令和7年度の税制改正により、電子帳簿保存法の電子取引制度において「電磁的記録に係る重加算税の加重措置」の適用対象が見直されました。
令和3年度改正で創設された「電磁的記録に係る重加算税の加重措置」では、電子取引において取引情報の隠蔽や仮装があった場合には、通常の重加算税に加えて10%が加重される措置が適用されていましたが、一定の要件を満たす電子取引データについては、この加重措置の適用が除外されることとなります。
一定の保存要件とは、①データの送受信と保存を、訂正や削除の履歴が確認できるシステムやそもそも訂正・削除ができないシステムを使用して行うこと(改ざん防止の確保)。②電子取引データの金額を訂正・削除を行った上で電子帳簿に記録することができないこと又は訂正・削除の事実を確認できるようにしておくこと(記帳の適正性確保)。③電子取引データと電子帳簿との関連性を相互に確認できるようにしておくこと(電子帳簿との相互関連性確保)。そして、これらの保存要件を満たすシステムを使用している旨の届出書をあらかじめ所轄税務署長に提出しておく必要があります。
なお、この適用除外の対象となる電子取引データは、国税庁長官が定める基準に適合するシステムを用いて保存されたものに限られます。例えば電子インボイスの仕様としてデジタル庁が管理するペポル形式の仕様や、金融機関等が預金口座等に係る資金を移動させる為替取引に係る仕様などが該当します。
また、「電磁的記録に係る重加算税の加重措置」の見直しに伴い、65万円の青色申告特別控除の適用要件に「国税庁長官の定める基準に適合する特定電子計算機処理システムを使用し、一定の保存要件を満たした電子取引データの保存」が追加されています。
この改正は、令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税から適用されます。
詳細は国税庁ホームページをご参照下さい。
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0025003-097_01.pdf
令和7年度税制改正により、「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」の提出範囲が変更されます。
現行制度では、退職手当等の支払者である会社が、退職所得の源泉徴収票等を税務署長と市町村長に提出する必要があるのは、受給者(居住者)が「役員」の場合のみとなっていますが、改正後は、「全ての居住者」に拡大され、受給者が従業員の場合も提出することが必要になります。
「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」は、源泉徴収義務者である会社が、居住者である従業員や役員に退職手当等を支給する場合に作成する必要があり、国税に係る退職所得の源泉徴収票と、地方税に係る特別徴収票の兼用様式となっています。
現行制度においては、退職手当等の受給者が「法人の役員」の場合、①受給者交付用、②税務署提出用、③市町村提出用の計3通を作成し、それぞれに交付・提出する必要がありますが、受給者が、「法人の役員以外(従業員)」の場合には、②税務署長への提出、③市町村長への提出は不要となるため、①受給者交付用を作成・交付するのみです。
改正後は、役員・従業員は関係なく、①、②、③のすべての交付・提出が必要となります。
提出範囲の見直しは、「令和8年1月1日以後に支払うべき退職手当等」から適用され、退職日ベースではなく、支払日ベースで判定するため注意が必要です。
例えば、従業員Aが令和7年12月末に退職、令和8年1月に退職手当を支払った場合、従業員Aに係る「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」は本人と税務署長、市町村長に提出する必要があります。
今回の改正では、提出期日については見直しは行われておらず、現行と同様、原則として退職後1ヶ月以内に、①受給者交付用を本人に、②税務署提出用を所轄税務署長に、③市町村提出用を受給者の住所地(支払年の1月1日現在)の市町村長にそれぞれ交付・提出することとなります。
詳細につきましては、
財務省HP 令和7年度税制改正の大綱(17頁)を参照ください。
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2025/20241227taikou.pdf
中小企業庁は、物価高や人手不足等の影響を受けている中小企業者に向けた新しい保証制度の取扱いの開始を公表しました。今回創設されるのは、「協調支援型特別保証制度」と「経営改善サポート保証 (経営改善・再生支援強化型)制度」の2種類です。
1.協調支援型特別保証制度について
原材料の価格高騰、物価高、人手不足等の影響を受ける中小企業者に対し、金融機関のプロパー融資と保証付き融資を組み合わせることなどにより、金融仲介機能の一層の強化を図り、人手不足に対応するための省力化投資による中小企業の経営の安定や事業の発展など、多岐にわたる経営課題解決への取組を後押しする保証制度を3年間(2028年3月末まで)の時限措置として開始されます。
2.経営改善サポート保証(経営改善・再生支援強化型)制度について
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、借入が過大となり、また、物価高や人手不足等の影響により、厳しい状況に置かれている中小企業者にあっては、必要に応じて、早期に事業再生の取組を進める必要があります。
こうした取組みを後押しするため、経営サポート会議や中小企業再生支援協議会等の支援により作成した再生計画等に基づき、中小企業者が事業再生を実行するために必要な資金の借入を保証する「経営改善サポート保証制度」について、2025年3月31日に終了する「感染症対応型」の後継として開始されます。
詳細につきましては、中小企業庁のHPをご参照ください。
物価高や人手不足等の影響を受けている中小企業者に向けた新しい保証制度の取扱いを開始します | 中小企業庁
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/2025/250314.html
財産債務調書制度は、富裕層の資産状況を正確に把握し、適正な課税を確保するために平成27年度税制改正で創設された制度です。令和4年度税制改正では対象者が拡大され、監視の網がさらに広がりました。
◆提出対象者
財産債務調書の提出が必要となる方は、次の1又は2に該当する方です。
1、その年分の退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日時点で価額の合計額が3億円以上の財産又は1億円以上の有価証券などの財産を有する方
2、その年の12月31日時点で価額の合計額が10億円以上の財産を有する居住者(所得要件なし)
◆提出書類と期限
財産債務調書には、財産の種類、数量、価額、所在地及び債務の金額等を「種類別」「用途別」「所在別」に記載します。また、別途「財産債務調書合計表」の添付が必要となります。提出期限はその年の翌年6月30日までで、提出先は所得税の納税地(所得税の納税義務がない場合は住所地)を所轄する税務署となります。
◆記載事項の簡略化
令和4年度税制改正では、記載事項の簡略化の拡充が図られました。
1、事業用の未収入金・未払金・その他の債務、家庭用動産について、記載を簡略できる範囲が、取得価額100万円未満から300万円未満に引き上げられました。
2、預入高50万円未満の預貯金については、預入高の記載を省略することができます(「所在」「備考」欄に口座番号を記載)。
3、青色申告決算書又は収支内訳書に記載された減価償却資産については、資産ごとに区分して記載することを省略できます(財産債務調書に総額で記載)。
◆インセンティブとペナルティ
この制度には申告の正確性を担保するための措置が設けられています。
1、財産債務調書を提出した場合には、記載した財産・債務について申告漏れが発見されても、過少申告加算税等が5%軽減されます。
2、財産債務調書の提出がない場合又は提出された財産債務調書に記載すべき財産・債務がない場合(重要なものの記載が不十分と認められる場合を含む)には、申告漏れが発見されると過少申告加算税等が5%加重されます。
ここで重要なのは、「重要なものの記載が不十分」と認められる場合も加重措置の対象となる点です。裁決例でも、記載内容の不備によって財産の特定が困難な場合は加重措置が適用されることが示されています。
令和4年度税制改正では、提出期限が従来の翌年3月15日から6月30日に変更され、記載を簡略化できる範囲も拡充されました。しかし、納税者にとっては調書作成のための資産価格の調査など手間やコストがかかることには変わりありません。提出漏れや記載漏れがないように細心の注意を払う必要があります。
国税庁:「財産債務調書制度」のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/zaisan_saimu/pdf/zaisan_chirashi.pdf
国税庁:財産債務調書制度(FAQ)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/zaisan_saimu/pdf/zaisan_faq_r5.pdf
国税庁は令和6年10月23日に「おむつに係る費用の医療費控除の取扱いについて(情報)」を公表しました。介護保険法施行規則の一部改正に伴い、厚生労働省「おむつに係る費用の医療費控除の取扱いについて」が令和6年10月10日付で改正されていることが紹介されています。
おむつ代については、原則として「おむつ使用証明書」で医師による治療を受けるため直接必要な費用であることが明らかにされたものが、医療費控除の対象とされます。ただし、例外的に「おむつ使用証明書」に代えて「主治医意見書の内容を確認した書類等」の添付等でもよいとされています。
改正前は、医療費控除適用1年目においては「おむつ使用証明書」の添付等が必須とされていました。改正後は、要介護状態の長期間継続が見込まれる場合は最長48か月間の要介護認定が可能とされたこと等を踏まえて、適用1年目においても、「主治医意見書の内容を確認した書類等」を添付等する例外的な対応が可能となります。
参考
・国税庁 おむつに係る費用の医療費控除の取扱について(情報)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/241009/index.htm
・厚生労働省 おむつに係る費用の医療費控除の取扱いについて
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/241009/pdf/omutuBetten.pdf
2025年度(令和7年度)の税制改正大綱では、物価上昇に対応するため、所得税の基礎控除や給与所得控除などが見直される予定ですが、国民民主党との合意形成までは至っていません。「103万円の壁」について国民民主党が主張する178万円を目指し、引続き協議を重ねるとしています。
現時点での変更予定は以下の通りです。
基礎控除の引き上げ
・合計所得金額が2,350万円以下の個人の基礎控除額を、48万円から58万円に引き上げるとしています。
・合計所得金額に応じて控除額が段階的に減少し、2,500万円を超える場合は適用されませ
ん。
給与所得控除の見直し
・給与所得控除の最低保障額を55万円から65万円に引き上げるとしています。基礎控除額と併せて、給与所得者に対して所得税が課税されない給与収入額が、103万円から123万円へ拡大される予定です(103万円の壁)。
・これに伴い、源泉徴収税額表や年末調整のための給与所得控除後の給与等の金額の表等が改訂される予定です。
特定親族特別控除(仮称)の導入
・居住者が生計を一にする19歳以上23歳未満の親族等(その居住者の配偶者及び青色事業専従者等を除くものとし、合計所得金額が123万円以下であるものに限る。)で、控除対象扶養親族に該当しないものを有する場合に該当します。
・親族等の合計所得金額に応じて、最大63万円から最小3万円の控除が適用される予定です。
これらの改正は、国会で成立後、原則として2025年分(令和7年分)以後の所得税から適用される予定です。
詳しくは、自民党ホームページよりご確認ください。
参考:自民党 令和7年度税制改正大綱