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所長コラム

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令和5年12月18日 政治とカネの問題と税金

政権党である自民党の主要派閥の政治資金パーティーを巡る疑惑が広がっています。第一に政治資金規正法違反で、収支報告書への不記載・虚偽記載の罪(政治資金規正法25条)に該当する可能性です。第二に、いわゆるキックバックにより表の世界から流出した資金(裏金)の税金問題です。この問題、何がダメで何が良いのか、お金をもらうのに、何も課税されないのか? など疑問が湧いてきます。

 政治団体には、①政党、②政治資金団体、③資金管理団体、④後援会などのその他政治団体、があります。政治資金団体は、政党のために資金上の援助をする団体で政党が指定し届け出たものをいい、資金管理団体は、政治家個人のために政治資金の拠出を受け、あるいは、政党から受けた政治活動に関する寄附の経理を行うことができる団体で、政治家1人につき1団体とされています。
 政治資金規正法では、企業から個人・資金管理団体への献金は一切禁止されていますが、一方で、政治団体間の献金は一定限度内でできてしまい、そのため、報道されているような抜け道が合法的に行われることになります。

また、「政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律」では、法人である政党等は、法人税法の規定の適用については、公益法人等とみなす、とあります。つまり、法人税法上、政党は公益法人、政党以外の政治団体は人格のない社団等として扱われます。したがって、寄附収受は収益事業ではないので、原則として法人税が課税されることはありません。また、相続税、贈与税に関しても、政治団体は公益を目的とする事業を行う者とされていますので、政治献金のような寄附金に相続税・贈与税が課税されることは原則としてありえません。

 

企業が政党等に寄附したり、政治資金パーティー券を購入したりする場合は、寄附金又は交際費の損金算入限度額の範囲内で法人税が減額されます。個人が支払った政党または政治資金団体に対する政治活動に関する寄附金で一定のものについては、支払った年分の所得控除としての寄附金控除の適用を受けるか、または一定の算式で計算した金額について税額控除の適用を受けるか、有利な方を選択することができます。

 

なお、本年10月から開始された消費税インボイスとの関連で、国税庁はホームページで「政治資金パーティーと適格請求書について」を公表しました。少し長くなりますが、消費税の課税関係とインボイス制度の復習になりますので引用します。

「消費税の課税関係については、各取引の実態に則して判断することとなりますが、政治団体が開催する政治資金パーティーが政治資金を集めることを目的としたものであり、その政治資金パーティーを開催した際に受領する金銭が資産の譲渡や役務の提供の対価ではない場合には、消費税の課税対象とはなりません(不課税)。また、政治団体が受領する寄附金も、資産の譲渡や役務の提供の対価として支払われるものではありませんので、消費税の課税対象とはなりません(不課税)。
 そして、適格請求書とは、適格請求書発行事業者が課税資産の譲渡等(課税取引)を行った際に、その取引の相手方(課税事業者)から求められた場合に交付する必要があるものです。
 したがって、政治資金を集めることを目的として政治資金パーティーを開催した際に受領する金銭(不課税)について、適格請求書を交付する必要はありません。パーティーは、対価を徴収して行われる催物ですので、そのチケット販売は法人税が課税されるのではないかと考えられますが、収益事業として政令に列挙されている事業に該当しないとされており、法人税は課税されていません。
 ただし、消費税については課税されるのではないかという疑問もありますが、実態は寄附金であるため、不課税扱いにするのが一般的です。
 ただし、購入者側は、目的によっては交際費として処理する余地があります。」

 

このようにみてくると、今回の疑惑騒動から、税制の見直しも必要ではないかと考えますがいかがでしょうか。


令和5年12月4日 定額減税&給付金 本当にやるのか?!

周知の通り、政府は11月に閣議決定した総合経済対策で、3兆円台半ばの規模の定額減税を実施することを決めました。所得税と住民税を合わせて1人計4万円を来年6月以降に減税するというもので、納税者と扶養家族1人あたり所得税3万円、住民税1万円を減らします。納税者と配偶者、子ども1人の世帯なら合計12万円の手取りが増える計算です。決まった金額を減税するので「定額減税」と呼ばれます。

1130日に開かれた自民党税制調査会の幹部会合では、岸田政権が決めた所得税などの定額減税について、富裕層への所得制限を設けるべきだという意見が相次いだようです。大枠は決まっているようですが、実際に法案として国会に提出するには与党税調で詳細を議論して年内に決める必要があります。

この政策について、毎日新聞が1819の両日に全国世論調査を実施し、政府が決定した所得税など1人当たり計4万円の減税政策について尋ねたところ、「評価しない」が66%で、「評価する」(22%)を大きく上回りました。「わからない」は10%です。低所得世帯に対し7万円を給付する政策については、「評価する」は減税政策を上回る30%だったものの、「評価しない」が60%で多数を占めました。「わからない」は8%だけでした。この政府の経済対策は、国民の評価にはつながっていないようです。

ところで、給付金であれば、個人が指定した口座に、自治体が一定金額を振り込むだけですが、減税では、納税する金額から差し引くという作業が必要になります。日本では、源泉徴収制度により、会社員・公務員など給与所得がある人は、会社が給与から所得税や住民税を差し引き、代わりに納税しています。つまり、減税の処理をするのは、企業や自治体・公的機関などになります。多くの企業では、給与システムを導入していますので、その改修作業が必要です。給与システムは基幹システムの一つであり、通常、ちょっとした改修でも高額になることが多いです。たった1回の減税のために、改修作業をするのは、時間および費用の面で企業にとって大きな負担になります。

 

政府が閣議決定した総合経済対策2023は下記から

https://www.cao.go.jp/press/new_wave/20231107.html 

令和5年11月16日 中小企業の事業承継(M&A)の活発化

令和6年度税制改正に、中小企業の事業承継を後押しするために経済産業省から要望が出されています。「経営者の高齢化の進展等を踏まえ、中小企業の事業承継を後押しし、生産性向上・成長を支援する観点から、非上場株式等についての納税猶予及び免除の特例(法人版事業承継税制)・個人の事業用資産についての納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)について、承継計画の申請期限の延長を行うとともに、本税制の適用期間における事業承継の取組等も踏まえ、円滑な事業承継の実施のために必要な措置について検討する。」というものです。

実は税制以外にも、中小企業の事業承継には公的な組織が積極的に手を差し出していますので紹介します。

 

一つは、事業承継・引継ぎ支援センターです。中小 M&A 及び従業員承継や親族内承継を含む中小企業の事業承継に関する相談に幅広く対応する国が設置する公的相談窓口です。事業承継・引継ぎ支援センターは、令和5年9月現在、全国47都道府県に設置されています。ちなみに各事業承継・引継ぎ支援センターの連絡先は下記の通りです。

https://www.meti.go.jp/press/2023/09/20230922004/20230922004-3.pdf 

 

 二つは、「日本政策金融公庫『事業承継マッチング支援』」です。譲渡側経営者が、中小 M&A を実行すべきかどうかについての意思決定を単独で行うことは容易なことではありません。したがって、まずは顧問税理士に相談されることが多いのですが、自身が相談しやすいと考えられれば、政府系金融機関である日本政策金融公庫でも相談を受けています。

https://www.meti.go.jp/press/2023/09/20230922004/20230922004-5.pdf 

 

 三つは「日本税理士会連合会『担い手探しナビ』」です。マッチングサイト等の活用と言えます。税理士が仲介者又は FA として主導する中小M&Aにおいては、民間のM&A プラットフォーマーが運用しているM&A プラットフォームや日本税理士会連合会が運用し ている顧問税理士が関与先企業の窓口となって引継ぎ先を探すためのマッチングサイト「担い手探しナビ」等を活用することも期待されます。

https://www.meti.go.jp/press/2023/09/20230922004/20230922004-10.pdf 

令和5年11月6日 ドイツのインボイス事情

日本では101日からインボイス制度がスタートしたところですが、先月1011日、名古屋税理士会とミュンヘン税理士会との対面での意見交換会が行われ参加してきました。

 驚くべきことに、EUとして2028年からEU域内の取引に対し電子インボイスに基づく報告が義務化されるとのことでした。紙ベースのインボイスではなく、電子インボイスの義務化です。EU域内では、とにかく不正還付が多く、この防止につなげることが最大の目的であり、ドイツでも2年間の試行期間を経て、202511日に電子インボイスが義務化されることや、ドイツ税理士としてはペーパーレスによる仕事の効率化を期待していること等について報告がされました。電子インボイス導入に伴う不正防止の効果としてどの程度期待がされるか日本側からの質疑に対し、ドイツでの具体的な数値は公表されていないが、イタリアでは約30億ユーロの追加税収があり、EU全体としては約250億ユーロもの巨額の追加税収の見込がされているとのことでした。

続いて日本における近年の税務行政DXの取組と、EU域内の標準規格であるPeppol(ペポル)が日本で採用されることになっているデジタルインボイスのイメージについて発表がされました。ドイツ側からは、EU域内でも導入にばらつきがあり、ドイツでも具体的な時期や運用が決まっていないPeppol導入についてむしろ否定的な発言があったことが興味深かったです。Peppolとは、Pan European Public Procurement Onlineの略称であり、当然欧州標準だと思い込んでいただけに、EU内での主導権争いを垣間見た気がしました。

令和5年10月18日 ジャニーズ問題と事業承継税制

ジャニーズ問題で俄かに注目を集めたのが、「事業承継税制」です。

9月の会見で、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子氏は、社長からの引責辞任を発表しました。しかし、同時に「性加害の補償への取り組み」を理由に、代表取締役の留任を明かしていました。なぜ、ジュリー氏は「代表取締役」に居座ったのか。その主な理由が、ジャニーズ事務所が「事業承継税制の特例措置」で税優遇を受けるためだったことが、「週刊文春」の取材で明らかになり、本制度が注目を集めています。同誌の取材に対し、ジャニーズ事務所も事業承継税制の特例措置を申請し、適用されていると認めたようです。

ジャニーズ事務所への「外部専門家による再発防止特別チーム」調査報告書(公表版)によれば、ジャニー氏が逝去したのは2019年7月。ジャニーズ事務所の株は、メリー氏とジュリー氏の2人で分け合い、50%ずつ保有する形に。さらに2021年にメリー氏が亡くなると、メリー氏の株がジュリー氏にわたり、彼女は全株を保有することとなったとのことです。

 

「事業承継税制」とは近年、後継者不足や後継者の重い税負担を理由に、黒字廃業する中小企業が後を絶たないことを背景に、中小企業の事業承継を後押しするため導入されたものです。2018年にできた特例措置が適用されれば、株式の相続税や贈与税の納税が猶予され、さらに要件を満たせば免除される制度となっています。

ただし、ジャニーズ事務所が事業承継税制の特例措置で税優遇を受けるためには、ジュリー氏が申告期限の翌日から5年間、代表取締役を務めないといけません。ジャニー氏が亡くなった際の、相続税の申告期限は2020年5月。そこから5年間つまり2025年5月まで、ジュリー氏は代表取締役を務める必要があるのです。つまり、ジュリー氏が代表取締役を留任した最大の理由です。

「週刊文春」の取材ではジャニーズ事務所は、「事業承継税制を受けているのは事実です」と認めた上で、次のように回答しています。「中小企業が事業および雇用の継続等を行うための事業承継税制であり、当社は雇用を維持し、事業を継続しております。法律事務所、会計事務所と協議し事業を継続するためには、どのようにするのが一番良いか話し合った結果であり、税金逃れと言われるのは大変遺憾です」。

 

一方、「事業承継税制は、地道に経営する中小企業を助けるための優遇措置です。ジャニーズ事務所のように巨額の資産を保有する企業を想定していません。また先代の性加害への対応で芸能事務所として適切な事業継続が求められる中、免税のために留任しているのであれば、事業承継税制の本来の趣旨にも反していると言わざるを得ません。」という識者の批判等もあり、翌10月、会見で読み上げられたジュリー氏の手紙では、一転、代表取締役を降りることになりました。曰く、「今後私は全ての関係会社からも代表取締役を降ります。また、ジャニーとメリーから相続したとき、ジャニーズ事務所を維持するためには事業承継税制を活用しましたが、私は代表権を返上することでこれをやめて、速やかに収めるべき税金全てをお支払いし、会社を終わらせます。」

 

この通りであれば、納税が猶予されている相続税額は、利子税と併せて、全額納付の見込です。その際、再び社名変更前のジャニーズ事務所がどう対応するのかにも関心が寄せられます。 

令和5年10月2日 本当に始まるインボイス制度

政府は929日、101日に導入される消費税のインボイス(適格請求書)制度に関する初の関係閣僚会議を首相官邸で開きました。岸田首相は制度の円滑な実施のため、10月中に策定する総合経済対策に小規模事業者などに対する支援策を盛り込むと表明し、関係閣僚に指示したようです。しかし、政府の対応があまりにも遅すぎ、現場の混乱は続きます。

  このメールマガジンでは継続的にインボイス制度の解説を行っていますが、業種によっては、まだまだ浸透していませんし、問題は解決されていません。インボイス制度では、これまで消費税を免除されていた零細企業や個人事業主らに消費税を納税する必要が生じたり、納入先から契約を見直されるケースが想定されるため、反対の声が上がっています。とにかく、制度対応に要するコストを事業者の負担としていることに、何ら配慮しない政府のやり方に憤る顧問先さんも多数いらっしゃいます。

 

ところで、予想通りインボイスで繁盛するお店、はんこ店の話です。

デジタル化による「はんこ離れ」が進む中、思わぬ需要となっています。101日から始まるインボイス制度では、登録事業者が請求書や領収書を発行する際、登録番号の記載が必要ですが、はんこがあれば、これまでの書式の請求書や領収書でも使えるため、駆け込み注文が急増とのこと。インボイス制度は事業者によって登録番号が違うので、元号が変わった時よりも忙しい特需が生まれています。

 岸田首相は、「事業者の悩みを的確に把握し、11つの課題にしっかりと対応してまいります」と事業者の立場に立ち、不安の解消に努めるとともに、10月中に取りまとめる経済対策に事業者への支援策を盛り込む方針を示したそうですが、どのような後手が出されるか興味深いところです。

令和5年9月15日 10月1日以降の配当金税務の改正に留意

令和5101日以後に支払を受けるべき配当等について二つの大きな改正があります。

一つは親法人に支払われる配当等のうち完全子法人株式等と関連法人株式等(直接保有)に係る配当等については、源泉徴収が不要となります。これら以外の株式等に係る配当等の額の源泉徴収は改正前と同じ取り扱い(源泉徴収が必要)です。

親法人の法人税の課税所得計算において、完全子法人株式等に係る配当等は配当等の額が全額益金不算入、関連法人株式等に係る配当等は負債利子控除後の配当等の額が全額益金不算入となります。会計検査院での調査では、受取配当等の益金不算入などの影響で、完全子法人株式等又は関連法人株式等を保有している法人の半数以上が還付加算金を受け取っており、国費軽減の余地があることが判明しました。また、企業グループ内において納税に係る一時的な資金負担が生じるため、源泉所得税が法人税の前払的性質を持つことや所得税を効率的かつ確実に徴収するなどの源泉徴収制度の趣旨に必ずしも沿ったものとはなっていないという問題点もありました。

今回の源泉徴収不適用によって、税務署側での源泉所得税事務(還付事務)・子法人側での源泉徴収事務の負担軽減が見込まれます。

(参考) https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0022004-066.pdf 

 

もう一つは、令和5101日以後に支払われる上場株式等の配当等については、その支払いを受ける方およびその支払いを受ける方を判定の基礎となる株主として選定した場合に同族会社に該当する法人が保有する株式等の発行済株式等の総数等に占める割合(株式等保有割合)が3パーセント以上となる場合、その支払われる配当等については、大口株主等と同様、総合課税の対象となります。

上場株式等の配当等(大口株主等が支払いを受ける上場株式等の配当等を除きます。)については、総合課税によらず、申告分離課税を選択することができます。申告分離課税の税率は、20.315パーセント(所得税および復興特別所得税15.315パーセント、地方税5パーセント)の税率が適用されます。

なお、上場株式等以外の配当等の場合(大口株主等が支払いを受ける上場株式等の配当等を含みます。)は20.42パーセント(地方税なし)の税率により所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます。

(参考) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1330.htm 

令和5年9月5日 インボイス制度開始まで1か月

インボイス(適格請求書)制度の開始まで1か月を切りました。新聞誌上でも盛んにこの話題が取り上げられています。今まで納税を免除されてきた(免税事業者)小規模個人事業者の消費税をどのような形で負担するのか、多くの事業者が単に取引関係だけでなく人間関係も含めて難しい判断を迫られています。また、サラリーマン個人にも制度の影響が及びます。一方で公正取引委員会は免税事業者に対する不利な取引の強要を警戒しています。

 今月初めの朝日新聞では、CGクリエーター、バンド、アーティスト、英会話教室講師、個人タクシー事業者などの免税事業者の声を拾っています。当事務所の顧問先さんの下請け(一人親方など)も同じです。発注者側も発注先の免税事業者が課税事業者に移行してもらわないとインボイスが受け取れず、消費税の負担が自社にのしかかることになるのですが、だからと言って課税事業者になるよう求めることができないといいます。「彼らの中にはルームシェアをしながら月収5万円で生きているような人もいる。さらに消費税を負担しろとは言えない」と語っています。「アーティストにしても業者にしても『この人だからこそ』と思ってお願いしている。こんなことで関係を切るつもりはない」と苦渋の決断をしているところもあります。

 一方、「免税事業者から商品等を仕入れる業者の多くは、仕入れ値に消費税が含まれるものとして申告時に控除してきた。本来ならこの控除分は販売した業者が納めるのだが、その業者が免税事業者であるため消費者が負担する税額の一部がきちんと国庫に納まらなかった」という指摘もあり、この問題(国庫の損失)が解消される「合理的」な面もあります。

 公正取引委員会が、JTが葉タバコ買取価格の値下げを一方的に通告した問題に対して注意をした、という記事もあり、まだまだ混乱は続きそうです。

令和5年8月17日 いよいよ始まるインボイス制度への質問

令和5年10月から、いよいよ問題の多いインボイス制度が始まります。顧問先の皆さんからは、直前ならではの質問が様々寄せられています。

 まずは、10月1日をまたぐ取引についてのものです。

 インボイス制度(適格請求書等保存方式)の下では、売手は課税資産の譲渡等を行った場合、取引の相手方の求めに応じ、インボイス(適格請求書)を交付する義務が課されています。また、課税事業者である買手は、仕入税額控除の要件として、原則として、課税仕入れ等に係る帳簿及び適格請求書等の保存を要することとなります。この点、同じ取引であっても、売手における売上げの計上時期と買手における仕入れの計上時期が必ずしも一致しない場合があります。例えば、機械装置の販売において、売手が出荷基準により令和5年9月に課税売上げを計上し、買手が検収基準により令和5年10月に課税仕入れを計上するといったことも生じます。この場合、売手においては、適格請求書等保存方式の開始前に行った取引であることから、買手からその取引について適格請求書の交付を求められたとしても、その取引に係る適格請求書の交付義務はありません。このため、買手においては、原則として、売手における課税売上げの計上時期が令和5年10月1日以後のものとなる取引から、仕入税額控除の適用を受けるために適格請求書等を保存する必要があります。この例のように、売手における課税売上げの計上時期が令和5年9月となる取引については、買手は従来方式(区分記載請求書等保存方式)により仕入税額控除の適用を受けることができます。

 次はシステム対応等事務上の課題から、9月分からインボイスを発行しても大丈夫かというものです。

インボイス(適格請求書)の発行に対応したレジシステム等の改修を行い、適格請求書の記載事項を満たした請求書等を発行する場合にも、その請求書等は、従来方式(区分記載請求書等)として必要な記載事項を満たしていますので、前倒しで交付しても問題ありません。令和5年9月30日以前の請求書への登録番号の記載があっても問題ない、ということです。すでに、登録番号の記載等のあるインボイス(適格請求書)が交付されている取引が散見されています。

国税庁ホームページでは、具体的なQ&Aが随時改訂されており、現在、全127問、156ページにもなります(下記アドレス)。

大きな混乱なくスタートするために、今一度、取引を点検していただきたいと思います。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/qa_invoice_mokuji.htm

令和5年8月1日 新NISAへの誤解

NISA(少額投資非課税制度)は、その口座で購入した一定額までの株式や投資信託などから得られる利益が非課税になる制度です。2024年以降の新しいNISAは、従来の一般型とつみたて型を一本化し、抜本的に拡充・恒久化されます。ただし、改正に伴い誤解も多いようです。

誤解1「新しいNISAでは、現行NISAと同じ金融機関を選ばなくてはならない」

現行NISAと新しいNISAは別の制度です。新しいNISAの口座は同じ金融機関でなければならないということはありません。また、一般NISA、つみたてNISAと同様に新しいNISAも1年単位で変更できます。なお、金融機関の変更を検討している場合、今年になって買付けを行っていなければ、9月末までに変更手続きをして、変更後の金融機関で現行NISAの投資枠を使うことも可能です。

誤解2「現行NISAと新しいNISAは併用できない」

現行NISAの制度は2023年で終了する見込みですので、2024年以降は新規投資ができません。しかし、2023年に投資して2024年以降に非課税保有期間の終了を迎える場合でも、一般NISAなら5年、つみたてNISAは20年、ジュニアNISA18歳になるまで現行の非課税期間は保有することができます。ロールオーバー(翌年の非課税投資枠に移管)の利用も2023年までです。非課税保有期間が終了した場合は売却するか課税口座へ移すことになります。

 誤解3「現在のNISA口座で投資すると新しいNISAの枠から引かれる」

現行のNISA口座で投資を行っても新しいNISAの生涯の非課税保有限度額1,800万円から引かれることはありません。現行のNISAは2023年で終了する見込みとなり、2024年以降の新規投資はできませんが、新しいNISAとは別枠で、それまでに投資した金融商品を一定期間非課税で保有することができます。現行のNISA口座を利用している人もしていない人も、新しいNISAの非課税保有限度額は同じであるため、現行NISAを利用している人の方が合計の運用金額は多くなります。

いかがでしょうか。そのほかに運用商品についての話題があります。これについては、筆者も長期投資で「失敗した」と言える「テーマ型」(AI、DX、カーボンニュートラルなど)について、こんな指摘があります(平成28事務年度「金融レポート」金融庁)。

「テーマ型投資信託は、我が国で売れ筋商品となっているが、概ね、人気のある時は基準価額が堅調だとしても、ブームが過ぎると基準価額が下がるおそれがあり、実際、そうした動きをしている投資信託も見られる。適切な売買のタイミングを継続的に見極めることができる投資家はプロの中にも少ないと考えられ、個人投資家にとっては更にハードルが高いと考えられる。」「過去の株式投資信託の販売動向を見ても、ブームに流され、株価のピークにおいて株式投資信託が最も売れる傾向が見られているが、個人投資家が安定的な資産形成を行うためには、こうした売買のタイミングを気にする必要のない、資金投入の時期を分散する積立投資を行うことが有益な方法と考えられる」。

長期投資になじまない商品は避けた方が良い、との金融庁の指摘です。

令和5年7月19日 「年収の壁」問題

所得税法で「103万円の壁」とは、収入を得ている本人が「所得税」を負担することになる基準のことで、パート・アルバイトなど給与収入で働く方が、年収103万円を超えると、超えた額に応じた所得税が発生します。103万円を超えたとたんに、納税をする人(夫)の配偶者控除がなくなると負担なので、配偶者(妻)のパート・アルバイト収入が103万円超150万円以下の場合は「配偶者特別控除」と呼ばれる控除が受けられ、その満額は38万円です。そして、150万円を超えると「配偶者特別控除」は徐々に減額されていきます。これが「150万円の壁」と呼ばれる基準です。「配偶者特別控除」は、なだらかな仕組みであり、その配偶者が独立した納税者になって税負担が増えて起こる「手取りの逆転現象」への対応目的で設けられたことから、結果的に所得税法には「壁」と呼ばれるほどのものはありません。

問題は社会保険です。被保険者数が101人以上の規模の企業であれば、中小企業で働く場合でも社会保険の適用対象です。1週間に20時間以上働き、毎月の給与が8.8万円以上(8.8万円×12ヵ月=105.6万円)になると、企業は健康保険と厚生年金保険の被保険者としなければなりません。社会保険の被保険者となれば、労使ともに健康保険と厚生年金保険の保険料負担が発生し、パート従業員も給与から保険料が天引きされます。その結果、社会保険料の控除により、給与が106万円未満の従業員よりも手取りが減少することがあり、これがいわゆる106万円の壁です。

政府は、「年収の壁」による働き控えを防ぐ対策として、賃上げなどに取り組む企業を対象に、従業員1人あたり最大約50万円の助成金制度を創設する方針を固めたとの報道があります。一定規模以上の企業で厚生年金保険料などの天引きが始まる年収106万円の壁向けの措置で、早ければ2024年から実施するとのことです。

なんとも複雑で、「企業に説明義務を誰が果たすのか」、「いっそのこと、給与が106万円未満の従業員及び主婦層のいわゆる第3号被保険者の『優遇措置』を廃止すれば良い」との声が大きくなっています。

令和5年7月3日 タワマン節税に税の網

国税庁は6月30日、相続税の新たな算定ルール案を発表しました。今後、意見公募手続を行う予定です。相続税の課税のもととなるマンションの評価額が「実勢価格」の6割以上に引き上げられる計算で、「マンション節税」を抑止する狙いです。

そもそもマンション節税とは何か。

相続税は資産価値を「時価」に基づいて評価し、申告して納税します。マンションの評価額は通常、建物は固定資産税評価額、土地は毎年公表される路線価から計算して合算しますが、実勢価格を下回りやすい傾向があり、その乖離(かいり)を資産評価に使って相続税額を低く抑える手法として、富裕層などに広く使われています。特に人気で高価格となる都市部のタワーマンション高層階で評価額との乖離が大きくなり、節税効果が得やすいとされることから「タワマン節税」とも呼ばれます。国税庁が全国のタワーマンションについて2018年のデータを抽出調査したところ、平均して実勢価格と評価額に3.16倍の乖離(かいり)があったとのことです。

新たな算定ルールは、築年数や階数などに基づいて「実勢価格」を計算し、相続税額の根拠となる評価額を引き上げる内容となっています。所有するマンションの「実勢価格」がわからない場合に、理論上の「実勢価格」を計算で導き出すのが最大の特徴です。現行の相続税評価額に「築年数」「階数」「所在階」「敷地持分狭小度」を変数として調整計算して6掛けするものです。

マンション全般が対象となりますが、特に影響が大きいとみられるのが総階数20階以上のタワーマンションで、全国に1400棟以上あり、総戸数は38万戸を超えます。多くのタワマンで税負担が増えるのは間違いありません。

有識者会議で示された資料を基に試算すると、「都内にある築9年の43階建てマンションの23階にある1室(実勢価格約11900万円)を子ども1人が相続した場合、相続税額は約508万円と従来の約12万円から500万円近く増えた」との報道もあります。

公平性の観点から、一定の負担増はやむを得ないと考えます。

 

【参考】

報道発表資料 令和5年6月30日 国税庁

マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について

https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/0023006-018.pdf 

令和5年6月15日 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

昨日の東京株式市場で日経平均株価が一時、前日終値比400円超値上がりし、33400円を上回りました。取引時間中としては1990年以来、約33年ぶりの水準となり、バブル後の最高値を連日で更新しています。また時価総額で国内1位のトヨタ自動車がPBR(株価を1株あたり純資産で割ったもの)1.0倍を回復したことなど、明るい話題が多くなっています。

こうした中、長年塩漬けにしていた株式を損切りした方、これから損切りする方も多くいらっしゃると思います。今年は株式譲渡に係る確定申告が必要な機会は増えるのではないでしょうか。そこで、改めて「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」の特例を紹介いたします。

この特例を活用すれば、上場株式等の取引により損失が生じた場合、その年の配当所得等と通算し、それでもなお控除しきれない損失がある場合には翌年以降の3年間その損失を繰り越すことができます。譲渡損失が生じた年分の申告では、確定申告書に「確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益の計算及び繰越控除用)」などを添付する必要があります。

損失が生じた翌年以降、譲渡益や配当所得等があれば、前年から繰り越した損失から控除できます。それでもなお控除しきれない損失が残った場合には、最大3年間にわたって損失の繰り越しをすることができますが、株式等の譲渡がなくても 1.連続して確定申告書を提出すること、 2.「確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益の計算及び繰越控除用)」の添付があることが条件となります。

これらのとおり、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の適用に当たっては、申告書の提出や添付すべき書類について条件があります。損失を繰り越すためには、株式等の譲渡がなくても翌年、2年後、3年後まで毎年申告書と付表を提出する必要があるため提出漏れ、添付もれがないように注意しましょう。

参考:国税庁HP

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1474.htm 

令和5年6月5日 過去最高の税収

国の一般会計税収が、3年連続で過去最高を更新する見通しです。61日、財務省は、2022年度の一般会計税収が4月末時点で61兆円だったと発表しました。2021年度の同時期に比べ8.1%上回っており、過去最高となっています。

所得税、法人税、消費税のすべてが増えており、特に消費税は、円安と資源高による物価上昇率の伸びを背景に、6.7%増の19兆円となったとのことです。

2022年度税収は、5月分を加えて確定し、7月に発表されますが、初の70兆円超えも視野に入っているといいます。先日の日本経済新聞では、「低成長で税収増の不思議」「初の70兆円へ。業績二極化、法人税上振れ」とあります。

 20202022年はまさにコロナ禍で不景気だった時期にあたります。物価高、円安による資源高で生活が苦しいなか、消費税収が増えているということは、国民の負担感が増していることを意味します。一方、岸田政権で出てくるのは負担増の政策ばかりです。

2023年度から5カ年の防衛費の総額を43兆円程度とこれまでの1.5倍に増額するため、1兆円強を増税でまかなう方針であることは令和5年度税制改正大綱にすでに盛り込まれており、法人税・たばこ税の引き上げ・復興特別所得税の一部転用が決定されています。

さらに、「異次元の少子化対策」のため、社会保険料の増額や、所得税扶養控除の縮小が検討されており、負担はいっそう増えていきそうです。

3年連続で税収が過去最高を更新するのに、減税ではなく負担増の政策ばかりが出てくることに、疑問の声を聞きます。まったく同感です。


令和5年5月16日 シェアリングエコノミーへの課税

街を疾走するUber Eats(ウーバーイーツ )の自転車やオートバイ、今ではどこでも見かける風景となりました。新型コロナウイルスの影響で、料理宅配サービス「ウーバーイーツ」やインターネットを通じて外部に業務委託する「クラウドソーシング」などの利用は拡大しました。一方、東京国税局は「ウーバーイーツジャパン」に配達員の報酬額や銀行口座などの情報提供も求めており、国税当局は今後も重点的にシェアリングエコノミーなどを巡る申告状況の調査を続けるとみられています。

シェアリングエコノミーとは、インターネットを通じて、個人と個人の間で使っていない場所やモノ、技術などを貸し借りするサービスです。時間やモノ、スペースやスキルなどのいろいろな資源を「シェア」する考えが日々広がりを見せています。デジタル庁は「シェアリングエコノミーについて、サービスの安全性及び信頼性の向上を図りつつ、更なる社会への浸透・定着につながる取組を推進します。」としています。

確かに、シェアリングエコノミーは、あらゆる遊休資産の活用を促進し、国民一人ひとりが多様なニーズに合う選択をすることができる社会、持続可能な循環型社会等の実現に貢献することが期待されそうです。ここ数年、空き部屋や駐車スペースのシェア、家事や育児代行等をはじめ、多様な分野で新たなシェアリングエコノミーサービスが登場し、社会全体のデジタル化が進展するにつれて、消費者の認知・利用も拡がりつつあります。

ウーバーイーツ配達員の仕事は、隙間時間を活用し、デリバリーをしたいウーバーイーツレストランパートナーの料理を注文したユーザーの元に配達することで収入を得ています。ウーバーイーツ一番の魅力でもある「好きな時に好きな場所で働く」ことができるのがシェアリングエコノミーの特徴です。

 さて、本論に戻ります。シェアリングエコノミーで収益を上げている場合、確定申告をしないでいると、税務署や国税当局から調査される可能性が高まります。無申告状態と並んで、シェアリングエコノミーによる申告漏れ額や追徴税額が高額となっている為、税務調査を強化していることも理由となっているからです。

シェアリングエコノミーは、インターネット上のアプリシステム提供者(運営者)であるプラットフォーマーを介して成り立つことから、プラットフォーマーに情報提供を求めるだけではなく、源泉徴収義務や支払調書の提出義務を課してはどうか、という提言もあります。しかし、シェアリングエコノミーは匿名性が高く、プラットフォーマーに資源提供者の本人確認までさせることはかなりの抵抗がありそうです。

やはりここは資源提供者本人の自覚を高めながら、確定申告への途を伴走してあげる仕組みが望ましいと考えます。


令和5年5月1日 燃費・排ガス不正

前回号では車体課税を取り上げました。政府の目標では、2035 年までに乗用車の新車販売に占める電動車の割合を100%とすることを目指すことになっており、ここでいう「電動車」とは、電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車及びハイブリッド自動車の4種を言い、ハイブリッド自動車を含めたところで100%とするということを取り上げました。

 ところでガソリン車等の車体課税の場合、税率区分(燃費基準達成度)が問題となり、燃費性能等に不正があった場合の税金の差額負担を誰がするのか、といった問題があります。軽減税率の適用を受けていたユーザーに追加負担させるのは酷ですし、納得も得られません。したがってメーカーが被ることになります。

 令和5年度税制改正では、「燃費・排ガス不正行為への対応」として、不正により生じた納付不足額に係る納税義務を、その不正を行ったメーカーに負わせる特例規定について、税制上の再発抑止策を強化するため、納付不足額を徴収する際に加算する割合(現行:10%)を35%に引き上げる、という改正がなされました。

 「燃費・排ガス不正」などでネット検索すると、少し前には、国土交通省が、三菱自動車工業とスズキによる燃費試験における不正行為を踏まえて、不正を行なったメーカーに対しては審査を厳格化するなど型式指定申請における不正行為の防止策をまとめたという記事がありました。日野自動車では、およそ20年にわたるデータ不正問題があって、国土交通省は排ガスの性能が基準に満たない車両などが、12万台余り販売されるに至った不正行為は極めて悪質だとして、会社側に抜本的な改革を求める是正命令を出したという記事があります。その後ダイハツ工業が海外向けに開発した車で、安全試験の認証手続きを欺いたという記事、そしてトヨタの源流企業でもある豊田自動織機でもフォークリフトを対象に排ガスデータの改ざんが明らかになったという記事などが次々に出てきます。いずれも耳を疑うような不祥事で、もちろん改善・是正すべき問題です。

 車体課税に及ぼす影響だけでなく、これらメーカーと取引のある中小企業にとっては業績を直撃する大問題です。

令和5年4月17日 どうする車体課税

今月15日、G7環境相会合が札幌市で開催され、脱炭素社会の実現や経済安全保障の強化などをテーマに2日間にわたって開かれた会合は共同声明を採択して閉幕しました。焦点となっていた自動車分野の脱炭素化では、G7各国の保有台数をベースに二酸化炭素の排出量の50%削減に向けた取り組みを進めることで合意しました。それによりますと、自動車分野の脱炭素化については、エンジン車なども含めた各国の保有台数をベースにG7各国で二酸化炭素の排出量を2035年までに2000年に比べて50%削減できるよう、進捗を毎年確認することで合意したとのことです。

 欧米の国々が求めていた電気自動車の導入目標ではなく、(ガソリンエンジンを搭載している)ハイブリッド車も含めた幅広い種類の車で脱炭素化を目指すことになったという点で、日本の自動車メーカーはまずは一安心、といったところでしょうか。英国は、2035年度までに主要市場での販売の全てを電気自動車(EV)にするよう要求していたからです。

 日本でも、電気自動車(EV)の販売は徐々に広がっています。しかし、日本の特徴として、ハイブリッド車が2022年度上半期販売でも42.4%ものシェアを占めているという状況です。

政府の目標では、2035 年までに乗用車の新車販売に占める電動車の割合を100%とすることを目指すことになっています。ここでいう「電動車」とは、電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車及びハイブリッド自動車の4種を言います。ハイブリッド自動車を含めたところで100%とするということです。

令和5年度税制改正では、自動車税はじめ車体課税は、この政府目標と整合的な形に見直し、電動車の一層の普及促進を図る観点から、減免区分の基準となる燃費基準の達成度を段階的に引き上げた上で現行制度を維持する期間を含めて適用期限を合計3年延長することになりました。

車体課税は当面(本年中)は現行制度を維持し、その後、段階的に脱炭素化に向かいます。車両の買換えを検討する場合には、この点を意識すると良いと思います。

 

参考:経済産業省「令和5年度税制改正(車体課税の見直し及び延長)」

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/tax/pdf/R5FY_tax.pdf 

令和5年4月3日 マンション大規模改修工事の減税措置

全国のマンションのストック数は約655万戸(平成30年末時点)、1,500万人超が居住しており、都市部等を中心になくてはならない居住形態として定着しています。そして、築40年超のマンションは81万戸(同時点)、10年後には198万戸、20年後には367万戸となる見込みとされています。

多くの高経年マンションにおいては、高齢化や工事費の急激な上昇により、長寿命化工事に必要な積立金が不足しています。長寿命化工事が適切に行われないと、外壁剥落・廃墟化を招き、周囲への大きな悪影響や除却の行政代執行に伴う多額の行政負担が生じることとなります。

このため、必要な積立金の確保や適切な長寿命化工事の実施に向けた管理組合の合意形成を後押しすることを目的として、令和5年度税制改正において「長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する特例措置」の創設が盛り込まれました。

 長寿命化に資する一定の大規模修繕工事を行ったマンションに係る固定資産税について、その翌年の税額を、6分の1以上2分の1以下の範囲内で減額する措置が講じられます。

対象となるマンションは、マンションの管理に関する計画が、都道府県等の長により認定等された場合で、そのマンションのうち次のいずれかの要件を満たすものとなります。

1.築後20年以上が経過している10戸以上のマンションであること

2.長寿命化工事を過去に1回以上適切に実施していること

3.長寿命化工事の実施に必要な積立金を確保していること。

対象工事は、令和541日から令和7331日までの間に完了した長寿命化工事であり、屋根防水工事、床防水工事、外壁塗装等工事が該当します。

ただし、減額を受けようとする対象マンションの各区分所有者は、マンションにおいて行われた大規模修繕工事が上記の長寿命化に資する一定の大規模修繕工事であること等につき、マンション管理士等が発行した証明書等を添付して、大規模修繕工事後3月以内に市町村に申告する必要があります。

 

参考: https://www.mlit.go.jp/report/press/house06_hh_000225.html

令和5年3月17日 相続空き家特例の拡充

相続した空き家を売却する際、利益が出た場合は、譲渡所得税を支払わなければなりませんが、一定の条件を満たしていれば「相続空き家の3,000万円特別控除」が適用され税金が安くなります。節税効果が大きいので、適用できるのであれば、ぜひ使うべき特例ですが、かなり適用条件が厳しいです。これが、令和5年度税制改正で使い勝手が多少良くなりましたのでお知らせします。

  そもそも、土地を売却する際は、「売却金額-購入金額-譲渡経費」の利益に対して譲渡所得税がかかるのですが、この場合、購入金額を証明できる購入時の売買契約書や領収書などがなければ計算できません。このように取得費が不明な場合は、「売却金額の5%」を購入金額とする、いわゆる5%ルールを適用します。しかし、5%ルールを適用するとかなり税金がかかってしまいます。

この売却益が出た場合に「相続空き家の3,000万円特別控除」が適用できれば、3,000万円分まで譲渡所得税はかかりません(相続人2名で相続して売却していれば3,000万円×2名=6,000万円まで譲渡所得税がかかりません)。ただし、空き家特例(相続空き家の3,000万円の特別控除)の適用条件は難易度が高いので、慎重に判断する必要があります。

 大雑把にまとめると下記の10要件を満たす必要があります。

1. 建物だけでなく土地も相続していること

2. 相続があった日(亡くなった日)から3年後の年末までの間に売却したこと

3. 区分所有建物(マンション)でないこと

4. 1981(昭和56)年5月31日以前に建築された建物であること

5. 被相続人(亡くなった方)が亡くなる直前まで居住していた家であること

6. 同じ被相続人(亡くなった方)の相続ですでに空き家特例を利用していないこと

7. 買主は第三者で、配偶者や直系血族など、特別な関係の人に対する売却ではないこと

8. 売却金額が1億円以下であること

9. 売却するとき建物がある場合は一定の耐震性が認められること、もしくは建物を解体して土地だけで売却していること

10. 相続してから売却するまで、賃貸に出したり、相続した人が住んだりしていないこと

なお、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなどの事由により相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋は被相続人居住用家屋に該当し、適用できます。

 詳細は、国税庁ホームページ 

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm 

  このうち、特に「9」の取り壊し要件がネックになっていました。

令和5年度税制改正では、次の措置を講じた上で、その適用期限が令和9年1231日まで4年延長されます。

    譲渡要件の拡充

売買契約等に基づき、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修又は除却の工事を行った場合、工事の実施が譲渡後であっても適用対象とします。  

現行制度は、「譲渡前」に売主が耐震改修又は除却の工事を実施する必要があり、この譲渡要件が空き家流通上の支障になっているのではないかとの問題意識に基づき拡充が図られるものです。 ただし、年末に譲渡をしたケースにおいては、翌年2月15日までに工事を完了できないこともあり得ると考えられますので注意が必要です。 実務では、工事業者がなかなか見つからなかったり工事が長引いたりする可能性なども考慮して、年の前半に譲渡をする等の対応が必要となると考えられます。

     特例の対象者が3人以上である場合の特別控除額

相続による被相続人の居住用家屋及び敷地等の取得をした相続人の数が3人以上である場合における特別控除額を2,000万円 とします。

この特例を適用する場合には、対象者(共有者)ごとに3,000万円までの控除ができることから、現行では、共有で相続した方が対象者が多くなって有利となります。今回の改正後も、対象者が多くなる方が有利になるという事情は変わりませんが、対象者が2人までであれば特別控除額が1人当たり3,000万円ですが、対象者が3人以上となると特別控除額が1人当たり2,000万円となります。例えば、対象者が2人の場合の特別控除額は6000万円となり、対象者が3人の場合の特別控除額も6,000万円で、いずれの場合も特別控除額は同額となります。

 

本年度税制改正セミナーを4月13日に開催しますので、ぜひご参加ください。

令和5年3月1日 売手負担の振込手数料問題の解決〜令和5 年度消費税改正:1 万円未満の値引等に緩和措置〜

本年10月からのインボイス制度下では、値引き等を行った際に売手と買手の税率と税額の一致を図るため、売手に返還インボイスの交付義務が課されることになります。実務的には、買手側の都合で差し引かれた振込手数料相当額を「売上値引き」として処理する場合、売手側の新たな事務負担が懸念されていました。この難問について、令和5年度税制改正大綱では、税込価額1万円未満の値引き等における返還インボイスの交付義務の免除措置が盛り込まれ、ひとまず安どしたのですが、経理マンにはいまだ注意点があります。

この少額な返還インボイスの交付義務免除は、すべての方が適用対象となります。また、適用期限のない恒久的な措置となります。売り手が負担する振込手数料相当額を売上値引きとして処理している場合には、返還インボイスの交付義務免除の対象となります。

しかし、実務的には、売り手が負担する振込手数料は、「支払手数料」「雑費」として処理されている場合が多いです。売り手が負担する振込手数料を支払手数料等、すなわち課税仕入れとして処理している場合には、そもそも返還インボイスの交付云々ではなく、仕入税額控除を行うためには、金融機関や取引先からの支払手数料に係るインボイスが必要となる点について変わりありません。

そこで、売り手が負担する振込手数料を、会計上(法人税法上)は支払手数料として処理し、消費税法上は対価の返還等(売上値引き)と使い分けできるかが問題になります。財務省資料(下記)ではこの点、「差し支えありません」と言い切っています。帳簿上、支払手数料として処理していたとしても、当該支払手数料を対価の返還等(売上値引き)として取り扱うことがコード表、消費税申告の際に作成する帳票等により明らかであれば問題ないのですが、そういったコード分けをするという手間は発生するという点にはご留意ください。

 

インボイス制度の負担軽減措置(案)のよくある質問とその回答 財務省(令和5年1月 20 日時点)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/qa_futankeigen.pdf

令和5年2月16日 マンションの相続税評価が変わる?

令和5年度税制改正大綱のなかで「マンションの相続税評価について」と題して、「マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られる。現状を放置すれば、マンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある。このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。」と宣言されました。

そこで「タワマン節税」の中身はどうなるのか関心が集まっています。

そもそも相続税の財産評価に当たっては、マンションの評価額も財産評価基本通達の定 めに基づいて、一般的な戸建住宅と同じように、土地と建物に区分したうえで、土地は路線価等により、建物(区分所有建物)は固定資産税評価額にて評価しています。

一方、このような方法により算定されるマンションの評価額が、不動産市場での売買価額よりも大きく乖離する場合があります。このため、相続税や贈与税の申告書の提出後、課税当局によって、路線価等に基づく相続税評価額ではなく、課税当局が依頼した鑑定評価額に基づいた価額で評価し直した上で、課税処分が行われる事例が生じています。

令和44月の最高裁判決は、相続した賃貸マンションの評価額が実勢価格より低すぎるとして国税当局が再評価して追徴課税した事案を適法としたもので、相続が近いことを予測してマンション2棟を約139千万円で銀行借入して購入し、その評価が4分の1の価格で申告されたものです。相続に係る課税価格の合計は6億円を超えるものだったが、この購入・借入により、基礎控除の結果、相続税の総額が0円だった事案です。

そして、今年に入り、「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」がスタートしました。結論は容易に見通せませんが、評価額と実勢価格の差額に着目したタワマン節税が封じられることは明らかで、これにより「不動産バブル」「タワマン林立」状態に大きな影響を与えることに注視が必要です。

 

国税庁 報道発表資料は以下の通りです。

https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/0023001-051.pdf

 

令和5年2月2日 研究開発投資の支援税制

令和5年度税制改正大綱では、研究開発税制について、次のように記述しています。

「研究開発投資は、社会課題解決の推進力となるイノベーションの源泉であり、高い外部効果を有することが期待される一方、企業にとっては成果が得られるとは限らない不確実性を伴う。企業の研究開発投資の規模拡大や質の向上は、『成長と分配の好循環』を拡大していく上で、極めて重要な意味を持つ。米国や中国の企業が研究開発投資を大きく伸ばす中、わが国企業の研究開発投資は近年伸び悩んでおり、国際競争力の維持向上のためにも、その増加を促していかなければならない」。

このような認識のもと、研究開発税制において、投資を増加させるインセンティブを更に強化するために、税額控除率カーブにメリハリをつけた見直しを行います。また、控除額が上限に達した企業に対してもインセンティブが機能することを期待し、一律に設定されている控除上限を変動させる新たな仕組みも導入されます。

そのほか、研究開発の質を高める観点からは、既存企業とスタートアップ企業のオープ ンイノベーションや、研究開発を担う「人」への投資を促すことが喫緊の課題であることから、オープンイノベーション型において、研究開発型スタートアップ企業の定義を見直し、対象を大幅に拡大することとなっています。また、「人」への投資という意味で、博士号取得者や経験を積んだ外部人材を取り入れるインセンティブとなる、新たな類型も創設されます。

税制の対象となる試験研究の範囲についても、非連続なイノベーションへの挑戦を促すため、不断の見直しが求められ、新たなビジネスモデルの開拓につながるよう、サービス開発のための試験研究については、既存ビッグデータを活用する場合も対象とする等の見直しが行われます。

 

このように、企業経営者の皆さんにとっては、重要事項が多々あります。4月にはアズールシーズンセミナーを予定していますので、ぜひご参加ください。

 

令和5年1月18日 NISAの抜本的拡充・恒久化

令和5年度税制改正大綱では、家計の資産を貯蓄から投資へと積極的に振り向け、資産所得倍増につなげるため、NISAの抜本的拡充・恒久化を行うことが明記されました。私たちの資産形成に大きな影響が考えられますのでご紹介します。

 

具体的には、若年期から高齢期に至るまで、長期・積立・分散投資による継続的な資産形成を行えるよう、非課税保有期間を無期限化するとともに、口座開設可能期間については期限を設けず、NISA制度を恒久的な措置とします。あわせて、個人のライフステージに応じて、資金に余裕があるときに短期間で集中的な投資を行うニーズにも対応できるよう、年間投資上限額を拡充するというものです。

一定の投資信託を対象とする長期・積立・分散投資の枠(「つみたて投資枠」)については、現行のつみたてNISAの水準(年間40万円)の3倍となる 120 万円まで拡充します。

加えて、企業の成長投資につながる家計から資本市場への資金の流れを一層強力に後押しする観点から、上場株式への投資が可能な現行の一般NISAの役割を引き継ぐ「成長投資枠」を設けることとし、「つみたて投資枠」との併用を可能とします。「成長投資枠」の年間投資上限額については、現行の一般NISAの水準(年間120 万円)の2倍となる240万円まで拡充することになります。

これにより、年間投資上限額の合計は360 万円となり、英国ISA(約 335 万円)を上回る規模が実現する、と大盤振舞いです。

 

一方、投資余力が大きい高所得者層に対する際限ない優遇とならないよう、年間投資上限額とは別に、一生涯にわたる非課税限度額を設定することとします。

その総額については、老後等に備えた十分な資産形成を可能とする観点から、現行のつみたてNISAの水準(800 万円)から倍増以上となる1,800 万円とし、また、「成長投資枠」については、その内数として現行の一般NISAの水準(600 万円)の2倍となる1,200 万円とするとされました。NISA制度は安定的な資産形成を目的とするものであることを踏まえ、「成長投資枠」について、高レバレッジ投資信託などの商品は投資対象から除外するなどの規制も行われます。

 

新NISAでは、非課税保有期間が無期限となり、途中で売却した場合でも累計の非課税枠が復活する仕組みになり、非課税となる買付額は最大で1800万円です。かつて金融庁が「老後2000万円問題」を取り沙汰した際は、大きな話題となりました。この問題を巡っては、現役時代も厳しいのに、さらに老後のために2000万円が必要だというショッキングな内容がクローズアップされました。しかし、問題の本質は別の部分にあり、金融庁が本来指摘したかった点は、長期の積立投資でその資産を形成することも不可能ではないという点でした。

 

なお、現行の一般NISA及びつみたてNISAについては、令和5年末で買付を終了することとされ、非課税口座内にある商品については、新しい制度における非課税限度額の外枠で、現行の取扱いを継続するとのことなので、本年分の枠は活用できます 。

 

税制改正大綱では、「今回のNISA制度の抜本的拡充・恒久化が、金融経済教育の充実や利用者の利便性向上の取組みなどと相まって、将来にわたり家計による継続的な投資につながるとともに、投資未経験の方や、今は投資の機会に恵まれない方については、賃上げ等を通じた所得の底上げが将来的な投資につながることも期待される」と結んでいますが、どこまで広がるか未知数です。

 

参考:金融庁HP https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20221223_3/01.pdf

 

このように、資産家の皆さんにとっては、重要事項が多々あります。4月にはアズールシーズンセミナーを予定していますので、ぜひご参加ください

 

令和5年1月10日 65年ぶり大改正「相続・生前贈与」

新年あけましておめでとうございます。

令和5年度税制改正大綱を巡っては、早速、雑誌等で、「生前贈与『年110万円』節税効果激減」「65年ぶりのルール改正」「移行期間の2023年は『駆け込み節税』のラストイヤー」などの見出しが躍っています。

もともと、亡くなる直前に贈与して相続税から逃れることを防ぐため、相続開始(つまり死亡)3年前以内の贈与については、相続財産に加算して相続税を課税する「持ち戻し」という制度がありますが、このルールが1958年度の制度改正で作られたものなので65年ぶりというわけです。令和5年度税制改正大綱ではこの加算期間を7年に延長することが決まりました。この新ルールは2024年1月1日以後の贈与について適用されると明記されたことから、「2023年は『駆け込み節税』のラストイヤー」というわけです。

今回の改正で相続税の課税対象となる期間が延長されるのは相続人への贈与です。そのため、孫や子どもの配偶者など相続人以外への生前贈与を続けることは今後も有効な対策になります。

 

実は、この、毎年コツコツ贈与型を「暦年課税」「暦年贈与」といいますが、これと選択適用できる制度に「相続時精算課税制度」があります。利用者は、ここ15年間減少していますが、今回の改正では、こちらのインパクトが大きいです。

同制度を選択すると2500万円の特別控除額を適用でき、また、特別控除額を上回る課税価格に対して、その金額の多寡にかかわらず一律20%の税率によって贈与税が課税される制度です。これについては、令和6年1月1日以後に相続時精算課税適用者が父母・祖父母から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとするとともに、贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる財産の価額は、上記の基礎控除をした後の残額となるというわけです。

 

一方、「タワーマンション節税」は増税が予告されました。具体的な時期及び内容は明記されておりませんが、一部のマンションにつき市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離していることにつき、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化が検討されることとなるようです。

 

このように、資産家の皆さんにとっては、重要事項が多々あります。4月にはアズールシーズンセミナーを予定していますので、ぜひご参加ください。