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令和6年7月19日 架空外注費取引

 先日、川崎重工業が架空外注取引によって得た資金で、海上自衛隊員の接待をしていたことが新聞報道や同社のIRで知られることになりました。

 川崎重工業によると、大阪国税局の税務調査により、2024年3月期までの6年間で十数億円の架空取引があったと指摘され、法人税などの追徴税額は約6億円に上るといいます。架空取引は工事に必要な資材の発注先となる複数の業者との間で行われ、捻出した資金は商品券や生活用品の購入、飲食費に充てられ、これらについて川崎重工業社員および潜⽔艦乗組員の関与があったとの疑いです。

 また防衛省は、海上自衛隊が保有する潜水艦の修理業務に絡み、海上自衛隊員が製造元の川崎重工業の社員から金品を受け取った疑いがあると発表しました。川崎重工業と下請け会社の間で行われていた架空取引の収益を使って、川崎重工業が海上自衛隊員を接待していた可能性があるとのことです。

 このように、税務調査により、架空外注取引が把握されるケースが後を絶ちません。というよりも、税務当局が対象会社の外注取引先を予め確認し、実在しないか稼働していない事業所だと把握してから税務調査が開始されるか、外注先からのリークが発端になって税務調査が開始されるケースがあります。国税庁では、例えば、勘定科目内訳書に記載されている外注先について、国税庁のシステム(KSKシステム)で検索し、当該外注先の課税事績と比較して、架空・水増しの当たりを付けているといわれています。

 架空外注費と認定された場合、その行為は納税者による隠蔽又は仮装に該当するとして、法人税、地方法人税及び消費税等本税に加えて、重加算税が賦課決定処分されることになるので、厳に控えてください。 

令和6年7月1日 新紙幣とタンス預金流出

 日銀の資金循環統計によれば、2024年第一四半期末の家計の金融資産のうち、現金が3兆2918億円減少に転じました。この数字には預金は含みません。タンス預金が流出したと言っても良いでしょう。残高ベースでは、108.9兆円もの現金が105.6兆円に減少したというものです。それにしても100兆円を超える現金が家計部門に積みあがっているのは驚きです。ところで現金が減った理由については、(1)日銀のマイナス金利解除にともなう銀行の預金金利の引き上げや(2)インフレ(3)新NISAの導入、そして(4)今月からの新紙幣の発行が考えられます。

 そこで、新紙幣の発行とタンス預金について考えてみます。もともとタンス預金には問題があります。

 まず1点目が、タンス預金をしていると、現金が火災や地震、洪水などの災害などで失われるリスクがあります。特に、火災や地震の保険などでは現金が補償の対象外となるため、焼失や紛失により保護されません。この点、金融機関に預金しておけば、仮に災害などの被害にあっても預金は守られることになります。

 2点目が盗難リスクです。空き巣や強盗などの被害にあうことを想定すれば、余程頑丈な金庫などを準備しない限り、タンス預金が盗難されるリスクは無視できません。

 3点目が紛失リスクです。特にタンス預金を長期間放置すると、本人も現金を保管した場所を忘れてしまい、気づかないうちに紛失してしまうリスクがあります。また、家族に隠していると、本人死亡の場合、遺族がそれを知らずに処分してしまうリスクもあります。

 そして4点目が、遺産相続のトラブルになる可能性です。タンス預金は存在証明の根拠がないことが多いため、適正な遺産相続が行われなくなるリスクがあります。

 高齢者の中にはタンス預金は相続税対策になると信じている人も少なくありません。相続税は相続財産が増えるほど負担が大きくなります。所有者がすぐに突き止められる預金や株などとは異なり、現金のままならば見つかりにくく、税務署に申告しなくてもバレないと考えるからでしょう。しかし、実際にはタンス預金は預金の流れを追うことで、ある程度は判明してしまうことがほとんどです。そして新紙幣の発行でそのリスクも高まりそうです。この機会に金融機関へのシフトや、次世代への生前贈与を検討ください。

令和6年6月17日 相続税の課税割合~全国1位東京、2位愛知

 相続税の申告は、すでに多くの方にとって身近な問題になっています。被相続人(亡くなられた方)が90歳なら、相続人は60~70歳です。今後、3人に1人が高齢者となる未来に向けて、相続税は親の相続のみならず、自分の相続も同時に考えなければならない問題として、ますます身近になってくるでしょう。

 国税庁が公表した令和4年分の相続税の申告状況によると、令和4年分における被相続

人数(死亡者数)は1,569,050 人(前年対比 109.0%)でした。そのうち相続税の申告書の提出に係る被相続人数は 150,858 人(同112.4%)、亡くなった人に占める相続税申告をした人数の割合(課税割合)は全国平均で9.6%(前年は9.3%)でした。

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2023/sozoku_shinkoku/pdf/sozoku_shinkoku.pdf 

この課税割合、都道府県別でみると、東京都が第1位で18.7%(前年は18.1%)でしたが、2位は愛知県で15.1%(前年は14.9%)で、1位2位は2年連続で変わっていません。 

東京都は地価が圧倒的に高いので納得ですが、2位の愛知県が意外です。都道府県庁所在地の最高路線価は1位東京都、2位大阪市、3位横浜市で名古屋市は第4位です。

 また、総務省の発表した「家計調査報告(貯蓄・負債編)二人以上の世帯」より、都道府県庁所在都市別の平均貯蓄ランキングを見ても、名古屋市がダントツ1位でもありません。

https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/index.html 

 やはり、統計には現れにくい、事業用資産や自社株式などの評価がカウントされていると考えられ、その結果、愛知県の相続税課税割合が高くなっていると思われます。

 当事務所でも相続税の申告を扱う件数は年を追うごとに増加しています。亡くなった後の相続税の申告はもとより、生前の相続税対策をぜひ一緒に検討してみたいと思います。 

令和6年6月4日 子育て支援~令和6年度税制改正

 厚生労働省が令和6年2月に発表した人口動態統計の速報値(外国人らを含む)によると、令和5年に生まれた赤ちゃんの数(出生数)は過去最少の75万8631人で、初めて80万人を割った令和4年から5.1%減り、少子化が一段と進んでいます。

  このため、令和6年度税制改正では、住宅ローン控除、住宅リフォーム税制について、子育て世帯等を優遇する措置が講じられましたのでお知らせします。

住宅ローン減税については、子育て世帯等が住宅ローン控除を受けようとする場合、住宅ローン等の借入限度額を、認定住宅は5,000万円(+500万円)、ZEH水準省エネ住宅は4,500万円(+1,000万円)、省エネ基準適合住宅は4,000万円(+1,000万円)に増額する措置を講じます。

 ここで子育て世帯等とは、①年齢40歳未満であって配偶者を有する者、②年齢40歳以上であって年齢40歳未満の配偶者を有する者又は年齢19歳未満の扶養親族を有する者が該当します。現在子育て中の世帯だけではなく、今後子育ての可能性のある世帯も含まれています。この場合において、年齢40歳未満・年齢19歳未満であるかどうかの判定、その個人の配偶者または扶養親族に該当するかどうかの判定は、令和6年12月31日基準となりますのでご注意ください。

 また、住宅リフォーム税制については、子育て世帯等が子育てに対応した住宅へのリフォームを行う場合に、標準的な工事費用相当額の10%等(最大控除額25万円)を所得税から控除する措置を設けます。子育てに対応した住宅へのリフォーム工事のイメージは、転落防止の手すりの設置や防音性の高い床への交換等です。

 なお、令和6年度税制改正により、親や祖父母等から資金贈与を受けて住宅の取得等をした場合、 最大1,000万円までの贈与が非課税となる制度も延長されていますので、併せて活用ください。住宅ローン減税の特例の適用も受ける場合には、贈与税の申告もし、かつ、所得税の確定申告もする、ということになります。

令和6年5月16日 介護保険料の負担増と合計所得金額

 65歳以上の高齢者が支払う介護保険料は3年に1度、その額の見直しが行われています。

 先日の厚生労働省発表によると本年4月に改定された額について、最も高い自治体と最も安い自治体の間でおよそ6,000円の差があることがわかりました。「市町村別で最も金額が高いのは大阪市で9,249円。一方で、金額が最も安いのは、東京都小笠原村で3,374円。自治体によって、毎月の金額が最大で5,875円の差がありました。」というものです。

 しかし、この数値はあくまでも「基準額」であり、被保険者一人当たりの平均的な負担額にすぎません。皆様の手元に届いた介護保険料の通知書とはかなり乖離があります。それは各人の「合計所得金額」によって異なり、かつその段階も変わったからです。

 名古屋市の場合、令和3年度~5年度は、全15段階で、最高の第15段階は、本人の合計所得金額が1,000万円以上で年額199,273円でした。これが、令和6年度~8年度においては、全18段階で、最高の第18段階は、本人の合計所得金額が1,500万円以上で年額258,550円です。最高ランクの方は実に29.7%アップ、3割増になっています。

 この「合計所得金額」が曲者です。退職金や上場株式の譲渡損失の繰り延べがある方は要注意です。

 例えば令和5年分確定申告で給与等の総合所得が650万円とし、前年以前の上場株式譲渡損の繰り越しが△200万円あったとします。上場株式の譲渡損は3年間の繰り越しが認められていますので、翌年以降の上場株式の特定口座内配当と相殺して税金還付を申告します。令和5年の上場株式の特定口座内配当金900万円を申告して繰越控除をした場合、この繰越控除する前の配当所得900万円が総合所得650万円に合算されます。合計所得金額は、繰越控除前なので1,500万円を超えるので最高ランクになる、ということです。

 わかりにくいですが、このように合計所得金額が各種税制、社会保障制度に影響を与えます。目下のテーマである「定額減税」の対象となるのは、本人の令和6年分の所得税に係る「合計所得金額」が 1,805万円以下という条件があります。本人の合計所得金額が1,805万円を超えればそもそも減税の対象外となるため、扶養親族が何人いても減税額はゼロということになります。これにもご留意ください。

令和6年5月2日 住宅資金の贈与非課税特例の改正に注意

 マイホームの購入時、親子間でサポートが行われるケースは少なくありません(祖父母から援助を受けるケースもあります)。この場合、個人から個人への贈与となるので贈与税の対象となってきます。マイホームは高額なので、贈与額も必然的に高くなります。

暦年課税の場合、110万円以下なら非課税ですが、マイホームの資金としては不十分です。また相続時精算課税の場合は2,500万円までは非課税ですが、自分たちの老後資金や、のちのちの相続のことを考えると二の足を踏む人もいるでしょう。こうした時に活用されるのが「住宅取得等資金の非課税の特例」です。この特例を使うと最大1,000万円までの贈与が非課税となります。

この特例について、令和6年度税制改正では適用期限が令和81231日まで3年間延長されたのですが、1,000万円までの上乗せ措置の対象となる「省エネ等住宅」の要件が一部引き上げられているので注意が必要です。

住宅取得等資金贈与に係る贈与税の非課税特例は、自己の居住用の住宅用家屋に係る新築等の対価に充てるため、父母や祖父母等の直系尊属から金銭の贈与を受けた場合、その住宅用家屋が一般住宅であれば500万円、「省エネ等住宅」に該当すれば更に500万円が上乗せされて1,000万円までの贈与が非課税となります。

問題は、ここでいう「省エネ等住宅」です。要件は、①エネルギーの使用の合理化に著しく資する住宅用の家屋、②大規模な地震に対する安全性を有する家屋、③高齢者等が自立した日常生活を営むのに特に必要な構造等の基準に適合する家屋として、国土交通大臣が財務大臣と協議して定める基準に適合するものとされています。このうち、①の省エネ性能の要件について、これまで断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4以上だったものが、改正後は各等級が引き上げられ、断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上となりました。なお、②及び③の要件については、改正後も変更はありません。

この省エネ等級引上げは、住宅で消費する一次エネルギー消費量を抑えつつ再生エネルギー等を活用することで、一次エネルギー消費量の収支がゼロになることを目指すZEH(ゼッチ)水準に合わせたもので、所得税の住宅ローン控除のうち、令和6年度改正で維持された「子育て世代・若者夫婦世帯」の借入限度額が4,500万円となる「ZEH水準省エネ住宅」の要件と同様となっています。新基準を満たす住宅には、原則として改正後の「住宅性能証明書」が発行されますので、贈与額を検討する場合には、住宅メーカー等に早めに証明書の発行内容を確認してから、安心して贈与実行することをお勧めします。

 

参考情報↓

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000018.html

令和6年4月17日 どこから手を付ける?「定額減税」の実務

6月から定額減税が始まります。これを「月次減税事務」といい、対象となる従業員等(6/1甲欄在職者=「基準日在職者」)の配偶者や扶養親族の人数を把握するところから始まります。月次減税額は、従業員本人3万円に、合計所得金額が48万円以下(給与所得だけの場合は年収103万円以下)の「同一生計配偶者」及び扶養親族1人につき3万円を加算して計算するため、加算対象となる人数を把握しなければならないからです。

同一生計配偶者と扶養親族については、基本的に、昨年末の年末調整の際などに提出されている「扶養控除等申告書」を確認して把握するのですが、必ずしも加算対象となる人数と一致しない場合があります。

扶養控除等申告書で把握できるのは、「源泉控除対象配偶者」であり、従業員本人の合計所得金額が900万円以下で、合計所得95万円(給与所得の場合は年収150万円)以下の配偶者です。一方、定額減税の対象になるのは、従業員本人の合計所得金額に制限はなく、合計所得金額が48万円以下の配偶者です。また扶養親族では、「16歳未満の扶養親族」について、所得税の計算に影響しないことから、扶養控除等申告書に記載していない従業員がいます。このように記入漏れがあり得ますし、6月までに増減もあり得ますが、定額減税の対象になります。

このような場合、新様式の「源泉徴収に係る申告書」を基準日在職者に提出してもらう方法で把握できます。ただ、扶養控除等申告書での把握ミスや、基準日在職者によって確認する申告書が異なることによる給与担当者の事務負担の増加等に対して不安の声も聞かれます。これらを解消する観点等から、全ての基準日在職者から“源泉徴収に係る申告書”の提出を受け、確認作業を同申告書に一本化する運用をしても問題ありません。

そもそも源泉徴収に係る申告書は、基準日在職者が、月次減税額に源泉控除対象配偶者に該当しない同一生計配偶者の減税額を加算したい場合に提出するもので、対象となる同一生計配偶者と扶養親族が、扶養控除等申告書に記載されているのであれば、提出は不要ですが、法令上、提出を禁じているわけではありません。したがって、事務負担軽減等を理由に、全ての基準日在職者に対して、月次減税額の加算対象となる同一生計配偶者と扶養親族の全員を記載した状態で、源泉徴収に係る申告書の提出を求める対応をしてもよいということです。

「月次減税事務で減税漏れのないようにしたいので、全員提出してください」と伝達の上、基準日在籍者に配布するところから始めましょう。新様式の「源泉徴収に係る申告書」は下記です。

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/teigaku/pdf/0024002-044_01.pdf

令和6年4月2日 34年ぶりの株価、土地価格、円相場

3月27日の円相場は対ドルで下落、一時、1ドル=151円97銭近辺を付け、1990年以来、およそ34年ぶりの円安水準となりました。またその前日には土地の価値を示す公示地価が発表され、この地方でも住宅地・商業地で上昇傾向となりました。愛知県内の地価の平均変動率は、住宅地で去年より+2.8%。商業地でも、+4.2%と住宅地・商業地ともに3年連続で上昇し、岐阜県では商業地が、三重県では住宅地・商業地ともに32年ぶりの上昇となりました。また、日経平均が34年2カ月ぶりに最高値を更新しました。

 このように、株価、土地価格、円相場がそろって34年ぶり(土地は32年ぶり)の水準と聞くと、まさにわが国は失われた30年だったと思わざるを得ません。

 要因はコロナ禍が沈静化したこと、インバウンド含め観光客が回復傾向にあること、企業の稼ぐ力の向上やガバナンス(企業統治)の改善、インフレ型経済への移行の期待など様々言われています。

 しかし、34年ぶりの円安水準というのは困りものです。日銀の政策修正後も、世界で突出して金利が低い状況は変わらないとの見方から売り圧力がとまらず、円買いが起こりにくい需給構造の変化も根底にあるようです。また新しいNISAでの投資信託購入により世界株や米国株などへの投資が増え、年2兆円規模で円売りが増えるとの見方があり、個人の海外志向が円安進行に影響しています。円安の長期化は大企業の業績に追い風になる半面、国内のインフレ圧力を高め特に個人消費に影を落とします。中小企業も賃上げ(しかも防衛的賃上げ)をしようとしても、輸入物価上昇の圧力から、実質賃金が上がらないことになりかねません。

令和6年3月19日 定額減税の準備を

今、皆様のお手元には税務署から「定額減税」のパンフレットが届けられていると思います。本来は、令和6年度税制改正のための税制改正法案が成立した場合の手続きですが、早くも広報活動が始まっているわけです。

成立はほぼ確定ですので、そのうちにマスコミやスーパーなどが大きく取り扱うはずです。しかし、この減税事務は税務署がやってくれるわけではなく、事業者が自ら従業員さんへ行うことになりますので、準備が必要です。

 令和6年6月1日以後最初に支払われる給与・賞与(「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員さんに限ります)につき源泉徴収される所得税の額から特別控除の額(本人3万円+扶養親族人数×3万円)に相当する金額を控除して支給し、控除した金額を給与明細に記入します。1回で控除できれば良いのですが、多くの従業員さんからは控除しきれません。その場合は、翌月以降に順次控除します。従業員さんの給与・賞与の手取りが多くなることから、関心も高まると思います。もちろん従業員さんだけでなく、役員の皆さんも対象です。

 また個人事業主の方は、7月の予定納税から減額され、かつ予定納税時期も9月に延期されます。

 普段の給与計算事務の扶養親族の人数と異なる場合もありますので、6月までに準備をすることをお勧めします。当事務所では今月、恒例のシーズンセミナーを開催し、定額減税の事務の流れを一緒に確認したいと思いますのでご参加ください(Zoomでもご参加いただけます)。


国税庁定額減税特設サイトはこちら↓

https://www.nta.go.jp/users/gensen/teigakugenzei/index.htm

令和6年3月1日 株式市場高騰と新NISA

 周知の通り、日経平均がバブル絶頂期の1989年12月に付けた最高値3万8915円をおよそ34年ぶりに更新し、3万9000円台乗せを果たすなど、株価の上昇が止まりません。

その背景には、(1)日本の上場企業の好調な業績(東京証券取引所「プライム市場」の上場企業を中心とする1430社の2024年3月期の純利益合計額が47兆円を突破し過去最高の見通し)、(2)アメリカの株高(ニューヨーク市場でもダウ平均株価が史上最高値を更新し続けています)、(3)株価を意識した経営(背景には東京証券取引所が資本コストや株価を意識した経営に取り組むよう企業に求めていることがあります)、(4)円安、(5)中国からの資金シフトなど環境面でプラス材料が多いとされていますが、そうした中で株価に好影響を及ぼしたとみられているのが、今年から大幅に拡充された新NISA(少額投資非課税制度)があります。これによって株を買う投資家層が広がっています。

 日経による、「新NISAを使っているかどうか」の調査結果では、「はい(=使っている)」が72.8%となり、多くの人が新NISAを活用している実態が明らかになっています。「配当も永久に非課税、使わない道理がない」「新NISAは銘柄選定のやり直しが出来るから使い勝手が良い」など、旧NISAと比べた非課税制度の拡充や使い勝手の良さを評価する声が多いです。

また、上記(4)の円安にも新NISAが影響を与えています。円を売って、海外株式型の投資信託を買う動きが顕著だからです。ネット情報ではありますが、日本総研の試算によれば、NISA口座の増加とともに投資資金が海外資産にシフトし、今後4年で最大で対ドル6円の円安圧力になるといいます。実際、投資信託協会が発表した1月末の投信概況によると、新NISA効果で、上場投資信託(ETF)を除く公募株式投信の純資産総額(残高)は前月末比5兆円超増加し、過去最高を更新し、1兆3107億円の純資金流入のうち、6割強が海外株式型への流入だったようです。

 しかし、税制上の落とし穴にはくれぐれもご注意ください。もともとNISAは他の商品と「損益通算」ができません。利益は非課税ですが、損失の場合には特定口座のように損益通算ができないというデメリットはお忘れなく。

令和6年2月16日 確定申告始まるも政治資金への反発も

 2月16日から確定申告の受付が開始されます。毎年のことながら、当事務所ではかなり緊迫して所員一同、皆さんの申告書と向き合っています。

ところで、目下の税金に関する質問や苦情として多いのは、6月からの「定額減税事務」と今回のテーマである「政治資金の問題」です。

2か月前の当メールマガジンでも触れましたが、政治団体には、①政党、②政治資金団体、③資金管理団体、④後援会などのその他政治団体があり、「政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律」では、法人である政党等は、法人税法の規定の適用については公益法人等とみなされて原則非課税ですし、政党以外の政治団体は人格のない社団等として扱われ、こちらも原則非課税です。つまり、派閥からの政治資金パーティー収入の還流が議員の政治団体の収入と認定されれば課税対象とはならないことになります。

ところが、今回は不記載分に関して、政治活動に使用したのかどうか、具体的な使い道を説明できていない議員が多いことから、野党などが、議員個人の「雑所得」とみなし、所得税の課税対象とすべきだと主張しています。自民党の中からも、「仮に個人的に使われていた場合や、支出の事実が確認されない場合は、個人の所得として課税されるべきだ」と訴えがあり、岸田首相に対し、「党として早急な修正申告を指示し、納税させる対応が必要だ」とも要求しています。

国会審議で「脱税の疑いがある」などの批判が出ていることを踏まえたもので、国民の政治不信の払拭 につなげる狙いもあるようですが、国税当局も本気で税務調査に乗り出してほしいと思わざるを得ません。


令和6年2月5日 3年に一度の固定資産税評価替え

 固定資産税においては、土地・家屋について、3年に1回、評価替えを行い、価格の変化を反映することとなっており、令和6年度が評価替え年度です。

宅地については、地価公示価格等の7割を目途として評価することとされつつも、評価替えに際しては、価格の変動に伴う税負担の激変を緩和するための負担調整措置等も併せて行ってきました。

 土地に係る固定資産税等の負担調整措置については、新型コロナウイルス感染症の影響等を踏まえ、令和3年度は、負担調整措置等により税額が増加する土地について前年度の税額に据え置き、令和4年度は、商業地に係る課税標準額の上昇幅を半減(改正前5%を2.5%へ半減)させる特別な措置が講じられたところです。しかしながら、令和5年度については、規定通りの負担調整措置(課税標準額の上昇幅は評価額の5%)が適用され、令和6年度の評価替え及び負担調整措置がどうなるか注目されていました。

令和6年度評価替えに反映される令和2年から令和5年までの商業地の地価の状況を見ると、大都市を中心とした地価の上昇と地方における地価の下落が混在する状況が継続しています。名古屋圏の住宅地価公示価格はこの間に2.3%、商業地では3.4%上昇しています。このため、令和6年度評価替えにおいては、大都市を中心に、地価上昇の結果、負担水準が下落し据置ゾーン(時価に対して評価額を60%から70%までの範囲)を下回る土地が増加するなど、負担水準のばらつきが拡大することが見込まれるところであり、まずは、そうした土地の負担水準を据置ゾーン内に再び収斂させることに優先的に取り組むべきとされました。このような状況を踏まえ、令和6年度から令和8年度までの間、土地に係る固定資産税の負担調整の仕組みと地方公共団体の条例による減額制度を継続することとされました。

固定資産税の課税標準額については、以上のように負担調整措置及び条例減額制度の適用がありますが、固定資産税評価額そのものは3年に一度の評価替えにより上昇が見込まれます。このことから、令和6年度は、相続税等の土地の評価額、不動産取得税・登録免許税の対象額が上昇することに留意が必要です。ぜひ今後郵送される固定資産税通知書をよくご覧いただき、固定資産税評価額と課税標準額に目配りして下さい。

令和6年1月17日 定額減税の年

 昨年末、与党の税制改正大綱が公表されました。そのため、年度末までに派閥裏金問題などで政局が大荒れにならない限り、このまま定額減税が行われる見通しです。

デフレに後戻りさせないための措置の一環として、令和6年の所得税・個人住民税の定額減税が実施されます。具体的には、納税者本人及び配偶者を含めた扶養家族1人につき、令和6年分の所得税3万円、令和6年度分の個人住民税1万円の減税(特別控除)を行うこととし、令和6年6月以降の源泉徴収・特別徴収等、実務上できる限り速やかに実施します。なお、合計所得金額1,805万円超(給与収入のみの場合、収入2,000万円超に相当)の高額所得者については対象外となります。

 

給与計算等担当者の方の実務では、 令和6年6月1日以後最初に支払を受ける給与等(賞与を含むものとし、給与所得者の「扶養控除等申告書」が提出されている者が対象です。)につき源泉徴収をされるべき所得税の額から、特別控除の額に相当する金額を控除し、控除しきれない部分の金額は、以後に支払われる当該給与等から、順次控除することになります。

定額減税のうち、住民税については、令和6年6月に給与の支払をする際は特別徴収を行わず、特別控除の額を控除した後の個人住民税の額の 11 分の1の額を令和6年7月から令和7年5月まで、それぞれの給与の支払をする際毎月徴収することになります。

 

定額減税の対象となるのは、本人の所得が1,805万円以下という条件があり、また、所得金額が48万円以下の扶養親族がいる場合に減税額が加算されます。つまり、本人の所得が1,805万円を超えればそもそも減税の対象外となるため、扶養親族が何人いても減税額はゼロということです。例えば不動産投資をしているような場合、物件の売却益が発生すれば所得に加算され、突発的な利益によって減税を受けられなくなる可能性があります。

減税と言えば聞こえは良いですが、制度が複雑で、給与計算の担当者やシステム担当者はかなり大変(税理士事務所も同じ)です!

令和6年1月8日 「安いニッポン」脱出できるか

 皆様、明けましておめでとうございます。

 昨年末、令和6年度税制改正大綱が発表され、来年度の税制をどうするかについて、政府からのメッセージが届きました。キーワードは「『安いニッポン』からの脱出」です。

 まず、大綱では、我が国の現下の経済環境を次のように分析します。

 「デフレ下では、良い製品を生み出しても、高く売れず、働きが評価されず、賃金も上がらず、経済も成長しない。さらにその状態が四半世紀に及んだ結果、世界の物価・賃金との差が拡大した。いわゆる『安いニッポン』である。デフレ構造に逆戻りするわけにはいかない、このことを社会の共通認識とする必要がある。」

 「わが国においては、長引くデフレの中での『コストカット型経済』の下で、賃金や国内投資は低迷してきた。賃金水準は実質的に見て30年間横ばいと他の先進国と比して低迷し、国内設備投資も海外設備投資と比して大きく伸び悩んできた。その結果、労働の価値、モノの価値、企業の価値で見ても、いわゆる『安いニッポン』が指摘されるような事態に陥っている。その一方で、大企業を中心に企業収益が高水準にあったことや、中小企業におい ても守りの経営が定着していたことなどを背景に、足下、企業の内部留保は 555 兆円と名目GDPに匹敵する水準まで増加しており、企業が抱える現預金等も 300 兆円を超える水準に達している。」

 いかがでしょうか。財政当局のイライラ感が伝わってきます。

だから、企業が収益を現預金等として保有し続けるのではなく、賃金の引上げや前向きな投資、人への投資に積極的に振り向けるような後押しを税制改正で行う、というわけです。具体的には、賃上げ促進税制や国内投資促進税制(戦略分野国内生産促進税制、イノベーションボックス税制、スタートアップ関連税制等)の強化を図ることとし、その一方で、それらに消極的な企業に対しては、一定のディスインセンティブ措置により行動変容を促す取組みも行われます。

しかし、中小企業にとっては、安心して賃上げできる環境下ではなく、戦略分野国内生産促進税制、イノベーションボックス税制、スタートアップ関連税制等と言われても直接の行動変容には繋がりそうもなく、大企業の行動変容に期待するばかりです。