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所得拡大促進税制 (平成30年以前)

  平成26年3月期より適用が始まった所得拡大促進税制は、その初適用直前(平成26年3月期中)にもかかわらず税制改正により拡充され、屋上屋を重ねるようなやや複雑な制度となっています。平成30年まで留意が必要な制度です。以下に解説します。

1.所得拡大促進税制の概要と平成26年4月期~27年3月期決算法人の経過措置

 雇用者給与等支給額が増加した場合の特別控除制度(以下「所得拡大促進税制」)は、国内雇用者への給与等支給額が一定額以上増加した場合に、増額分の10%について税額控除を認めたものです。

 この制度は平成25年4月1日から開始する各事業年度に適用されますので、事業年度が12か月の法人の場合には平成26年3月決算法人からスタートすることとなりますが、平成26年度改正で、改正前5%以上とされていた給与等支給増加割合を、適用1~2年目については2%、3年目については3%、4~5年目については5%と段階的な増加割合要件へ緩和されました。この増加割合要件の「2%(平成25年度)、2%(26年度)、3%(27年度)、5%(28年度)、5%(29年度)」は、すべて基準年度となる平成24年度からの増加割合です。

 なお、法人が平成26年4月1日を含む適用年度(特例事業年度)に改正後の制度を適用する場合において、経過事業年度(平成25年4月1日以後に開始し、平成26年4月1日前に終了する事業年度で、改正前の制度の適用を受けていない事業年度)において改正後の要件の全てを満たすときは、その経過事業年度について改正後の規定を適用して算出される税額控除相当額を、その適用年度において、その税額控除額に上乗せして法人税額から控除(平成26年度も適用の場合、重複して控除)できることとされています。あわせて、控除上限額についても、経過事業年度の期間に応じて上乗せされます(以下「経過措置」)(改正法附則82②)。

 所得拡大促進税制(改正後)における適用要件は、
①基準年度(25年3月期)と比較して○%以上雇用者給与等支給額が増加
②雇用者給与等支給額が前期以上であること
③平均給与等支給額が前期を超えること
 以上の3点です。新要件での「平均給与等支給額」及び「比較平均給与等支給額」は,その計算の基礎となる給与等を「継続雇用者に対する給与等の支給額」に定義が変更されているのでこの点にも留意が必要です。

2.平成25年度に給与等支給増加額がない場合

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 この制度は5年間継続する制度であり、5年間、基準年度や前事業年度との対比が必要とされますので、たとえば26年3月期の給与等支給額が前事業年度を下回った場合でも将来適用できる可能性があるのであればデータを備えておく必要があります。

 たとえば上図のように、平成26年3月期(平成25年度)は基準年度となる平成25年3月期(平成24年度)よりも給与等支給額が減少していたとしても、将来、適用可能性があるのであれば、各年度の雇用者給与等支給額、平均給与等支給額等のデータの備えが必須となります。

3.雇用促進税制との適用関係

 雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除制度(雇用促進税制(措法42の12))、復興産業集積区域において被災雇用者等を雇用した場合の法人税額の特別控除制度等とは選択適用です。

 所得拡大促進税制では、雇用促進税制とは異なり、税務申告より前に特段の手続きを行う必要はありません。ただし、所得拡大促進税制の適用を受けるためには、法人税(個人事業主の場合は所得税)の申告の際に、確定申告書等に、税額控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細書を添付する必要があります。雇用促進税制と所得拡大促進税制のどちらかを利用する可能性があるが、あらかじめどちらの制度を利用するか判断できない、という場合には雇用促進税制の事前届出(雇用促進計画の提出)をした上で、申告の際にどちらを利用するか判断することになります。雇用促進税制の事前届出を行った場合でも、申告の際に所得拡大促進税制を選択することは可能です。

 また、雇用促進税制の適用を受けるためには、適用事業年度とその適用事業年度開始の日前1年以内に開始した各事業年度に、「事業主都合による離職者」がいないことが要件の一つとされていますが、所得拡大促進税制には上記のような要件はありませんので、雇用者給与等支給額の増加等の適用要件を満たせば、事業主都合による離職者がいる年度(①人員整理、事業の休廃止等による解雇②事業主の勧奨等による任意退職があった場合等)においても利用は可能です。所得拡大促進税制は雇用促進税制と異なり、雇用者数を増やすことを政策目的としているものではなく、ベースアップなど、各企業の従業員全体について給与等の支給額の増加を目的としているからです。

4.国内雇用者に対する給与等支給額

(1)国内雇用者

 国内雇用者とは、法人又は個人事業主の使用人のうち法人又は個人事業主の有する国内の事業所に勤務する雇用者(当該法人又は個人事業主の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者)をいい、雇用保険一般被保険者でない者も含みます。パートや日雇い労働者、アルバイトについても使用人に含めます(措法42の12の4②一、措令27の12の4②)。

 また、出向先が海外にあるため出向元法人が支給するいわゆる留守宅手当の額は、その出向者が「その法人の国内の事業所に勤務する雇用者」ではないので除かれます。

 ただし、役員の特殊関係者や使用人兼務役員(使用人兼務役員の特殊関係者を含みます)は、使用人から除かれています。なお、役員の特殊関係者とは、次の者をいいます(措法42の12の4②一、措令27の12の4①)。

イ 役員の親族
ロ 役員と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
ハ 上記イ、ロ以外の者で役員から生計の支援を受けているもの
ニ 上記ロ、ハの者と生計を一にするこれらの者の親族

(2)雇用者給与等支給額

 雇用者給与等支給額とは、国内雇用者に対して支給する俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与の額で、当該適用事業年度において損金算入される、所得税法第28条第1 項に規定する給与等をいうこととされています(措法42の12の4②二)。決算賞与については、損金算入される事業年度の雇用者給与等支給額に含まれます。退職手当など給与所得とされないものは含みません。

 そして実際の負担額とするために、その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合には、支給額からその支払を受ける金額を控除した金額とされています(措法42の12の4②三)。この「他の者から支払いを受けた金額」には、例えば、次に掲げる金額が含まれます(措通42の12の4-2)。

イ 雇用保険法施行規則第110条に規定する特定就職困難者雇用開発助成金、雇用対策法施行規則第6条の2に規定する特定求職者雇用開発助成金など、労働者の雇入れ人数に応じて国等から支給を受けた助成金の額

ロ 法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向した使用人に対する給与を出向元法人が支給することとしているときに、出向元法人が出向先法人から支払を受けた出向先法人の負担すべき給与に相当する金額。

 また、出向先法人が出向元法人へ出向者に係る給与負担金の額を支出する場合において、出向先法人の賃金台帳にその出向者を記載しているときには、その給与負担金の額は、「国内雇用者に対する給与等の支給額」に含まれますので留意してください(措通42の12の4-3)。

 一般管理費などの期間損益である給与等は、未払の給与等であっても適用年度の損金となる給与等の支給額は対象となり、適用年度に支給した給与等であっても前払等の適用年度の損金とならない給与等の支給額は対象となりません。

5.基準雇用者給与等支給額および雇用者給与等支給増加額

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(1)基準雇用者給与等支給額

 基準雇用者給与等支給額とは、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度の前事業年度(以下「基準事業年度等」)の雇用者給与等支給額をいいます。すなわち、平成25年4月1日より前に事業を行っている法人の場合には、平成24年度(個人事業主の場合は平成25年)の雇用者給与等支給額が基準雇用者給与等支給額となります(措法42の12の4 ②四・四イ)。
 なお、基準事業年度の月数と当該適用事業年度の月数とが異なる場合、基準事業年度の雇用者給与等支給額に当該適用事業年度の月数を乗じてこれを基準事業年度の月数で除して計算した金額を基準雇用者給与等支給額とします。

◆例1:3月末決算法人の場合

→ 平成24年4月から平成25年3月までが基準事業年度となります。

◆例2:12月末決算法人や個人事業主の場合

→ 平成25年1月から平成25年12月までが基準事業年度となります。

(2)雇用者給与等支給増加額

 要件①における「雇用者給与等支給増加額」とは、適用事業年度の雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を引いた金額です。

◆例:3月末決算法人の場合

→ 適用事業年度の雇用者給与等支給額から基準事業年度(平成24年4月から平成25年3月までの事業年度)の雇用者給与等支給額を引いた金額です。

(3)新設法人等基準事業年度のない場合

 基準事業年度等がない場合の基準雇用者給与等支給額は、最も古い事業年度等の給与等支給額の70%相当額とされています(措法42の12の4②四ハ)。すわなち、平成25年4月1日(個人事業主の場合は、平成26年1月1日)以降に新たに事業を開始した場合、事業を開始した事業年度の雇用者給与等支給額の70%に相当する金額とします。これにより、新設法人が国内雇用者に給与等を支給する場合には、必ず、この制度の適用ができるということになります。
 なお、事業を開始した事業年度の月数が適用事業年度の月数と異なる場合、事業を開始した事業年度の雇用者給与等支給額に当該適用事業年度の月数を乗じて、これを事業を開始した事業年度の月数で除して計算した金額を基準雇用者給与等支給額とします。

◆例:平成25年10月に、3月締めの会社を設立した場合に、平成26年度(12か月)の基準雇用者給与等支給額を計算する場合。
→  基準雇用者給与等支給額=(平成25年10月~平成26年3月の雇用者給与等支給額)×12÷6×0.7

また、平成25年4月1日(個人事業主の場合は、平成26年1月1日)より前に事業を開始していたものの、基準事業年度等において国内雇用者に対して給与等を支給していない場合には、基準雇用者給与等支給額は1円とされています(措令27の12の4⑧三)。これにより、雇用者給与等支給増加割合の計算で異常値とならないこととなります。

(4)比較雇用者給与等支給額

 比較雇用者給与等支給額とは、適用事業年度の前事業年度の雇用者給与等支給額をいいます。なお、前事業年度の月数と適用事業年度の月数とが異なる場合、前適用事業年度の雇用者給与等支給額に適用事業年度の月数を乗じてこれを前事業年度の月数で除して計算した金額を比較雇用者給与等支給額とします。
 最初の適用年度である平成25年度の場合、基準年度=前事業年度のため基準雇用者給与等支給額と比較雇用者給与等支給額は同額となります。

◆例:平成25年10月に、3月末決算法人を設立した場合で、平成26年度(12か月)の比較雇用者給与等支給額を計算する場合。

→  比較雇用者給与等支給額=(平成25年10月~平成26年3月の雇用者給与等支給額)×12÷6

 要件①は適用事業年度の雇用者給与等支給額と基準雇用者給与等支給額(各適用事業年度において固定された金額)と比較するもので、要件②は適用事業年度の雇用者給与等支給額と比較雇用者給与等支給額(適用事業年度の前事業年度の雇用者給与等支給額となるため、各事業年度において金額が異なる)を比較するものです。

6.平均給与等支給額および比較平均給与等支給額

(1)新制度における平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額

 平成26年度税制改正により、平均給与等支給額に係る要件について、平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額の計算の基礎となる国内雇用者に対する給与等を、継続雇用者に対する給与等に見直した上、平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を上回ること(改正前「以上」であること)とされました(措法42の12の4①二、②六、七)。
 継続雇用者に対する給与等とは、適用年度及びその前年度において給与等の支給を受けた国内雇用者に対する給与等のうち、雇用保険法の一般被保険者に対する給与等をいいます。ただし、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の継続雇用制度に基づき雇用される者に対する給与等を除きます。継続雇用者とは、適用年度及びその前年度において給与等の支給を受けた国内雇用者のことです。したがって、適用年度に新規で採用したものや、前年度で退職したものに対して支払った給与については、平均給与等支給額を比較する上で計算には入れないことになります。適用年度及びその前年度において給与等を比較する場合、前年度に給与水準の高い退職者が多く、適用年度に給与水準の低い新入社員が多い場合ではその平均給与を比較しても意味がありませんので改正されたものです。
 なお、今後の実務において、退職者、新規雇用者、高年齢再雇用者、継続雇用者の区分をして給与計算するなどの対応が必要になります。
 平成25年度において本制度における旧基準を満たすことができなかった場合には、改めてこの新基準での計算を行い、経過措置の適用を受けられるか検討が必要です。

(2)継続雇用者の平均給与等支給額の意義

 平均給与等支給額の計算上の分母は給与等月別支給対象者(「各月ごとの給与等の支給の対象となる国内雇用者の数」)(措法42の12の4②六、措令27の12の4⑪⑫)であり、あくまでも月別計算となります。また比較平均給与等支給額も同様です((措法42の12の4②七、措令27の12の4⑬⑲)。
 類似の制度である雇用促進税制においては、給与等支給額を比較する場合の高年齢者継続被保険者の取扱いが平成25年度税制改正によって改正され、雇用者の増加の計算は、前適用年度末の一般被保険者数から適用年度中に高年齢継続被保険者になった人数を減じた数と、適用年度末の一般被保険者数を比較することになりました。また、給与等支給額を比較するには、前適用年度の一般被保険者から適用年度中に高年齢継続被保険者になった者を減じた雇用者の分の給与等支給額と、適用年度の一般被保険者の分の給与等支給額で比較することになります(措法42の12②八)。つまり、適用年度中に高年齢者継続被保険者になった従業員がいる場合には、当年度だけでなく、前年度の人数、金額をともに除外して比較することとされました。

7.税額控除限度額

 法人が以上の適用要件を満たす場合には、税額控除限度額の税額控除の適用を受けることができますが、この税額控除限度額は、雇用者給与等支給増加額の10%に相当する金額とされています(措法42の12の4①)。ただし、法人税額から控除する金額は、中小企業者等は適用年度の所得に対する法人税額の20%に相当する金額を、それ以外の法人(大法人)は適用年度の所得に対する法人税額の10%に相当する金額を、それぞれ限度とすることとされています。

 なお、3月決算法人が経過措置を適用するに当たっては、「税額控除限度額」と「控除上限額」で算定方法が異なる点に留意が必要です。「税額控除限度額」は、平成25年度と26年度におけるそれぞれの雇用者給与等支給増加額の100分の10に相当する金額を合算することになります。一方、「控除上限額」は、こうした単純合算ではなく、26年度の法人税額をベースに算定します。

基本的には、27年3月期の法人税額の20%(中小企業者等は40%)が「控除上限額」となります。

 ここで、中小企業者等とは、租税特別措置法第42条の4第6項に規定する中小企業者又は農業協同組合等をいい、法人が中小企業者等に該当するかどうかは、適用を受ける事業年度終了の時の現況によって判定するものとします。中小企業者は、資本金の額若しくは出資金の額が一億円以下の法人のうち次に掲げる法人以外の法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が千人以下の法人です(措令27の4⑩)。
①その発行済株式又は出資の総数又は総額の二分の一以上が同一の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が一億円を超える法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が千人を超える法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除く。次号において同じ。)の所有に属している法人
②前号に掲げるもののほか、その発行済株式又は出資の総数又は総額の三分の二以上が大規模法人の所有に属している法人