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令和5年3月17日-相続空き家特例の拡充−

相続した空き家を売却する際、利益が出た場合は、譲渡所得税を支払わなければなりませんが、一定の条件を満たしていれば「相続空き家の3,000万円特別控除」が適用され税金が安くなります。節税効果が大きいので、適用できるのであれば、ぜひ使うべき特例ですが、かなり適用条件が厳しいです。これが、令和5年度税制改正で使い勝手が多少良くなりましたのでお知らせします。

  そもそも、土地を売却する際は、「売却金額-購入金額-譲渡経費」の利益に対して譲渡所得税がかかるのですが、この場合、購入金額を証明できる購入時の売買契約書や領収書などがなければ計算できません。このように取得費が不明な場合は、「売却金額の5%」を購入金額とする、いわゆる5%ルールを適用します。しかし、5%ルールを適用するとかなり税金がかかってしまいます。

この売却益が出た場合に「相続空き家の3,000万円特別控除」が適用できれば、3,000万円分まで譲渡所得税はかかりません(相続人2名で相続して売却していれば3,000万円×2名=6,000万円まで譲渡所得税がかかりません)。ただし、空き家特例(相続空き家の3,000万円の特別控除)の適用条件は難易度が高いので、慎重に判断する必要があります。

 大雑把にまとめると下記の10要件を満たす必要があります。

1. 建物だけでなく土地も相続していること

2. 相続があった日(亡くなった日)から3年後の年末までの間に売却したこと

3. 区分所有建物(マンション)でないこと

4. 1981(昭和56)年5月31日以前に建築された建物であること

5. 被相続人(亡くなった方)が亡くなる直前まで居住していた家であること

6. 同じ被相続人(亡くなった方)の相続ですでに空き家特例を利用していないこと

7. 買主は第三者で、配偶者や直系血族など、特別な関係の人に対する売却ではないこと

8. 売却金額が1億円以下であること

9. 売却するとき建物がある場合は一定の耐震性が認められること、もしくは建物を解体して土地だけで売却していること

10. 相続してから売却するまで、賃貸に出したり、相続した人が住んだりしていないこと

なお、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなどの事由により相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋は被相続人居住用家屋に該当し、適用できます。

 詳細は、国税庁ホームページ 

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm 

  このうち、特に「9」の取り壊し要件がネックになっていました。

令和5年度税制改正では、次の措置を講じた上で、その適用期限が令和9年1231日まで4年延長されます。

    譲渡要件の拡充

売買契約等に基づき、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修又は除却の工事を行った場合、工事の実施が譲渡後であっても適用対象とします。  

現行制度は、「譲渡前」に売主が耐震改修又は除却の工事を実施する必要があり、この譲渡要件が空き家流通上の支障になっているのではないかとの問題意識に基づき拡充が図られるものです。 ただし、年末に譲渡をしたケースにおいては、翌年2月15日までに工事を完了できないこともあり得ると考えられますので注意が必要です。 実務では、工事業者がなかなか見つからなかったり工事が長引いたりする可能性なども考慮して、年の前半に譲渡をする等の対応が必要となると考えられます。

     特例の対象者が3人以上である場合の特別控除額

相続による被相続人の居住用家屋及び敷地等の取得をした相続人の数が3人以上である場合における特別控除額を2,000万円 とします。

この特例を適用する場合には、対象者(共有者)ごとに3,000万円までの控除ができることから、現行では、共有で相続した方が対象者が多くなって有利となります。今回の改正後も、対象者が多くなる方が有利になるという事情は変わりませんが、対象者が2人までであれば特別控除額が1人当たり3,000万円ですが、対象者が3人以上となると特別控除額が1人当たり2,000万円となります。例えば、対象者が2人の場合の特別控除額は6000万円となり、対象者が3人の場合の特別控除額も6,000万円で、いずれの場合も特別控除額は同額となります。

 

本年度税制改正セミナーを4月13日に開催しますので、ぜひご参加ください。

令和5年3月1日-売手負担の振込手数料問題の解決−〜令和5 年度消費税改正:1 万円未満の値引等に緩和措置〜

本年10月からのインボイス制度下では、値引き等を行った際に売手と買手の税率と税額の一致を図るため、売手に返還インボイスの交付義務が課されることになります。実務的には、買手側の都合で差し引かれた振込手数料相当額を「売上値引き」として処理する場合、売手側の新たな事務負担が懸念されていました。この難問について、令和5年度税制改正大綱では、税込価額1万円未満の値引き等における返還インボイスの交付義務の免除措置が盛り込まれ、ひとまず安どしたのですが、経理マンにはいまだ注意点があります。

この少額な返還インボイスの交付義務免除は、すべての方が適用対象となります。また、適用期限のない恒久的な措置となります。売り手が負担する振込手数料相当額を売上値引きとして処理している場合には、返還インボイスの交付義務免除の対象となります。

しかし、実務的には、売り手が負担する振込手数料は、「支払手数料」「雑費」として処理されている場合が多いです。売り手が負担する振込手数料を支払手数料等、すなわち課税仕入れとして処理している場合には、そもそも返還インボイスの交付云々ではなく、仕入税額控除を行うためには、金融機関や取引先からの支払手数料に係るインボイスが必要となる点について変わりありません。

そこで、売り手が負担する振込手数料を、会計上(法人税法上)は支払手数料として処理し、消費税法上は対価の返還等(売上値引き)と使い分けできるかが問題になります。財務省資料(下記)ではこの点、「差し支えありません」と言い切っています。帳簿上、支払手数料として処理していたとしても、当該支払手数料を対価の返還等(売上値引き)として取り扱うことがコード表、消費税申告の際に作成する帳票等により明らかであれば問題ないのですが、そういったコード分けをするという手間は発生するという点にはご留意ください。

 

インボイス制度の負担軽減措置(案)のよくある質問とその回答 財務省(令和5年1月 20 日時点)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/qa_futankeigen.pdf

令和5年2月16日-マンションの相続税評価が変わる?-

令和5年度税制改正大綱のなかで「マンションの相続税評価について」と題して、「マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られる。現状を放置すれば、マンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある。このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。」と宣言されました。

そこで「タワマン節税」の中身はどうなるのか関心が集まっています。

そもそも相続税の財産評価に当たっては、マンションの評価額も財産評価基本通達の定 めに基づいて、一般的な戸建住宅と同じように、土地と建物に区分したうえで、土地は路線価等により、建物(区分所有建物)は固定資産税評価額にて評価しています。

一方、このような方法により算定されるマンションの評価額が、不動産市場での売買価額よりも大きく乖離する場合があります。このため、相続税や贈与税の申告書の提出後、課税当局によって、路線価等に基づく相続税評価額ではなく、課税当局が依頼した鑑定評価額に基づいた価額で評価し直した上で、課税処分が行われる事例が生じています。

令和44月の最高裁判決は、相続した賃貸マンションの評価額が実勢価格より低すぎるとして国税当局が再評価して追徴課税した事案を適法としたもので、相続が近いことを予測してマンション2棟を約139千万円で銀行借入して購入し、その評価が4分の1の価格で申告されたものです。相続に係る課税価格の合計は6億円を超えるものだったが、この購入・借入により、基礎控除の結果、相続税の総額が0円だった事案です。

そして、今年に入り、「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」がスタートしました。結論は容易に見通せませんが、評価額と実勢価格の差額に着目したタワマン節税が封じられることは明らかで、これにより「不動産バブル」「タワマン林立」状態に大きな影響を与えることに注視が必要です。

 

国税庁 報道発表資料は以下の通りです。

https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/0023001-051.pdf

 

令和5年2月2日-研究開発投資の支援税制-

令和5年度税制改正大綱では、研究開発税制について、次のように記述しています。

「研究開発投資は、社会課題解決の推進力となるイノベーションの源泉であり、高い外部効果を有することが期待される一方、企業にとっては成果が得られるとは限らない不確実性を伴う。企業の研究開発投資の規模拡大や質の向上は、『成長と分配の好循環』を拡大していく上で、極めて重要な意味を持つ。米国や中国の企業が研究開発投資を大きく伸ばす中、わが国企業の研究開発投資は近年伸び悩んでおり、国際競争力の維持向上のためにも、その増加を促していかなければならない」。

このような認識のもと、研究開発税制において、投資を増加させるインセンティブを更に強化するために、税額控除率カーブにメリハリをつけた見直しを行います。また、控除額が上限に達した企業に対してもインセンティブが機能することを期待し、一律に設定されている控除上限を変動させる新たな仕組みも導入されます。

そのほか、研究開発の質を高める観点からは、既存企業とスタートアップ企業のオープ ンイノベーションや、研究開発を担う「人」への投資を促すことが喫緊の課題であることから、オープンイノベーション型において、研究開発型スタートアップ企業の定義を見直し、対象を大幅に拡大することとなっています。また、「人」への投資という意味で、博士号取得者や経験を積んだ外部人材を取り入れるインセンティブとなる、新たな類型も創設されます。

税制の対象となる試験研究の範囲についても、非連続なイノベーションへの挑戦を促すため、不断の見直しが求められ、新たなビジネスモデルの開拓につながるよう、サービス開発のための試験研究については、既存ビッグデータを活用する場合も対象とする等の見直しが行われます。

 

このように、企業経営者の皆さんにとっては、重要事項が多々あります。4月にはアズールシーズンセミナーを予定していますので、ぜひご参加ください。

 

令和5年1月18日-NISAの抜本的拡充・恒久化-

令和5年度税制改正大綱では、家計の資産を貯蓄から投資へと積極的に振り向け、資産所得倍増につなげるため、NISAの抜本的拡充・恒久化を行うことが明記されました。私たちの資産形成に大きな影響が考えられますのでご紹介します。

 

具体的には、若年期から高齢期に至るまで、長期・積立・分散投資による継続的な資産形成を行えるよう、非課税保有期間を無期限化するとともに、口座開設可能期間については期限を設けず、NISA制度を恒久的な措置とします。あわせて、個人のライフステージに応じて、資金に余裕があるときに短期間で集中的な投資を行うニーズにも対応できるよう、年間投資上限額を拡充するというものです。

一定の投資信託を対象とする長期・積立・分散投資の枠(「つみたて投資枠」)については、現行のつみたてNISAの水準(年間40万円)の3倍となる 120 万円まで拡充します。

加えて、企業の成長投資につながる家計から資本市場への資金の流れを一層強力に後押しする観点から、上場株式への投資が可能な現行の一般NISAの役割を引き継ぐ「成長投資枠」を設けることとし、「つみたて投資枠」との併用を可能とします。「成長投資枠」の年間投資上限額については、現行の一般NISAの水準(年間120 万円)の2倍となる240万円まで拡充することになります。

これにより、年間投資上限額の合計は360 万円となり、英国ISA(約 335 万円)を上回る規模が実現する、と大盤振舞いです。

 

一方、投資余力が大きい高所得者層に対する際限ない優遇とならないよう、年間投資上限額とは別に、一生涯にわたる非課税限度額を設定することとします。

その総額については、老後等に備えた十分な資産形成を可能とする観点から、現行のつみたてNISAの水準(800 万円)から倍増以上となる1,800 万円とし、また、「成長投資枠」については、その内数として現行の一般NISAの水準(600 万円)の2倍となる1,200 万円とするとされました。NISA制度は安定的な資産形成を目的とするものであることを踏まえ、「成長投資枠」について、高レバレッジ投資信託などの商品は投資対象から除外するなどの規制も行われます。

 

新NISAでは、非課税保有期間が無期限となり、途中で売却した場合でも累計の非課税枠が復活する仕組みになり、非課税となる買付額は最大で1800万円です。かつて金融庁が「老後2000万円問題」を取り沙汰した際は、大きな話題となりました。この問題を巡っては、現役時代も厳しいのに、さらに老後のために2000万円が必要だというショッキングな内容がクローズアップされました。しかし、問題の本質は別の部分にあり、金融庁が本来指摘したかった点は、長期の積立投資でその資産を形成することも不可能ではないという点でした。

 

なお、現行の一般NISA及びつみたてNISAについては、令和5年末で買付を終了することとされ、非課税口座内にある商品については、新しい制度における非課税限度額の外枠で、現行の取扱いを継続するとのことなので、本年分の枠は活用できます 。

 

税制改正大綱では、「今回のNISA制度の抜本的拡充・恒久化が、金融経済教育の充実や利用者の利便性向上の取組みなどと相まって、将来にわたり家計による継続的な投資につながるとともに、投資未経験の方や、今は投資の機会に恵まれない方については、賃上げ等を通じた所得の底上げが将来的な投資につながることも期待される」と結んでいますが、どこまで広がるか未知数です。

 

参考:金融庁HP https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20221223_3/01.pdf

 

このように、資産家の皆さんにとっては、重要事項が多々あります。4月にはアズールシーズンセミナーを予定していますので、ぜひご参加ください

 

令和5年1月10日-65年ぶり大改正「相続・生前贈与」-

新年あけましておめでとうございます。

令和5年度税制改正大綱を巡っては、早速、雑誌等で、「生前贈与『年110万円』節税効果激減」「65年ぶりのルール改正」「移行期間の2023年は『駆け込み節税』のラストイヤー」などの見出しが躍っています。

もともと、亡くなる直前に贈与して相続税から逃れることを防ぐため、相続開始(つまり死亡)3年前以内の贈与については、相続財産に加算して相続税を課税する「持ち戻し」という制度がありますが、このルールが1958年度の制度改正で作られたものなので65年ぶりというわけです。令和5年度税制改正大綱ではこの加算期間を7年に延長することが決まりました。この新ルールは2024年1月1日以後の贈与について適用されると明記されたことから、「2023年は『駆け込み節税』のラストイヤー」というわけです。

今回の改正で相続税の課税対象となる期間が延長されるのは相続人への贈与です。そのため、孫や子どもの配偶者など相続人以外への生前贈与を続けることは今後も有効な対策になります。

 

実は、この、毎年コツコツ贈与型を「暦年課税」「暦年贈与」といいますが、これと選択適用できる制度に「相続時精算課税制度」があります。利用者は、ここ15年間減少していますが、今回の改正では、こちらのインパクトが大きいです。

同制度を選択すると2500万円の特別控除額を適用でき、また、特別控除額を上回る課税価格に対して、その金額の多寡にかかわらず一律20%の税率によって贈与税が課税される制度です。これについては、令和6年1月1日以後に相続時精算課税適用者が父母・祖父母から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとするとともに、贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる財産の価額は、上記の基礎控除をした後の残額となるというわけです。

 

一方、「タワーマンション節税」は増税が予告されました。具体的な時期及び内容は明記されておりませんが、一部のマンションにつき市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離していることにつき、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化が検討されることとなるようです。

 

このように、資産家の皆さんにとっては、重要事項が多々あります。4月にはアズールシーズンセミナーを予定していますので、ぜひご参加ください。