確定申告の時期となり、当事務所にとっては大変な時期を迎えています。
あらためて所得税の確定申告についてご説明します。毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得の金額と、それに対する所得税等の額を計算して確定させる手続きです。申告の期限は、原則として、その年の翌年2月16日から3月15日までですが、今年は、申告期限が土日等にあたるため、3月17日までとなっています。
さて、令和6年分の確定申告のポイントですが、大きな変更点は何といっても「定額減税」です。その他の変更としては、税務署の収受印の廃止、子育て世代等への住宅ローン控除の拡充、ストックオプション税制の改正、マイナポータルでの連携強化などがあります。
定額減税の対象者は、令和6年分所得税の納税者である居住者で、令和6年分の所得税に係る合計所得金額が1,805万円以下である方(給与収入のみの方の場合、給与収入が2,000万円以下(注)である方)です。(注)子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受ける方は、2,015万円以下となります。
定額減税については、給与等での控除、年末調整での控除、予定納税からの控除などを経て、定額減税額が確定申告で最終的に確定することになります。給与や年金からの定額減税や予定納税からの定額減税で、二重に控除されていたとしても、この確定申告で最終調整されることになるので、あらためて定額減税の対象になるかどうかの確認をする必要があります。
確定申告時に気をつけることとして、一つ目は配偶者間で所得差が大きい場合があります。仮に世帯主の所得が1,805万円超で、配偶者の所得が1,805万円以下の場合には、世帯主の確定申告には16歳未満の扶養親族を記載せず、配偶者の確定申告で記載するようにすれば、配偶者の所得税から定額減税ができるようになります。二つ目は調整給付金の支給についてです。所得税額から控除しきれない定額減税の金額がある場合は、次の給付金が市区町村から支給されます。①当初給付…所得税額や個人住民税所得割額から定額減税額を控除しきれないと見込まれる場合、令和5年の所得状況に基づき、控除しきれないおおむねの額が給付されることとなっています。②不足額給付…申告等により令和6年分の所得税額と定額減税額が確定した後、当初給付の支給額に不足する金額があることが判明した場合、追加で支給されます。令和6年分の確定申告によって控除不足額がある場合は、市町村から支給されるということになっていますのでご注意ください。
新NISAは2024年1月の改正で「年間投資枠が最大360万円」「非課税期間は無期限」「保有限度枠1800万円」などと、旧NISAに比べて制度が大幅に拡充されました。老後資産や住宅・教育資金向けなど、長期の資産形成に使い勝手が良くなったことから、「新NISAで投資を始めた」という人も多いことでしょう。
金融庁によると、新ルールがスタートして半年経った昨年6月末時点でNISA買付額の合計は10兆円超、口座数は2400万を超えたようです。投資ブームの過熱に呼応するかのように、同年7月11日に日経平均株価は史上最高値の4万2224円を記録しました。しかし、昨年8月5日には日経平均が3万1000円台まで下がり、バブル期のブラックマンデーに次ぐ下落率を記録したことから、一時的に「NISA詐欺」などの悪評も聞かれましたが、その後は値を戻し、年末まで3万9000円前後で推移しています。長期的に見れば、昨年の大暴落は瞬間的な「ノイズ」に過ぎませんでした。
一方、令和7年度税制改正では、NISAの利便性の向上が行われる予定です。
一つ目は「NISA口座(勘定)は、金融機関変更手続の実施日に設けられることとし、即日買付を可能とする」というものです。仮に二重口座等であった場合には、変更手続時まで遡って課税口座(特定口座又は一般口座)へ移管するとされます。以前に銀行から頼まれてNISA口座を開設していたのに稼働しておらず、改めて証券会社で新NISAをやろうとしたところ二重になるので口座開設ができず、投資熱が下がってしまった、ということが解消されます。
二つ目は従来の買付方法(定額買付)による最低取引単位を「1千円以下から1万円以下に引き上げる」というものです。顧客が取引を開始できる最低額を低く設定する程、少額からの投資が可能となりますが、「1千円以下」の要件は、買付金額としては小さすぎるため、現状、証券会社等による取扱が進んでおらず、却って顧客の利便性を損なうこととなっていたことを改めるということです。こうした買付方法の柔軟化を通じ、より多様な商品の提供が期待されます。
新NISA2年目を迎えるにあたり、知っておきたい改正動向です。
令和7年度税制改正大綱は、103万円の壁をめぐり、少数与党と国民民主党の協議が整わない中で閣議決定がなされましたが、このテーマに隠れて中小企業向けに新たな税制が創設されそうです。「売上高100億円超を目指す」成長意欲の高い中小企業への優遇税制です。
政府の認識では、物価に負けない賃上げを定着させることで、賃上げに支えられた消費の増加が企業収益を押し上げ、さらには家計への還元につながるという「賃金と物価の好循環」を安定的に実現していくためには、生産性の向上が不可欠である、としています。
特に、雇用の7割の受け皿になっている中小企業では、収益力が弱い企業は賃上げも困難な状況にあり、適切な価格転嫁に加えデジタル化等の投資を促進していく必要があります。中小企業は、雇用の7割を抱える、わが国にとって重要な経済主体であり、その健全な成長が地域経済の維持・発展のために不可欠ですが、小規模事業者やスタートアップ企業、さらには地域経済を牽引する企業や大きな成長力を有する企業など様々な態様があります。その中でも、売上高100億円を超えるような中小企業は、輸出や海外展開等により域外需要を獲得するとともに、域内調達により新たな需要を創出する地域の中核となる存在であり、そうした企業を育成することで、地域経済に好循環を生み出していくことが鍵となります。
そのため、「売上高100億円超を目指す」成長意欲の高い中小企業が思い切った設備投資を行うことができるよう、中小企業経営強化税制を拡充し、対象設備に建物を加えることになりました。「目指している」というためには、売上向上のための施策及び設備投資時期を示した行程表(ロードマップ)を作成していることなどが要件とされていますが、前向きな中小企業を後押しする制度は有意義です。