでは相続開始前7年間、フランスでは 1 5 年間、アメリカでは生前贈与全てが相続税の課税対象となります。
こういった諸外国の状況を踏まえると、今後日本においても、相続税の課税対象に入る生前贈与の期間を長くなる可能性も考えられます。
令和3年度の税制改正では、相続税・贈与税の根本的な変更は行われなかった一方、贈与税の非課税制度の一部が改正されました。まだ、現段階では、具体的な暦年課税制度の見直し案は出ていませんが、生前贈与をしようと考えている方や長期的に暦年課税制度を利用して承継対策を考えておられる方は、今後、贈与税の制度がさらに変更する可能性もあることを踏まえて、時期を少し早めることも検討した方がよいかもしれません。
参照
令和 3 年度税制改正大綱 18頁~19頁
https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/200955_1.pdf
日本には、所有者不明土地が2016年時点で約410万haあり、今後対策を講じない場合、2040年には約720万haにまで増加するといわれています。これは、北海道本島の土地面積に迫る水準です。
この所有者不明土地による弊害は多岐にわたり、少なくとも約6兆円(2017-2040年の累積)の経済的損失をもたらすという報告もあります。(所有者不明土地問題研究会:平成29年報告)
この問題を解決するため、「所有者不明土地の発生予防」「既に発生している所有者不明土地の利用の円滑化」の両面から、総合的に民事基本法制の見直しが行われました。
相続登記の義務化はその中の1つです。今後は、不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられます。正当な理由のない申請漏れには過料の罰則もあります。
そもそも相続登記をしないままにしておくと、不動産の売却や担保設定ができませんし、長期間放置することによって権利関係が複雑になるリスクがあります。今後は過料も課されますので注意が必要です。
相続登記義務化関係の改正は、公布(令和3年4月28日)後3年以内の政令で定める日に施行される予定です。現時点で長期間登記未了の土地をお持ちの方も対象となりますので、早めに行動を起こすことをお勧めします。
※詳細については、以下法務省ホームページをご参照下さい。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、先月末には緊急事態宣言が延長されたこともあり、現在では感染者も減少傾向にありますが、まだまだ予断を許さない状況が続いています。
マイホームを建てるにあたって、親から住宅資金の贈与を受けたが、外出の自粛要請などにより、住宅の新築竣工時期に遅れが生じ、取得要件又は居住要件が満たせず、住宅取得資金の贈与税の非課税特例が使えなくなることが予想されます。
父母・祖父母など直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受け、贈与税の非課税の適用を受ける場合には、取得期限(贈与を受けた年の翌年3月15日)までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築(いわゆる棟上げまで工事が了している状態を含みます。)又は取得等をし、居住期限(同年12月31日)までにその家屋に居住することが要件となっています。
ただし、災害によって住宅用の家屋に被害を受けた場合等には、次のとおりその適用要件が緩和され、その特例の適用を受けることができます。
1、住宅用の家屋の新築等をした人が、その家屋が災害により滅失(通常の修繕によっては原状回復が困難な損壊を含みます。)したため、その家屋に居住できなかったときには、居住要件が免除され、住宅取得の際の贈与税の特例の適用を受けることができます。
2、住宅用の家屋の新築等をする人が、「災害に基因するやむを得ない事情」により、その家屋の新築等が取得期限までにできなかったとき又はその家屋に居住期限までに居住できなかったときには、それぞれの期限が1年延長され、住宅取得の際の贈与税の特例の適用を受けることができます。
上記2に関して、国税庁は2月に「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」を更新し、「住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例における取得期限等の延長について」を追加しました。
今般の新型コロナウイルス感染症に関しては、例えば、緊急事態宣言などによる感染拡大防止の取組に伴う工期の見直し、資機材等の調達が困難なことや感染症の発生などにより工事が施工できず、工期が延長される場合など新型コロナウイルス感染症の影響により生じた自己の責めに帰さない事由については、「災害に基因するやむを得ない事情」に該当するものと認められることを明らかにしました。
小規模宅地等の特例とは、亡くなった方が住んでいた土地、事業をしていた土地、貸していた土地について、一定の要件を満たす人が相続したときにその宅地の評価額を最大で80%減額できる特例です。
今回のコラムは、その中でも賃貸アパートの敷地や貸し駐車場(貸付事業用宅地)についてふれます。
貸付事業用宅地とは、事業と称するに至らない程度の不動産の貸付けを行っている宅地で小規模な賃貸アパートや貸駐車場の敷地をいいます。相続税の申告期限までにその宅地を取得した相続人が貸付事業を継続している場合に、200平方メートルまで50%の評価減ができます。
この貸付事業用宅地について、特例を適用するには貸付事業の開始時期について注意しなければなりません。2018年度の税制改正で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地については特例適用の対象外とされました。
これは、相続開始の直前に貸付事業を開始して特例の対象とする対策が多く行われたため、特例適用が厳格化されました。
ただし、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に相続又は遺贈により取得した宅地のうち、平成30年3月31日までに貸付事業を開始した宅地については、特例の対象とする経過措置が設けられていました。この経過措置も今年3月31日で終了しました。
今後は相続開始前3年以内に貸付事業を開始した宅地については特例が適用できないため注意が必要です。
なお、相続開始前3年を超えて一定の事業的規模(「5棟10室」以上が基準とされています)で不動産貸付事業を行っている者が新たに行った貸付事業は、相続開始前3年内の事業開始であったとしても、特例の適用は可能です。
例えば、被相続人が生前から3年を超えて10室以上あるアパート経営をしている場合に、亡くなる直前に2棟目のアパートの賃貸を開始していた場合などは、たとえそれが相続開始前3年以内の事業開始であったとしても、2棟目のアパートは特例の対象になるということになります。
日本では長寿化が進む一方で認知症等のリスクに備える必要性も高まってきています。厚生労働省の発表によると、2025年には認知症患者が約700万人にのぼり、65歳以上の約5人に1人が認知症という世の中になるとされています。
相続が発生したときに、遺言書がある場合には、被相続人の意思を尊重し、原則として遺言書どおりに遺産分割を行いますが、一方、遺言書がない場合には、通常は遺産分割協議によって相続分を決めます。この遺産分割協議には相続人全員の同意が必要なため、認知症の程度にもよりますが、相続人としての意思表示ができない認知症の方がいる場合には遺産分割協議が行えません。
認知症対策のひとつとして、任意後見制度の利用が考えられます。任意後見制度は資産を持つ人が元気なうちに、自己が判断能力を失ったときに財産を管理する後見人をあらかじめ選定しておく制度で、成年後見制度のひとつです。ただし、任意後見制度の場合、後見人は裁判所が決定するため親族以外の第三者が選出されたり、また、財産管理について裁判所の監督のもとで財産保全が求められるため、現実的には活用しづらい面もあります。
そのため、家族の資産を第三者が管理することに抵抗がある場合、たとえば「家族信託」を利用することで家族の中でのみ資産管理を行うことが可能です。
家族信託とは、自分の老後や介護等に備え、保有する不動産や預貯金などを信頼できる家族に託し、管理処分を任せる家族のための財産管理のことです。遺言書以上に幅広い遺産の承継も可能であるほか、信頼できる身内に財産の管理を託すため、基本的に高額な報酬が発生しない点なども特徴です。しかし、家族信託も任意後見制度のデメリットを補えるところもありますが、受益者の税金の負担が大きくなるなどのデメリットがあります。
相続税の節税対策も大切ですが、相続における認知症対策も大切です。任意後見契約とすべきか家族信託を利用すべきか、それとも信託銀行に依頼すべきか等の判断については事前に専門家に相談することをお勧めします。
※
厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について」参照
TIMELY@Azure第136号では相続税の統計調査についてご紹介しましたが、今回はこの中でも税務当局が特に注目している「海外資産」について詳しくみていきたいと思います。
令和元事務年度における相続税の調査において、海外資産に係る申告漏れ等の非違件数は149件で過去最高となっています。また、非違1件当たりの申告漏れ課税価格も5,193万円という多さです。これは、富裕層の資産運用の国際化が進んでいることと、CRS情報等の活用が進んでいることが要因と考えられます。
このCRSとは「Common Reporting Standard」(共通報告基準)の頭文字で、OECDにおいて非居住者に係る金融口座情報を世界の税務当局間で自動的に交換するための国際基準のことです。国税庁の資料※によれば、情報交換が始まって2年目の令和元事務年度で交換された情報量は前年よりかなり増加しており、今後ますます大量の情報が世界各国間で交換されることとなるでしょう。
※国税庁 令和元事務年における租税条約等に基づく情報交換事績の概要(令和3年2月)
https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/0021001-087.pdf
これらの手法を使って税務当局は確実に海外資産を捕捉しつつあり、相続税の調査の際にも来る前から海外資産の存在を把握し、重点的に調査をすることも予測されますので、海外の資産は税務署にはわからないという考えは改めた方がよさそうです。
相続税の調査の際に資料情報から申告されていない海外資産が発見された場合は直ちに申告漏れとなりますが、所得税においても「国外財産調書」を適正に提出しないとペナルティを課されてしまいます。提出義務のある方(居住者の方でその年の12月31日において、その価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する方)は適正に提出することをおすすめします。
相続税の申告件数は、大幅な税制改正があった平成27年以降増加傾向にあります。また地域別にみても、愛知県は東京都、神奈川県に次いで3番目に件数が多くなっています。
国税庁が毎年公表している最新の情報では、全国で令和元年中に亡くなられた方は約138万人(前年136万人)、このうち相続税の課税対象となった方は約11万5,000人(前年11万6,000人)で課税割合は全国平均で8.3%(前年8.5%)となりました。
(参考)令和元年分名古屋国税局管内の課税割合
・愛知県・・・13.9%(前年14.3%)
・岐阜県・・・8.5%(前年8.4%)
・三重県・・・7.3%(前年7.2%)
申告する相続財産別の金額は、順に土地が34.4%(平成22年48.3%)、現金・預貯金等33.7%(平成22年23.3%)、有価証券15.2%(平成22年12.1%)となり、ここ数年の間に相続財産の割合が土地から現金・預貯金等・有価証券などの金融資産へシフトしているのが分かります。
(参考)名古屋国税局管内の相続財産別の推移
・土地・・・37.2%(平成22年51.2%)
・現金・預貯金等・・・31.9%(平成22年21.3%)
・有価証券・・・14.0%(平成22年11.5%)
また相続税の税務調査の状況についての最新の情報では、新型コロナウイルスによる感染拡大の影響により調査件数は1万635件となり、前年よりも15%減少しています。このうち申告漏れ等があった件数は9,072件で非違割合は85.3%となっていて、全体で3,048億円(1件当たり2,866万円)の申告漏れ財産を把握しています。
申告漏れ財産の内訳は、現金・預貯金等が33.1%、土地が12.4%、有価証券が10.8%となっています。この他にも国税庁は海外資産関連の調査についても公表しており、海外資産に係る申告漏れ件数は149件と過去最高となり、金額は77億円となっています。
近年、国税庁は資産運用の国際化に対応し、相続税の適正な課税を実現するために、租税条約等に基づく情報交換制度のほか、CRS制度(非居住者に係る金融口座情報を各国の税務当局間で自動的に交換を行う制度)を利用して海外取引や海外資産の保有状況の把握に努めており、海外財産も含めて相続財産の計上漏れには十分注意する必要があります。
国税庁「相続税の申告事績の概要」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2020/sozoku_shinkoku/pdf/sozoku_shinkoku.pdf
国税庁「相続税の調査等の状況」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2020/sozoku_chosa/pdf/sozoku_chosa.pdf
国税庁は、昨年12月に令和2年分の路線価(7月~12月分)の補正に係る対応方針を明らかにしました。
令和2年7月1日に、令和2年分の路線価が国税庁ホームページで公開されていますが、この路線価は1月1日を評価時点とし、地価の80%程度を目途に算定されており、新型コロナウイルス感染症の影響は反映されていません。そのため地域によっては、相続税の申告までに地価が20%以上下落し、地価と路線価の逆転現象が生じる可能性が懸念されていました。このような状況を踏まえて、国税庁は地価が路線価よりもおおむね20%以上下落した地域については、路線価に補正率を乗じて評価できるよう検討するとしていました。
これについて国税庁は、令和2年10月28日に、令和2年1月から6月までの期間については、地価の大幅な下落は確認できないため、路線価等の補正は行わない旨を公表しました。ただし、20%近く地価が下落している地域が複数あり、引き続き地価の動向を注視し、7月以降の相続・贈与分について補正の検討がされていました。
今回、国税庁は路線価の補正対応について令和3年1月下旬に次の2点を公表する方針であることを明らかにしています。
(1)令和2年7月から9月までの期間で路線価の補正を行う地域。
(2)令和2年10月から12月までの期間で路線価が地価を上回る可能性がある地域。
(実際に路線価の補正を行う地域は令和3年4月に公表される予定)
令和2年分の贈与税の申告・納付期限は令和3年3月15日(月)となっていますが、路線価の補正対応を踏まえ、令和2年分の贈与税の申告・納付期限の延長の取扱いについて次のとおりとしています。
(1)令和2年1月から9月までの間に贈与を受けた場合の申告・納付期限は、令和3年3月15日(月)で変更はありません。
(2)令和2年10月から12月までの間に贈与を受けた場合の申告・納付期限について、路線価等が地価を上回る可能性がある地域(令和3年1月下旬に公表された地域)に所在する土地等の贈与を受けた納税者については、個別の期限延長により、路線価の補正に係る公表の日(令和3年4月)から2か月以内の申告・納付が認められます。
また、次の場合には税金を減額(還付)するように請求することができます。
(1)路線価の補正の公表前に申告した場合でも、補正がされたことによって納付税額が過大となった場合。
(2)令和3年1月下旬に公表された地域以外で、4月に新たに路線価等が地価を上回る地域として公表された場合。
12月10日に自由民主党・公明党による「令和3年度税制改正大綱」が公表されました。その中において、教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、孫等が受贈者である場合に贈与者死亡時の残高に係る相続税額の2割加算が適用されないこと等が節税的な利用に繋がっているとの指摘を踏まえ、格差の固定化の防止等の観点から所要の見直しを行った上で、適用期限を2年延長することとされました。
(1)直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税措置については、次の措置を講じた上で、その適用期限を2年延長することとされました。
信託等があった日から教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合(受贈者が23歳未満である場合などを除く。)には、その死亡の日までの年数にかかわらず、同日における管理残額を、受贈者が当該贈与者から相続等により取得したものとみなす。
上記1.により相続等により取得したものとみなされる管理残額について、贈与者の子以外の直系卑属に相続税が課される場合には、管理残額に対応する相続税額を、相続税額の2割加算の対象とする。
(2)直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税措置については、次の措置を講じた上で、その適用期限を2年延長することとされました。
贈与者から相続等により取得したものとみなされる管理残額について、当該贈与者の子以外の直系卑属に相続税が課される場合には、当該管理残額に対応する相続税額を、相続税額の2割加算の対象とする。
受贈者の年齢要件の下限を18歳以上(現行:20歳以上)に引き下げる
その他申告書等の書面による提出に代えて電磁的方法により提供ができるといった改正があります。
なお、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与の非課税措置については、贈与の多くが扶養義務者による生活費等の都度の贈与や基礎控除の適用により課税対象とならない水準であること、利用件数が極めて少ないこと等を踏まえ、次の適用期限の到来時に、制度の廃止も含め、改めて検討するとのことです。
令和3年度税制改正大綱
https://www.jimin.jp/news/policy/200955.html
相続や遺贈によって財産を取得した人が、その取得した財産を国や地方公共団体、特定の公益法人に寄附した場合には、一定の要件を満たすことでその寄附した財産について相続税を非課税とする特例の適用を受けることができます。
1.対象となる財産
寄附した財産は、相続や遺贈によって取得した財産であること。
相続や遺贈で取得したとみなされる生命保険金や退職手当金も含まれます。
※相続財産を処分した代金を寄附しても相続税は非課税になりません。
2.寄附の期限
相続税の申告書の提出期限まで。
3.寄附の相手
国、地方公共団体、教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められる公益を目的とする事業を行う特定の法人又は認定非営利活動法人(認定NPO法人)。
※特例の対象となる法人は政令で定められており、既に設立している法人に限ります。
4.特例を受けるための手続き
相続税の申告書にその適用を受ける旨を記載し、かつ、その適用を受ける寄附財産の明細書や一定の証明書類を添付することが必要です。
※一定の証明書類は、寄附先から取り寄せるものがありますので、寄附の際、相続財産からの寄附であることを伝えて寄附をするとスムーズです。
なお、寄附金控除対象団体への寄附であればこの相続税の非課税措置に加え、所得税・住民税の寄附金控除も利用できるというメリットもあります。
相続財産の一部を寄附して社会貢献ができ、同時に相続税の非課税と寄附金控除のメリットを受けることができるこの特例ですが、適用を受けるためには上記概要で示した他にも様々な要件を満たす必要がありますので注意が必要です。相続財産の寄附という選択をお考えの場合は事前に相談することをおすすめします。
一般社団法人等は、登記のみによって容易に設立することができ、事業目的にも制限がありません。また株式会社と違って持分が存在しないため、当該法人が保有する財産が個人の財産に反映されることはありません。そのため近年では節税目的による一般社団法人等の設立が相次いでいました。
その仕組みは、理事が同族関係者で占められている一般社団法人等を設立して資産を移すことによって、相続財産から除外し、その後も同族関係者が支配することによって実質的に非課税で資産を相続できることになります。
このような租税回避を防止するため、平成30年度税制改正により特定の一般社団法人等に対して相続税を課税する規定が設けられました。
平成30年4月1日以後に特定一般社団法人等の理事(理事でなくなってから5年を経過していない者を含む。)が死亡した場合には、その法人に対して相続税が課税されることになりました。
具体的には、法人の純資産額を相続開始の時における同族理事数に1を加えた数で除した金額を遺贈で取得したものとみなして課税します。
なおこの制度は、公益社団法人又は公益財団法人、法人税法に規定する非営利型法人(非営利徹底型・共益型)は除かれます。
特定一般社団法人等とは、次に掲げる要件のいずれかを満たす法人をいいます。
1.相続開始の直前における同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超えること。
※同族理事とは、一般社団法人等の理事のうち、被相続人又はその配偶者、三親等内の親族その他のその被相続人と特殊の関係のある者をいい、被相続人が役員となっている法人や被相続人が支配する同族会社の役員・従業員も含みます。
2.相続開始前5年以内において、同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。
この制度は、過去に設立した一般社団法人等については、経過措置が設けられ、平成30年3月31日までに設立されたものである場合には、令和3年4月1日以後の同族理事の相続から適用されることになります。
(参考)特定の一般社団法人等に対する課税のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku-zoyo/201909/01.htm
東京商工リサーチの調べによると、令和元年に設立された一般社団法人は、6,083社(前年比1.3%増)となっています。平成27年には11.4%増と2ケタの伸び率でしたが、税制改正後の平成30年には6.0%減とマイナスに転じており、伸び率は鈍化しています。
節税としてのメリットが薄くなったとはいえ、争族を避けるために遺産分割の対象外にできるというメリットもあり、一般社団法人等の設立においては、法人形態、理事の構成など慎重に検討する必要があります。
法定相続情報証明制度とは、被相続人や相続人の関係を法務局に証明してもらう制度です。この制度が創設された理由はいくつかありますが、主には相続人に不動産の相続登記を促すためといわれています。
近年、不動産を相続しても相続登記をしない方が増えています。これにより、所有者不明土地問題が深刻化し、固定資産税の徴収や老朽化に伴う危険の発生等が社会問題化しています。そこで、国としても、相続関係の証明を容易にして可能な限り相続登記を促進しようと考え、平成29年5月から運用が開始されています。
法務局が発行する法定相続情報証明書は、不動産の名義変更や預貯金払い戻し、株式の名義変更などの際に利用できます。
これまで、不動産の相続登記や銀行預金の解約手続を行う場合、原則として、被相続人の生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本、改正原戸籍、除籍謄本を取得して、その原本を法務局や各金融機関に提出しなければいけませんでした。
しかし、法定相続情報証明制度を利用すると、法務局の登記官が被相続人の相続関係について、内容が間違いないことを確認したうえで、認証文付きの法定相続情報一覧図の写しを交付します。相続人は、その法定相続情報一覧図を提出すれば、各種の相続手続ごとに戸籍等をわざわざ提出しなくても、相続手続きを進めることができるようになります。
たとえば、法定相続情報一覧図を提出すれば、預金の解約等を行う場合に戸籍謄本等の原本を提出する必要なく預貯金の解約や払戻しを行うことができます。また、証券会社における名義変更の手続でも、法定相続情報一覧図を提出すれば戸籍謄本等を提出する必要がなくなります。