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所長コラム

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令和6年4月2日 34年ぶりの株価、土地価格、円相場

3月27日の円相場は対ドルで下落、一時、1ドル=151円97銭近辺を付け、1990年以来、およそ34年ぶりの円安水準となりました。またその前日には土地の価値を示す公示地価が発表され、この地方でも住宅地・商業地で上昇傾向となりました。愛知県内の地価の平均変動率は、住宅地で去年より+2.8%。商業地でも、+4.2%と住宅地・商業地ともに3年連続で上昇し、岐阜県では商業地が、三重県では住宅地・商業地ともに32年ぶりの上昇となりました。また、日経平均が34年2カ月ぶりに最高値を更新しました。

 このように、株価、土地価格、円相場がそろって34年ぶり(土地は32年ぶり)の水準と聞くと、まさにわが国は失われた30年だったと思わざるを得ません。

 要因はコロナ禍が沈静化したこと、インバウンド含め観光客が回復傾向にあること、企業の稼ぐ力の向上やガバナンス(企業統治)の改善、インフレ型経済への移行の期待など様々言われています。

 しかし、34年ぶりの円安水準というのは困りものです。日銀の政策修正後も、世界で突出して金利が低い状況は変わらないとの見方から売り圧力がとまらず、円買いが起こりにくい需給構造の変化も根底にあるようです。また新しいNISAでの投資信託購入により世界株や米国株などへの投資が増え、年2兆円規模で円売りが増えるとの見方があり、個人の海外志向が円安進行に影響しています。円安の長期化は大企業の業績に追い風になる半面、国内のインフレ圧力を高め特に個人消費に影を落とします。中小企業も賃上げ(しかも防衛的賃上げ)をしようとしても、輸入物価上昇の圧力から、実質賃金が上がらないことになりかねません。

令和6年3月19日 定額減税の準備を

今、皆様のお手元には税務署から「定額減税」のパンフレットが届けられていると思います。本来は、令和6年度税制改正のための税制改正法案が成立した場合の手続きですが、早くも広報活動が始まっているわけです。

成立はほぼ確定ですので、そのうちにマスコミやスーパーなどが大きく取り扱うはずです。しかし、この減税事務は税務署がやってくれるわけではなく、事業者が自ら従業員さんへ行うことになりますので、準備が必要です。

 令和6年6月1日以後最初に支払われる給与・賞与(「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員さんに限ります)につき源泉徴収される所得税の額から特別控除の額(本人3万円+扶養親族人数×3万円)に相当する金額を控除して支給し、控除した金額を給与明細に記入します。1回で控除できれば良いのですが、多くの従業員さんからは控除しきれません。その場合は、翌月以降に順次控除します。従業員さんの給与・賞与の手取りが多くなることから、関心も高まると思います。もちろん従業員さんだけでなく、役員の皆さんも対象です。

 また個人事業主の方は、7月の予定納税から減額され、かつ予定納税時期も9月に延期されます。

 普段の給与計算事務の扶養親族の人数と異なる場合もありますので、6月までに準備をすることをお勧めします。当事務所では今月、恒例のシーズンセミナーを開催し、定額減税の事務の流れを一緒に確認したいと思いますのでご参加ください(Zoomでもご参加いただけます)。


国税庁定額減税特設サイトはこちら↓

https://www.nta.go.jp/users/gensen/teigakugenzei/index.htm

令和6年3月1日 株式市場高騰と新NISA

 周知の通り、日経平均がバブル絶頂期の1989年12月に付けた最高値3万8915円をおよそ34年ぶりに更新し、3万9000円台乗せを果たすなど、株価の上昇が止まりません。

その背景には、(1)日本の上場企業の好調な業績(東京証券取引所「プライム市場」の上場企業を中心とする1430社の2024年3月期の純利益合計額が47兆円を突破し過去最高の見通し)、(2)アメリカの株高(ニューヨーク市場でもダウ平均株価が史上最高値を更新し続けています)、(3)株価を意識した経営(背景には東京証券取引所が資本コストや株価を意識した経営に取り組むよう企業に求めていることがあります)、(4)円安、(5)中国からの資金シフトなど環境面でプラス材料が多いとされていますが、そうした中で株価に好影響を及ぼしたとみられているのが、今年から大幅に拡充された新NISA(少額投資非課税制度)があります。これによって株を買う投資家層が広がっています。

 日経による、「新NISAを使っているかどうか」の調査結果では、「はい(=使っている)」が72.8%となり、多くの人が新NISAを活用している実態が明らかになっています。「配当も永久に非課税、使わない道理がない」「新NISAは銘柄選定のやり直しが出来るから使い勝手が良い」など、旧NISAと比べた非課税制度の拡充や使い勝手の良さを評価する声が多いです。

また、上記(4)の円安にも新NISAが影響を与えています。円を売って、海外株式型の投資信託を買う動きが顕著だからです。ネット情報ではありますが、日本総研の試算によれば、NISA口座の増加とともに投資資金が海外資産にシフトし、今後4年で最大で対ドル6円の円安圧力になるといいます。実際、投資信託協会が発表した1月末の投信概況によると、新NISA効果で、上場投資信託(ETF)を除く公募株式投信の純資産総額(残高)は前月末比5兆円超増加し、過去最高を更新し、1兆3107億円の純資金流入のうち、6割強が海外株式型への流入だったようです。

 しかし、税制上の落とし穴にはくれぐれもご注意ください。もともとNISAは他の商品と「損益通算」ができません。利益は非課税ですが、損失の場合には特定口座のように損益通算ができないというデメリットはお忘れなく。

令和6年2月16日 確定申告始まるも政治資金への反発も

 2月16日から確定申告の受付が開始されます。毎年のことながら、当事務所ではかなり緊迫して所員一同、皆さんの申告書と向き合っています。

ところで、目下の税金に関する質問や苦情として多いのは、6月からの「定額減税事務」と今回のテーマである「政治資金の問題」です。

2か月前の当メールマガジンでも触れましたが、政治団体には、①政党、②政治資金団体、③資金管理団体、④後援会などのその他政治団体があり、「政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律」では、法人である政党等は、法人税法の規定の適用については公益法人等とみなされて原則非課税ですし、政党以外の政治団体は人格のない社団等として扱われ、こちらも原則非課税です。つまり、派閥からの政治資金パーティー収入の還流が議員の政治団体の収入と認定されれば課税対象とはならないことになります。

ところが、今回は不記載分に関して、政治活動に使用したのかどうか、具体的な使い道を説明できていない議員が多いことから、野党などが、議員個人の「雑所得」とみなし、所得税の課税対象とすべきだと主張しています。自民党の中からも、「仮に個人的に使われていた場合や、支出の事実が確認されない場合は、個人の所得として課税されるべきだ」と訴えがあり、岸田首相に対し、「党として早急な修正申告を指示し、納税させる対応が必要だ」とも要求しています。

国会審議で「脱税の疑いがある」などの批判が出ていることを踏まえたもので、国民の政治不信の払拭 につなげる狙いもあるようですが、国税当局も本気で税務調査に乗り出してほしいと思わざるを得ません。


令和6年2月5日 3年に一度の固定資産税評価替え

 固定資産税においては、土地・家屋について、3年に1回、評価替えを行い、価格の変化を反映することとなっており、令和6年度が評価替え年度です。

宅地については、地価公示価格等の7割を目途として評価することとされつつも、評価替えに際しては、価格の変動に伴う税負担の激変を緩和するための負担調整措置等も併せて行ってきました。

 土地に係る固定資産税等の負担調整措置については、新型コロナウイルス感染症の影響等を踏まえ、令和3年度は、負担調整措置等により税額が増加する土地について前年度の税額に据え置き、令和4年度は、商業地に係る課税標準額の上昇幅を半減(改正前5%を2.5%へ半減)させる特別な措置が講じられたところです。しかしながら、令和5年度については、規定通りの負担調整措置(課税標準額の上昇幅は評価額の5%)が適用され、令和6年度の評価替え及び負担調整措置がどうなるか注目されていました。

令和6年度評価替えに反映される令和2年から令和5年までの商業地の地価の状況を見ると、大都市を中心とした地価の上昇と地方における地価の下落が混在する状況が継続しています。名古屋圏の住宅地価公示価格はこの間に2.3%、商業地では3.4%上昇しています。このため、令和6年度評価替えにおいては、大都市を中心に、地価上昇の結果、負担水準が下落し据置ゾーン(時価に対して評価額を60%から70%までの範囲)を下回る土地が増加するなど、負担水準のばらつきが拡大することが見込まれるところであり、まずは、そうした土地の負担水準を据置ゾーン内に再び収斂させることに優先的に取り組むべきとされました。このような状況を踏まえ、令和6年度から令和8年度までの間、土地に係る固定資産税の負担調整の仕組みと地方公共団体の条例による減額制度を継続することとされました。

固定資産税の課税標準額については、以上のように負担調整措置及び条例減額制度の適用がありますが、固定資産税評価額そのものは3年に一度の評価替えにより上昇が見込まれます。このことから、令和6年度は、相続税等の土地の評価額、不動産取得税・登録免許税の対象額が上昇することに留意が必要です。ぜひ今後郵送される固定資産税通知書をよくご覧いただき、固定資産税評価額と課税標準額に目配りして下さい。

令和6年1月17日 定額減税の年

 昨年末、与党の税制改正大綱が公表されました。そのため、年度末までに派閥裏金問題などで政局が大荒れにならない限り、このまま定額減税が行われる見通しです。

デフレに後戻りさせないための措置の一環として、令和6年の所得税・個人住民税の定額減税が実施されます。具体的には、納税者本人及び配偶者を含めた扶養家族1人につき、令和6年分の所得税3万円、令和6年度分の個人住民税1万円の減税(特別控除)を行うこととし、令和6年6月以降の源泉徴収・特別徴収等、実務上できる限り速やかに実施します。なお、合計所得金額1,805万円超(給与収入のみの場合、収入2,000万円超に相当)の高額所得者については対象外となります。

 

給与計算等担当者の方の実務では、 令和6年6月1日以後最初に支払を受ける給与等(賞与を含むものとし、給与所得者の「扶養控除等申告書」が提出されている者が対象です。)につき源泉徴収をされるべき所得税の額から、特別控除の額に相当する金額を控除し、控除しきれない部分の金額は、以後に支払われる当該給与等から、順次控除することになります。

定額減税のうち、住民税については、令和6年6月に給与の支払をする際は特別徴収を行わず、特別控除の額を控除した後の個人住民税の額の 11 分の1の額を令和6年7月から令和7年5月まで、それぞれの給与の支払をする際毎月徴収することになります。

 

定額減税の対象となるのは、本人の所得が1,805万円以下という条件があり、また、所得金額が48万円以下の扶養親族がいる場合に減税額が加算されます。つまり、本人の所得が1,805万円を超えればそもそも減税の対象外となるため、扶養親族が何人いても減税額はゼロということです。例えば不動産投資をしているような場合、物件の売却益が発生すれば所得に加算され、突発的な利益によって減税を受けられなくなる可能性があります。

減税と言えば聞こえは良いですが、制度が複雑で、給与計算の担当者やシステム担当者はかなり大変(税理士事務所も同じ)です!

令和6年1月8日 「安いニッポン」脱出できるか

 皆様、明けましておめでとうございます。

 昨年末、令和6年度税制改正大綱が発表され、来年度の税制をどうするかについて、政府からのメッセージが届きました。キーワードは「『安いニッポン』からの脱出」です。

 まず、大綱では、我が国の現下の経済環境を次のように分析します。

 「デフレ下では、良い製品を生み出しても、高く売れず、働きが評価されず、賃金も上がらず、経済も成長しない。さらにその状態が四半世紀に及んだ結果、世界の物価・賃金との差が拡大した。いわゆる『安いニッポン』である。デフレ構造に逆戻りするわけにはいかない、このことを社会の共通認識とする必要がある。」

 「わが国においては、長引くデフレの中での『コストカット型経済』の下で、賃金や国内投資は低迷してきた。賃金水準は実質的に見て30年間横ばいと他の先進国と比して低迷し、国内設備投資も海外設備投資と比して大きく伸び悩んできた。その結果、労働の価値、モノの価値、企業の価値で見ても、いわゆる『安いニッポン』が指摘されるような事態に陥っている。その一方で、大企業を中心に企業収益が高水準にあったことや、中小企業におい ても守りの経営が定着していたことなどを背景に、足下、企業の内部留保は 555 兆円と名目GDPに匹敵する水準まで増加しており、企業が抱える現預金等も 300 兆円を超える水準に達している。」

 いかがでしょうか。財政当局のイライラ感が伝わってきます。

だから、企業が収益を現預金等として保有し続けるのではなく、賃金の引上げや前向きな投資、人への投資に積極的に振り向けるような後押しを税制改正で行う、というわけです。具体的には、賃上げ促進税制や国内投資促進税制(戦略分野国内生産促進税制、イノベーションボックス税制、スタートアップ関連税制等)の強化を図ることとし、その一方で、それらに消極的な企業に対しては、一定のディスインセンティブ措置により行動変容を促す取組みも行われます。

しかし、中小企業にとっては、安心して賃上げできる環境下ではなく、戦略分野国内生産促進税制、イノベーションボックス税制、スタートアップ関連税制等と言われても直接の行動変容には繋がりそうもなく、大企業の行動変容に期待するばかりです。